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2007年12月 6日

アメリカのイラン政策の誤り

 アメリカのブッシュ大統領が推めてきたイランの核開発に対する制裁論議の根拠が、怪しくなってきた。このほど出された国家情報評価(National Intelligence Estimate, NIE)が、「イランは2003年秋に核兵器開発計画を停止し、今年中ごろまでその計画を再開していない」し、「現在も核兵器開発を意図しているかどうか分らない」という内容の評価をしていることが明らかになったからだ。ブッシュ氏は今年10月に、「第三次世界大戦を防ぎたいならイランに核兵器製造の知識を与えてはならない」などと物騒な警告を発し、12月1日には、パリで開かれた国連安保理常任理事国とドイツの6カ国の局長級会合で、イランへの制裁強化決議案の早期策定が合意されたばかりだ。アメリカの情報機関の判断と大統領の判断に食い違いがあるという事実は、イラク戦争開戦に際しての大統領の判断の誤りを想起させるもので、今後のアメリカの中東政策に影響を与えそうだ。
 
 6日付の『朝日新聞』によると、ブッシュ氏は4日の記者会見で、今回のNIEについて「報告書の内容を知ったのは先週のことだ。マコネル国家情報長官から今年8月に“新しい情報がある”とは知らされていたが、内容は聞かなかった。分析に時間がかかるとのことだった」と弁明したというが、野党・民主党の議員たちは「それは信じられない」と一斉に反発し、イラク攻撃開始前の大量破壊兵器開発疑惑に似た情報操作だとの批判も上がっているという。
 
 問題は、このNIEという文書の性格だ。5日付の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、NIEとはアメリカにある16の情報機関すべての合意した見解(consensus view)を表しており、今回の合意はここわずか5~6週間前(several weeks)に達成されたという。そして、この見解に至る原因となった情報は、今年の夏に諜報活動から得られたもので、この新情報により、米議会に提出されるNIEの時期が今春から今月に遅れたらしい。この遅れは、2002年に出されたNIEが、イラクの大量破壊兵器開発計画について誤った見解を出し、それがイラク戦争の原因の1つになったことを反省し、慎重な判断を選んだためという。今回のNIEも米議会の要望を受けたもので、その内容は、ブッシュ大統領の判断よりも国際原子力機関(IAEA)の判断に近い内容になっている。IAEAのエルバラダイ議長は、イランの核開発計画が「発電だけが目的なのか、兵器への使用も意図しているのか確認できなかった」と結論している。

 6日付の『産経新聞』は、今回のNIEに対するイギリスのシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のフィッツパトリック上級研究員の評価を掲載しているが、それによると「通常NIEは機密扱いだが、今回、イランの核兵器計画の評価が大きく変わり政策決定への影響が避けられないため、広く知らせることが大切だとの情報機関の明確な意思決定に基づき公表された。リークではない。政治的意図もない」という。もしそうだとすると、2005年に同じNIEが出した「国際的な責務や国際社会の圧力にもかかわらず、イランは核兵器の開発を決断した」(同紙)という評価が明らかな誤りであったことを示しており、アメリカの情報機関の信頼性に(イラクに続いて)再び疑問を投げかけるものとなる。国家安全保障担当の大統領補佐官、スティーブン・ハドレイ氏(Stephen Hadley)は、記者会見でこの点を指摘され、「イランは、諜報活動をするには世界有数の困難な国だ。機密保持の点では、彼らは極めて優れている」と言ったという。(5日付『ヘラルド・トリビューン』)
 
 私は学生時代に国際政治を勉強したとはいえ、現在は素人並みの知識しかない。だから、今回の問題についてアメリカの情報機関の責任を問うつもりは毛頭ない。それよりも読者に気づいてほしいことは、アメリカのように国力、技術力において優れている国でも、他国--特に、文化や政治体制が大きく異なる国については、その実情を知ることは困難であるということだ。また、そういう相手国に対して、国家元首たる大統領が“悪の枢軸”などと断定的に決めつけることが、どれほど危険なことかを知らなければならない。相手を一度“悪”呼ばわりすれば、キリスト教文化の文脈の中では、よほどのことがない限り、その相手と戦わなければならないからだ。そういう心理的“足かせ”を作り上げた中での諜報活動が、客観的判断を妨げることは十分考えられるだろう。その点で、ブッシュ氏の外交政策は、イラクに続き、イランに対しても誤りだったと言わなければならない。

 しかし、今回のNIEの発表にも“善い面”がある。それは、これによって、イランへのアメリカの武力攻撃の可能性が遠のいたことである。また、頑固なブッシュ氏の“心変わり”を示すとしたら、喜ばしい。少なくとも、国連を舞台とした武力制裁は当面なくなった。そして、国連の枠組みを外れた武力制裁は、イラク戦争を経験したアメリカ国民が許さないだろう。我々も、「平和維持のためには外交努力の積み重ねが重要である」ことを学ぶのである。
 
 谷口 雅宣

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コメント

世界平和を考えます時にどうしても突き当たるのが国力、技術力、軍事力で圧倒的な優位、力を持っているアメリカの存在をどうする事も出来ません、本来は「国連」が全ての面でアメリカを圧倒的に上回る力を持って、例えば拉致の問題にしても領有権や経済紛争、内戦にしましても裁定実行権を持っていれば人類は如何に無駄な努力をする事なく人間の生命、財産を守ることが出来るか知れません、しかし、現状は国連の枠組みを外れた武力制裁がなされていても、武力闘争があっても、只成り行きを見ているだけ、強制力の無い意見を述べるだけです、第三次世界大戦を防ぎたいならイラン問題ではなく、アメリカ自身が単独行動を取らないで、国連の決議に従い、例えアメリカに不利であっても全面協力する事ではないでしょうか!

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年12月 6日 23:41

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