環境税 見送られる
環境税の導入は、来年度は見送られることになった。自民党の税制調査会が29日、2008年度税制改正での環境税の導入を見送る方針を固めたからだ。30日の新聞各紙が伝えている。環境省は、温室効果ガスの排出量を炭素に換算して、1トン当たり2400円を課税し、税収を森林保全や省エネ家電の普及促進に充てる案を要望していたが、経済界の反対に弱い自民党の体質を覆すことができなかった。予想していたものの、残念なことである。一方、11月3日の本欄に書いた東京都の環境税構想については、都知事の諮問機関である都の税制調査会が同日、これを都独自の課税としての環境税導入の検討を求めるという中間報告をまとめた。
都の環境税構想の中身は既報の通りだが、国が実施を見送る中で、都だけが環境税を課すことの問題点はいくつかあるようだ。『日本経済新聞』が30日の記事でそれに触れている。都の現在の構想は、①炭素税、②電気・ガス税、③自動車税、④緑化税、の4段構えで、そのうちの全部ではなく、いくつかを組み合わせる方式が有力。しかし、炭素税のうちガソリンや灯油などへの課税、また自動車税は二重課税となり、電気・ガス税は電気料金やガス代の値上げにつながる。これを東京都民がどうとらえるかは、未知数だ。特にガソリンへの課税は、隣接県との価格差となって現れるだろうから、都県境付近のガソリンスタンドで不公平感が出るだろう。
上記の『日経』の記事は、今回の都の環境税導入の背景を分析して、都が目指している2010年までの温暖化ガス削減目標(1990年比で6%減)にもかかわらず、「04年時点でオフィスなどで28%増、家庭では9%増と歯止めがかからない」のが原因としている。石原知事がこの問題を真面目に考えるつもりならば、私はオリンピックの誘致など諦めていただくのが一番と考える。大規模な開発行為によって温暖化ガスの排出削減ができると考えるのは、いかにも不合理である。
ところで、日本のメディアでは大きな“よいニュース”が小さな記事になることがある。29日の『日経』夕刊のベタ記事(一段の小さい見出しがついた記事)に、アメリカの温暖化ガス排出量が5年ぶりに減少したという話が書いてある。「えっ、どこの国?」と読者は思わないだろうか? そう、京都議定書から脱退した世界一の温暖化ガス排出国で、つい最近まで「温暖化は人間の活動とは無関係」と言っていた、あのアメリカである。その国の06年の温暖化ガス排出量が、CO2換算で70億7560万トンとなり、前年を1.5%下回ったというのである。しかも、同じ年のアメリカの経済成長率は2.9%なのだ。エネルギー省の発表だ。
同省は今回の好結果の要因として、「天候」のほか「再生可能エネルギーによる発電の増加」を挙げたという。この天候について、同記事は「冬場に厳しい寒さが続かず、家庭での暖房の需要が下がったことが大きく影響したとみられる」と書いている。実は、2006年の排出量の減少は今年の5月にも同省から“速報値”として発表されていて、そのときの分析では、冬場の温暖な天候に加えて、石油、天然ガス、電力の値上りが原因とされていた。
28日付のロイター電によると、2006年の排出量減少は、この“温暖な冬”に加えて“涼しい夏”であったことと、石油の値上りによるエネルギー消費の減少が複合的に働いたものという。今回の発表は、190カ国が参加してインドネシアのバリ島でまもなく行われる温暖化抑制のための国際会議に先立って行われたもので、オーストラリアが政権交代により京都議定書に復帰する意向を示しているところから、アメリカの“成果”として示しておく必要があると判断したものだろう。京都議定書では、先進国は1990年のレベルより「5~6%」削減する義務があるが、今回のアメリカの数値は、同年のレベルをすでに17.9%上回っている。日本の数値が気になるところだ。
谷口 雅宣
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コメント
CO2排出NO1のアメリカがその気になれば温暖化防止は劇的に変化すると思います、今回の減少も理由が"たまたま"であって心もとないかぎり、「再生可能エネルギーによる発電の増加」のみに防止の意思が感じられ歓迎されます、世界をリードすると言う自負があるならば排出権を買ってでもアメリカは達成すると宣言して貰いたいものです、日本もこれに追随したならば野党とても批判や反対はしないでしょうね、、。
投稿: 尾窪勝磨 | 2007年12月 1日 18:41
オリンピック誘致の問題ですが、たとえ日本が誘致しないと言う事にしても何れかの国で行われるわけです、となりますといずれかの国によって膨大な開発行為は行われ、温暖化ガス排出はなされると言う事になりますから結局地球規模では同じ事、オリンピックを止める以外に方法は無くなります(牛の角を矯めて牛を殺す事にならないか?)、寧ろ先進技術を駆使できる日本の方が発展途上国より排出を少なく出来るのではないか?それに開催国の出場選手にとっては出場機会や応援の面でも非常に有り難いのではないか?と思うのですがいかがなものでしょうか?
