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2007年12月29日

2007年を振り返って

 まもなく幕を閉じようとしている今年を、ここで振り返ってみよう。まず言えることは、今年は地球温暖化問題において“世界的合意”が達成された年ということだ。すなわち、人間の活動によって地球温暖化が進行しつつあり、人類が今後温室効果ガスの排出を削減しない限り、温暖化による被害が経済発展を“帳消し”するどころか、経済にマイナスの効果を及ぼすことがほぼ確実である、との認識で一致した。今年2月から次々に出されたIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)による4次の報告書が“科学者の総意”を明確に示しただけでなく、その内容に沿った危機意識をアル・ゴア氏が映画『不都合な真実』(An Inconvinient Truth)や同名の著書で一般人の間にも広め、アカデミー賞だけでなく、IPCCと共にノーベル平和賞まで受賞してしまった。それ以降、温暖化懐疑論は鳴りをひそめ、アメリカのブッシュ大統領まで温暖化抑制を口にするようになった。これは、世界の“良心”が“迷妄”に勝利した証左と言えるだろう。
 
 これによって、地球温暖化問題は抑制のための「政策」論議に焦点が移っている。が、まだその方向性は定まっていない。昨年の同じ時期、本欄で1年を振り返ったとき、国際政治の現状では、今後の世界は「原子力エネルギーの重視と、二酸化炭素の地下固定の技術を大幅に取り入れることによって、当面の温暖化の流れを最小限に食い止めながら、BRICs諸国を初めとした途上国は、“先進国型”の工業・技術社会を目指して進む」と予測した。この予測は、今の時点でもそれほど外れていないと思う。ただし、「地下固定」には「海底固定」が含まれる可能性が増してきており、“京都後”の枠組みを決める今後の国際交渉で画期的な制度が実現すれば、温暖化対策の中心は原子力から他の方向へ移っていく可能性はある。私は、化石燃料や原子力の利用よりも、再生可能の自然エネルギーの利用を促進することが、長期的に考えて、人類にとって最勝の方策であると考えている。
 
 ところで、温暖化問題が21世紀の人類最大の長期的課題だとしても、短期的、中期的には、イスラーム原理主義が関わるテロリズムや政治的問題の深刻さは、看過できない段階にある。地球温暖化問題に対する“合意”に加えて、今年もう1つ世界で合意されたことは、イラクを含むアメリカの中東政策が失敗だったということだろう。アメリカの自動車社会・消費社会を支えるために、文化・思想・信仰において大いに異なる産油国と同盟関係を結ぶと同時に、それらの国と敵対関係にあるイスラエルと密接な関係を保つという“二重基準”は、宗教的原理主義の台頭の前では認められなくなりつつある。これに加えて、原子力の利用技術が拡大し、兵器への転用の危険が増すにつれて、中東問題は地域的制約を超えてグローバルな核戦略にも影響を及ぼしつつある。つまり、アメリカが“イランの核”に備えて東欧にミサイルを配備することが、ロシアの核戦略に変更をもたらしつつあるのである。これに加えて、パキスタンでのブット元首相の暗殺が起こり、この地域の情勢はきわめて流動的であり、予測は困難だ。
 
 中東問題はエネルギー問題と密接に関係しているが、今年に入って世界のエネルギー利用において大きく変化したのは、バイオエタノールなどのバイオ燃料の利用が急速に進んでいることだ。石油や天然ガスの利用が地球温暖化を促進するだけでなく、不安定な海外の政治状況に左右されるという点を反省したアメリカが、自国産のトウモロコシを大量にエタノールに転換して利用する政策を実行している。これによって穀物が高騰しているだけでなく、食品全般の値上がりを招いていることは、本欄でも何回も書いてきた通りである。バイオ燃料の利用が進むもう1つの原因は、世界全体で石油の生産量が上がらず、値段が高値に張りついたままだからだ。これが産油国の政策的配慮なのか、それとも“石油ピーク”の到来なのかは、はっきりしていない。もし後者である場合は、バイオ燃料の需要は今後ますます伸びていくから、食料と競合しないバイオ燃料が開発されない限り、世界の貧困層の犠牲が増大するだろう。それは、気候変動とも相まって、政情不安を引き起こす要因になるのである。
 
 このように考えてくると、人類が今後、化石燃料にたよらず、核拡散ともつながらず、しかも食料とも競合しない方法でエネルギーを得ることは、世界の平和と密接に結びついていることが分かる。別の言い方をすれば、そのようなエネルギーの利用技術を開発することが、世界平和に貢献するのである。私は、日本こそまさにそういう技術と資本力と人的資源をもった国と考えるから、自然エネルギー利用技術を国策として大いに振興すべしと訴えてきたのである。
 
 谷口 雅宣

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コメント

合掌ありがとうございます。

本年も地球温暖化問題をはじめ、
イスラーム社会への理解の必要性、
万能細胞による再生医療と生命倫理など、
多岐にわたる分野の最新の話題を取り上げていただいてありがとうございました。

実際生活に信仰を活かしていく信仰者として、
社会で起こるニュースをどのように捉えるかというのは、
大変大きな課題であります。
そういう意味でも先生のブログはとてもありがたい存在です。

来年も楽しみにしております。
ありがとうございます。

再拝

投稿: 古谷伸 | 2007年12月30日 07:37

ありがとうございます。

 本年も、沢山の記事をありがとうございました。報道では暗いニュースの目立つ年でありましたが、「日時計主義」に基づいて生活してみると、世の中にはまだまだ楽しく微笑ましい出来事が溢れていると気付かせていただきました。
 本ブログは時事に関する鋭いご分析とともに、心温まる動画も時としてあり、毎回のアクセスが楽しみになります。
 
 本記事末尾の件は私も同感でありまして、自衛隊の海外派遣等々も確かに大事なものでありましょうが、そうした事のみが何かしら国際社会への貢献の全てであるかの如き昨今の風潮には疑問を感じます。様々な分野に卓越したものがありながら、日本はずっとそれを真に発揮出来ずに来たように思います。

投稿: 長瀬 祐一郎 | 2007年12月31日 14:34

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