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2007年12月20日

“石油難”の前に食糧難?

 アメリカで32年ぶりに、自動車の燃費基準を大幅に厳しくする法律が成立した。地球温暖化抑制の観点からは、このことは大いに歓迎しよう。ところが、この法律には“行き過ぎ”とも言うべき別の規定が含まれていて、これが来年以降の世界を食糧難をもたらす可能性が指摘されている。「エネルギー独立・安全保障法」(Energy Independence and Security Act)というその名前から分かるように、この法律は9・11を初めとするテロによる脅威と、中東などの外国にエネルギーを依存するアメリカの現状とをリンクさせて考えている。つまり、イスラーム原理主義によるテロの脅威は、アメリカが無理をして中東からエネルギーを輸入しなければならないという海外依存体質が大きな原因になっている、との認識がある。だから、①国内のエネルギー効率を飛躍的に向上させ、かつ、②可能な限りエネルギーを自給することで国家の安全保障に寄与しよう、というのだろう。この①の目的で定められたのが、自動車の燃費基準の大幅な厳格化だ。
 
 19日の『日本経済新聞』夕刊によると、新法が定めているのは、乗用車の燃費基準は、現行の1ガロン当たり「27.5マイル」から最終的に「35マイル」に、SUVを含む小型トラックは、現行の「22.2マイル」から同じく「35マイル」まで引き上げることだ。これを日本式表現になおすと、前者は1リットル当たり「11.7キロ」の現行基準を「15キロ」まで、後者は「9.4キロ」のものを同じく「15キロ」まで引き上げることになる。この程度の燃費基準ならば、現在でも多くの日本車は基準を満たしているから、新法が2011年以降に段階的に基準を厳しくして2020年までに「15キロ」へもっていくというのは、技術的に大きな問題はないだろう。

 問題があるのは、②の目的のために、バイオ燃料を2022年までに年間360億ガロン(1330億リットル)利用することを義務づけている点だ。19日付の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、現行の目標値は2012年までに75億ガロン(278億リットル)だから、その10年後にはバイオ燃料の利用量は約5倍にまで膨れ上がることになる。このバイオ燃料には、食料として使わないトウモロコシの茎や、麦わらなどを原料とするものも含まれるが、同法にはトウモロコシなどの穀物そのものから作るバイオエタノールの量を「150億ガロン」に増やすことも定められているという。このことが、同じ土地を食糧とエタノールが奪い合うという問題を深刻化することが懸念されているのだ。

 多くの読者は、現在のエタノール・ブームによっても、食品全般の値上がりが起こっていることをすでにご存じだろう(今年9月7日3月23日の本欄参照 )。11日の本欄では“物価の優等生”と言われてきた日本の牛乳の値段が、来春から30年ぶりに上がることを書いた。これは“氷山の一角”にすぎず、砂糖やダイズや小麦も、このところ急ピッチな値上りが続いている。例えば、19日の『日経』は、穀物の国際価格が歴史的な高値圏にあることを受けて、全国農業協同組合連合会(全農)が家畜向けの配合飼料を1月から値上げすると発表した、と伝えている。配合飼料の原料には、トウモロコシのほかダイズも含まれている。また、シカゴ商品取引所での小麦の国際価格も、過去最高値を更新したと伝えている。
 
 こういう穀物や食品の値上がりの1つの原因が、バイオ燃料の需要増大である。つまり、地球上の耕作地の面積はほぼ一定だから、そこで栽培される作物が自動車用のバイオ燃料の生産に回されれば、人間や家畜が食べる分はそれだけ減ってしまう。すると、需要と供給の関係で当然、穀物や食品の値段が上がるから、貧しい国では食料不足が起こるのである。この食料不足をなくそうとするならば、単位面積当たりの収量を増やすか、あるいは耕作地の面積を増やさねばならない。現在、採られている方策は後者が主体であり、その方向には「森林破壊」がある。インドネシアやブラジルの森林で焼畑や、違法伐採が続いているのも、そういう理由が大きい。
 
 しかし、バイオ燃料活用の効果には“善い面”もあり、そのことは別の機会に書くことにする。
 
 谷口 雅宣

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コメント

この食料問題、値上げ問題は全てアメリカに依存している現状を示すものであり、わが国をはじめ資源や技術力が乏しく自給出来ない国々の宿命の様に思われます、エネルギーを海外に依存しているアメリカがエネルギーの自給を考えても止むを得ないのではないか、他国の為に考えるのは止めよ!とまでは言えない、従いまして今後耕作面積を増やす為の焼畑や違法伐採を無くする為にも食料と競合しない茎、藁、竹、雑草から抽出するバイオ燃料の早急な技術開発が特に先進国には急務として求められているのではないか、又その方向に進んで行くだろうと思います。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年12月23日 11:35

尾窪さん、

>>この食料問題、値上げ問題は全てアメリカに依存している現状を示すものであり、わが国をはじめ資源や技術力が乏しく自給出来ない国々の宿命の様に思われます、<<

 「わが国の宿命」とは大げさですね。私は、そうは思いません。大体、日本に「資源や技術力が乏しい」という評価は間違っていませんか? 日本には、広大な海域があり、豊かな森林があり、人的資源も豊富で、技術力は世界のトップクラスではありませんか! これに太陽光、風力(台風を忘れてはいけません)、潮力、地熱……などと考えていけば、貴方が「宿命」とおっしゃることは、「日本の自己限定」と同義になるのではないでしょうか?

投稿: 谷口 | 2007年12月24日 10:16

谷口雅宣副総裁様
確かに仰られる通り私も日本は全てに於いて技術力は世界でトップクラスだと思います、知恵を出せば資源も有るのでしょうが文面において日本も他の低開発国も一緒にしてしまっておりました、私が言いたかったのは「アメリカや発展途上国が需給関係により如何にダイズ、小麦、トウモロコシ等々穀物の値上げをして来ても、どんなに技術力がある日本と言えども現状の農業規模では太刀打ち出来ない現実がある」と言う事です、ガソリン同様値上げされてもどうしようもないのです、日本に購買力が有れば値上げは吸収するでしょうが物価の安い低開発国ではまさに死活問題、此処にも世界規模での二極化と言う歪が現れる原因があると思います。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年12月24日 12:24

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