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2007年11月12日

天皇陛下とブルーギル

 ブラックバスとともに琵琶湖の生態系を壊した外来魚として知られるブルーギルが、天皇陛下がアメリカで寄贈されたのを持ち帰ったものだということを、陛下ご自身が初めて言及された。12日の『朝日新聞』夕刊などによると、天皇陛下は11日に大津市で開かれた「全国豊かな海づくり大会びわ湖大会」に出席された際、「ブルーギルは50年近く前、私が米国より持ち帰り、水産庁の研究所に寄贈したものであり、当初、食用魚としての期待が大きく養殖が開始されましたが、今このような結果になったことに心を痛めています」と述べられたという。

 これはもちろん、陛下が持ち帰られた魚が直接自然界に放たれて、今日の生態系の破壊を起こしたということではない。この記事には、宮内庁の情報として、陛下は皇太子時代の1960年に訪米されたとき、シカゴ市長から寄贈されたブルーギルを、食用や釣りの対象になればと思われ、水産庁の研究所に寄贈された、とある。それが1963~64年ごろ、国から滋賀県の水産試験場に分与されてから、何らかの原因で60年代末までに一般の水域で見られるようになったという。また陛下は、ブルーギルについて「おいしい魚なので釣った人は持ち帰って食べてくれれば」と側近に話されていた、とも書いてある。

 こういう話がもっと前に人々に知られていれば、ブルーギル料理やそれを材料とした佃煮などが琵琶湖などの各地の名産になりえたのではないか、と思う。それとも、知らなかったのは私だけなのだろうか? そう思って、ネット上の辞書を調べてみると:
 
『大辞泉』--サンフィッシュ科の淡水魚。全長約20センチ。体形はタイに似て、灰褐色で、えらぶた後端が黒っぽい。北アメリカ原産で、日本には昭和35年(1960)渡来。原産地では40センチに達する。ルアー釣りの対象。

『大辞林』--スズキ目の淡水魚。全長 25cm ほど。体は卵円形で側扁する。背は緑褐色で腹部は淡い。雄の鰓(えら)の後端が青黒く見える。北アメリカ原産で、1960 年に湖沼に移入された。その後分布が全国に広がり、在来種への影響が懸念されている。釣りの対象魚。

 とあるだけで、陛下のことに何も言及がない。自宅にある平凡社の『世界大百科事典』(1988年)にも、日本への移入については年代も経緯もはっきり書かれていない。 わずかに講談社の『大辞典 desk』(1983年)に、「1960年、皇太子が渡米の際、シカゴ水族館から贈呈され、一部を静岡県一碧湖に放流」とあった。

 当時の日本は食糧難で、繁殖力の旺盛な淡水魚を日本に移植することで、国が問題の解決を図ろうとすることは理解できる。しかし、その後、生態系のバランスの微妙さや複雑さが知られ、生物多様性の重要性が認められるようになったことで、外来種の移植は今では“禁じ手”となった。天皇陛下は、生物学者としてそのことを痛いほど感じておられるだろうから、今回のようなお言葉になったのだろう。このように率直に、過去の過ちを認められる陛下に、私は大きな感銘を覚えるのである。
 
 前回の本欄で、シカの被害を緩和する方策として「シカ肉を食べる」という手段を考えてみたが、今回は「ブルーギル料理」が選択肢に上がってきたようだ。この魚を、私はまだ見たことも口にしたこともないが、この辺の事情に詳しい読者からご意見をいただけると幸甚である。
 
 なお、上記の陛下のお言葉については宮内庁のサイトで全文が読める。

 谷口 雅宣

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コメント

詳しくはありませんが近くのダムや池にブラックバス、ブルーギルは幾らでもいます、ブラックバスはルアー釣りでブルーギルは浮き釣りで、今はやりませんが以前やった事があります、ブルーギルはミミズかご飯粒で簡単に釣れます、ブルーギルは小さく(10ー15cm)小鮒の様ですが鮒より身が薄くとても食用とは思えませんがブラックバスはシーバスに似て身も厚く、食べられそうです、テレビ番組でブラックバスをフライにして食べ「美味しい、美味しい」と言っていました、私は共に食べたことはなく、食べた人も知りません、山育ちの者ですから戦後一時期淡水魚を食べたことがあり、海の魚の方が美味しいなと思った記憶が残っています、ブルーギルはともかくブラックバスは何とかならないかなあ!小魚が殆ど生息出来ないから、、と常々思ってはいます、鮎やヤマメ同様に食用に定着すればすぐに解決出来ると思いますが現状では海の魚が多種多様で常時豊富に存在していますので定着するのは難しいのではないかと思います。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年11月13日 01:38

 ブラックバスは、昔、近所の池で釣ったものをフライにして食べました。白身で淡泊、大味といえば大味ですが、癖はありませんでした。
 ブルーギルは、腹のオレンジ色が不気味なので、食べたことがありません。鯛に似ているので、きっと美味しいだろうな、とは思うのですが(笑)。
 淡水魚は癖や臭いが気になる、と敬遠する人もいますが、問題は水でして、例えばフナは、上流で釣ったものは、実に美味しいですが、下流や平野部の湖沼のものは、変な臭いがします。地元の用水路で、フナの巻き網漁を見かけますが、食用とのことで、美味しくないという誤解の元だと考えられます。
 こういった点で誤解のないように、調理法が普及すれば、ブラックバスは総菜の原料などとして、有望だと思います。
 ブルーギルは、バスに比べて、非常に簡単に大量に釣ることができるので、美味しいのであれば、竿を持って池に出かけるのもよいなと思います。

投稿: 片山一洋 | 2007年11月17日 20:25

今琵琶湖のギルは、ビワコダイという名前で鮒寿司化を目指して研究開発中だそうです。

また、レシピもネットサーフィンしてるといきあたりました。東南アジア系のお料理に合うということです。

滋賀県丁ホームページを開くと、「琵琶湖」の分類の中に
「琵琶湖についての小事典・琵琶湖ハンドブック」という
PDFファイルがあります。

その中の第3章琵琶湖をみる・遊ぶ・食べるの中に、湖魚料理の作り方が載っていて、ギルのサラダレシピなどがあります。

陛下にご安心いただくためにも、キャッチ&イートする人を増やしたいものですね。。

投稿: はぴ☆まり | 2007年11月24日 16:22

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