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2007年11月 7日

子供の学力は向上した?

 ジャーナリストの池上彰氏が11月5日の『朝日新聞』夕刊紙上で、「日本の子供の学力は向上しており、都市と地方の学力の差は縮小している」という話を書いている。これまでメディアを通して伝わってきた「学力低下」と教育の「地域格差拡大」という“常識的”な理解とは大いに違うので、驚いた。池上氏の記事は、文部科学省が先月24日に公表した全国学力調査の結果をもとにしているのだが、そんなに“常識”と違う結果が出たのなら、さも大きなニュースになっただろうと思うのだが、この“明るいニュース”は私の記憶にはないのである。不思議に思って、文科省の発表を受けた当時の新聞を探した。すると、各紙は25日の朝刊で伝えているのだが、第1面の見出しは次の通りである:
 
 「知識の活用 苦手」「学力調査結果を公表」「文科省」(朝日)
 「記述・思考は苦手」「全国学力テスト」「改善へ“地域力”活用を」(産経)
 「知識の活用力に課題」「全国学力テスト」「正答率6-7割 地域間でばらつき」(日経)

 これらの見出しを読む限り、池上氏の書いていることとは異なる報道がなされたかのように見える。そして、それぞれの記事をよく読んでみると、ますます問題のありかが分からなくなった。上記のうち『朝日』と『日経』は「知識の活用」について問題があるような見出しだが、これは「知識」を問うA問題が7~8割の正答率だったのに比べ、知識を「活用」できるかどうかを問うB問題の正答率が6~7割だったという比較上の問題なのだ。しかし、これは基本的知識とその応用力との差だから、両者が等しいとは考えられないし、この程度の違いは、我々大人だってあるのではないかと思う。
 
 それよりも私が驚いたのは、A問題の正答率の高さだった。新聞には全国の平均値が表示されているが、それによると小学6年の国語Aの正答率は「81.7%」、国語Bは「63.0%」、算数Aは「82.1%」、算数Bは「63.6%」。中学3年の国語Aは「82.2%」、国語Bは「72.0%」、数学Aは「72.8%」、数学Bは「61.2%」だ。確かにB問題の点は「優秀」とは言えないが、A問題は数学Aが7割強、それ以外は8割を上回っている。100点満点の試験で平均点が70点を上回れば、素直に「成績がよかった」と言ってはいけないのだろうか、と思う。
 
 この点を、新聞各紙は問題にしているフシがある。つまり、学力は落ちているはずなのに、それが学力調査に反映されていないというのである。『朝日』は上記の記事で、「漢字の読み書きや計算問題など、過去の調査と同様の問題では正答率が上がっているものが多い」と書いているが、そのことが不満のようで、2日後の27日付の紙面では、専門家の言葉として「この結果だけでは過去との比較ができなので、学力が向上したとは言えない」と書いている。『産経』は25日の紙面で、Aテストの成績が良かった点について解説し、「学力低下批判に対し、学校現場ではドリルや暗唱など“反復”練習を充実させるなど学力向上に取り組み始め、今回、基礎力は一定水準を保ったといえる」としている。また、同紙は「主張」欄でも、「学力低下が懸念される中、今回は改善もみられる。平均だけをみると基礎問題の結果は8割の出来だ」と認めている。にもかかわらず、同じ日の別の面に掲載された記事では、これを否定するように、「ここ数年いわれてきた学力、特に基礎・基本の低下は数値に反映されなかった」と書いている。
 
 これらの記事の論理は、矛盾していると私は思う。今回の学力テストというものは、実際のサンプル調査である。しかも、小学6年生が113万9492人、中学3年生が107万7209人が参加するなど、サンプル数が大きいから、調査結果への信頼性も大きいと考えるべきだろう。これに対して、実際の教育現場で教師が子供と付き合いながら得ている印象も、サンプル調査の一種である。が、この場合はサンプル数が小さいから、信頼性もそれに応じて小さいと考えるべきではないのか。とすると、信頼性の大きい調査の結果が、信頼性の小さい調査の結果と違う場合は、後者が間違っている可能性をまず考えるべきではないのだろうか。また十歩譲って、今回の調査結果が信頼性に欠けると判断する理由があるならば、まずその理由をきちんと書き、信頼性のない今回の調査結果からデータを取り出して何かを言う--例えば「知識の活用に問題がある」などと言う--ことは控えるべきではないだろうか。「信頼性のないデータだが、自分の主張に合っているから使おう」というのは、少なくとも科学的態度ではない。
 
 私はもちろん、この問題については全くの素人である。だから、日本の子供の教育について「学力は向上している」とか「現状でいい」とか言うつもりはまたくない。が、大規模な実地調査を行ったにもかかわらず、その結果を信頼せず、信頼しない理由も書かないというメディアの態度に、何か不合理なものを感じるのである。
 
 調査結果については、文科省の国立教育政策研究所のウェッブサイトを参照。
 
 谷口 雅宣
 
 

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コメント

今回の学力調査に致しましても、何の報道に関しましても"メディア"の態度と言うものはこんなモノだと思います、しかし多くのリアル情報源としてメディアに優るものがなかなか見当たらない現況に置きましてはその中から取捨選択して本質的なもの真実なるものを読み取り、迷わされない様に、自ら判断して行かなくてはならないのではないか?と思います。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年11月 8日 14:26

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