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2007年12月22日

バイオ燃料の“光明面”

 本欄では、これまでしばしばバイオエタノールやヤシ油の急速な利用に伴うデメリットを語ってきたので、読者の中には「バイオ燃料は悪い」との誤解が生じているかもしれない。そこで今回は、この燃料の“善い面”に焦点を当てて考えてみたい。

「バイオ燃料」(biofuels)などとカタカナ混じりの言葉で呼ぶと、まるで何か最先端の科学研究の成果のような印象を与えるかもしれないが、この燃料は、人類が太古から使ってきたごく普通の燃料--薪、藁、柴、炭--などと密接な関係をもった概念である。つまり、生物由来の燃料で、化石化していないものをバイオマス(biomass)と呼ぶが、そこから抽出される液体燃料と混合ガスのことを指す。昔、日本では、石油禁輸中にサツマイモを原料としたバイオエタノールを使ったことを忘れてはならない。

「バイオ燃料.com」によれば、「バイオ燃料は、生物体(バイオマス)の持つエネルギーを利用したアルコール燃料やその他合成ガスのこと」である。また、米エネルギー省傘下の研究機関であるアメリカ再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory, NREL)の説明には、「バイオマスは他の再生可能エネルギーとは異なり、“バイオ燃料”という液体燃料に直接変換することができる」とある。また、ワールドウォッチ研究所の『地球環境データブック』の定義は「植物などのバイオマス由来の液体燃料」である。とすると、「混合ガス」を含むか含まないかで、日米間の考え方にまだ若干の差があるようだ。

 代表的なバイオ燃料は、エタノールとバイオディーゼルである。エタノールは現在、サトウキビ、トウモロコシ、小麦、大麦などの穀物を主原料としているが、これをトウモロコシの茎、稲や麦の藁、竹、スイッチグラスと呼ばれる雑草などから抽出する研究が進んでいる。一方、バイオディーゼルは、植物性油と動物性油脂を原料として作られており、上記のNRELによると、アルコール(普通はメタノール)と植物油、動物の脂、廃油などを加えて精製する。いずれのバイオ燃料も、原料の元をたどれば植物による光合成に行き着くから、太陽エネルギーを液化したものと見なされる。

 地球温暖化抑制の観点から見て重要なのは、これらのバイオ燃料のエネルギー量と、それを製造するために使われる化石燃料のエネルギー量との比較である。前者が後者に比べて大きければ大きいほど、温暖化抑制に役立つことになる。この差が大きい--つまり、温暖化抑制効果が大きい--ものから並べると、①雑草などの植物繊維由来のエタノール、②ヤシ油由来のバイオディーゼル、③サトウキビ由来のエタノール、④植物性の廃油からのバイオディーゼル、⑤ダイズ由来のバイオディーゼル、⑥ナタネ由来のバイオディーゼル、⑦小麦、テンサイ由来のエタノール、⑧トウモロコシ由来のエタノール、の順となる。ただし、この順位は、現在の製造工程にもとづいているから、新しい省エネの製造法が開発されれば当然、変化する。
 
 この順位を見ればわかるように、同じバイオエタノールでも、米国産(トウモロコシ由来)のものとブラジル産(サトウキビ由来)のものとでは温暖化抑制効果は違うのである。日本で現在使われているバイオエタノールは、フランス産の小麦を原料としたものだから、ちょうどその中間的位置にある。日本政府は現在、沖縄産のサトウキビを原料としたエタノールの生産に力を入れているが、その判断は合理的と言える。しかし、サトウキビは食品の原料でもある。だから、本命は何と言っても、食料と競合しない雑草などの植物繊維由来のものだ。したがって私は、この分野の技術開発に是非、官民挙げて全力で取り組んでほしいと思うのである。
 
 谷口 雅宣
 
【参考文献】
○クリストファー・フレイヴィン編著/福岡克也監訳『地球環境データブック 2006-07』(2007年、ワールドウォッチジャパン刊)
○「バイオ燃料.com」、(http://バイオ燃料.com/)

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コメント

私は情報の流れを見ているだけで技術的な事は全く分かりませんが副総裁が仰られます通りだと思います、きっとその方向に進んで行き、必ず成功して化石燃料不要の時代が来るものと確信しています、残念ながらその光景を見る事は無いでしょうが、、(泣)。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年12月22日 22:22

谷口雅宣先生

 合掌、ありがとうございます。
 私も今朝の新聞で嬉しい記事を見つけました。来年度国家予算原案に対する復活折衝の記事ですが、その中に「山中伸弥・京都大教授が開発した万能細胞の応用研究を支援する経費として10億円の追加」と、「稲わらや間伐材を使ったバイオ燃料の生産拡大のための経費69.3億円」がそれぞれ認められた、と讀賣新聞に報じられていました。
 副総裁先生の長年に渡るご主張が、政府をも動かしたのではないか、と私には思え、感動が込み上げてくるとともに、次のご文章を思い出しました。
「しかし、国家予算の配分を決めるのは結局、人間(国民)の心である。人々の心(意識)を高める宗教の活動は、だから大変重要なのである」(『小閑雑感』PART8 P314)
 これからも人々への啓蒙活動に邁進致します!
                   竹村 正広 再拝

投稿: 竹村 | 2007年12月23日 19:14

竹村さん、

 読売の情報、ありがとうございます。日本にもまだ望みがあるということですネ!

>>副総裁先生の長年に渡るご主張が、政府をも動かしたのではないか、と私には思え、感動が込み上げてくるとともに<<

 この表現は大袈裟ですね。私の主張というよりは、誰にも宿る“内部神性”の発現だと思います。山中教授のインタビュー記事などを読みますと、同教授は、ご自分の子供の姿と研究室の受精卵の姿が重なったとおっしゃっています。それによって「受精卵を使わない再生医療」を決意されたのです。

投稿: 谷口 | 2007年12月24日 10:21

"万能細胞"や食料と競合しないバイオ燃料生産拡大への国家予算への増額は「誰にも宿る"内部神性"の発現」が素晴らしい連鎖効果をもたらしたと言う事ですね、各界に於いて人類の最先端を行く人達にこの確かなる"仏性"が顕現されて行く限り人類の未来は栄光に光り輝いているとますます確信して参りました。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年12月24日 11:29

副総裁先生

お誕生日、おめでとうございます!
日頃のご指導に心から感謝申し上げますと共に、
これからも益々ご健勝にて、私たちをお導きくださいませ。

山中教授の研究の根底に流れるご心情、はじめて知りました。そういえばアル・ゴアさんも映画「不都合な真実」の中で、6歳の息子さんを交通事故で失いかけたとき、自分の中の優先順位が変わった、と言っていたのを思い出しました。
万人に宿る“内部神性”を信じて運動することの大切さを再確認いたしました。
                 

投稿: 竹村 正広 | 2007年12月24日 14:15

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