投稿: 尾窪勝磨 | 2007年12月 2日 00:01
数日前にPG&E(Pacific Gas and Electric Company)に電気代を支払ったときに入っていた説明ではパワーの資源を以下のように説明しています(2007年度分)。
Coal 2%, Natural Gas 49%, Nuclear 24%, Large Hydroelectric 12%, Renewable 12%, and other 1%
このリニューアブルの内訳はバイオマス4%、地熱3%、small hydroelectric(何と訳せばいいのか知りませんが小規模水力発電?)3%、太陽光1%強、風力2%でした。説明では自慢げに1500万人の顧客の半分以上にカーボンゼロ排出で電気を送電しているということです。(On average, more than 50% of the electricity delivered to our 15 million customers emits no carbon.)
投稿: 川上 | 2007年12月 2日 04:12
合掌 ありがとうございます。
東京都の環境問題への取り組みは注目するところでありますが、オリンピック誘致もというのは私も矛盾を感じます。
東京都が独自に環境税導入に踏み切ったとしての他地域との“ズレ”、確かに都民からの様々な反撥なりが予想されますが、国レヴェルで行っていればそうしたものは生じ得ず、故に税制調査会が来年度の環境税導入を見送った事は残念でなりません。
「再生可能なエネルギーによる発電の増加」とともに、「石油の値上がりによるエネルギー消費の減少」も温室化ガス削減の一因に曲がりなりにもなっているわけですから、経済的要因もこれは有効であり、事実、私の周囲でもガソリンの値上がりによって無闇に自家用車を利用する事を控えたり、電気料金の値上がりにより家庭での省エネルギーに努めたりという動きが現れています。環境税はこうした点からも望ましいものと考えますが。少なくとも使途がいまひとつ不明確な消費税の税率引き上げよりは国民に許容され得るものと思います。
投稿: 長瀬 祐一郎 | 2007年12月 2日 18:13
尾窪さん、
>>オリンピック誘致の問題ですが、たとえ日本が誘致しないと言う事にしても何れかの国で行われるわけです、となりますといずれかの国によって膨大な開発行為は行われ、温暖化ガス排出はなされると言う事になりますから結局地球規模では同じ事、オリンピックを止める以外に方法は無くなります
なかなか鋭いご指摘ですね。原理的には、その通りだと思います。しかし、世界には数多くの国があるのに東京は2回目であるし、五輪誘致に皇室を利用しようとしているし……。京都議定書以降の温暖化抑制政策がどうなるか分りませんが、オリンピック開催により排出されるCO2を何らかの形で相殺する手段を考えねばならないと思います。それとのセットで五輪誘致ということであれば、反対する理由は少なくなりますね。
投稿: 谷口 | 2007年12月 2日 22:21
谷口副総裁様
東京でのオリンピックに「皇室を利用しようとしている」と言う所は良く分かりませんから是非の判断がつきませんが、東京都は地方に比べ都も住民も所得は高く、又世界の交通網からしましても、地方の私が言うのも変ですが日本でやるとすれば参加国にとっても最適の様に思えます、それに
"都独自の環境税導入"を検討している様ですので、シンプルに「炭素税として使い道はCO2排出削減か緑化吸収のみとする」と言う条件で是非成立させ、誘致で排出するCO2を相殺する手段にしてはどうでしょうか?石原都知事は温暖化防止に理解ある人の様に思えるのですが、、、。
投稿: 尾窪勝磨 | 2007年12月 3日 00:55
尾窪さん、
五輪の東京開催に、私は反対です。理由はすでに書きました。さらに、それに加えて言えば……
世界中から人が集まってくる場合、その土地の物価の高低も国によっては影響があると思います。東京の物価水準は、世界的に見てもかなり上位にありますから、貧しい国の人々には大変ですヨ。
投稿: 谷口 | 2007年12月 3日 13:17
副総裁先生
ありがとうございます。
私も東京への五輪招致は反対です。
理由は五輪のために大きな開発を考えていることと、まだオリンピックを開催していない国が優先されるべきだということです。
昭和39年10月に行われたオリンピックの時、私も五輪の松明?を持ったリーダーの高校生の元に10数人で一緒に走りました。中学三年生でしたが、先生に言われたのは「お前達が生きている内は2度とオリンピックは来ないぞ」でした。
日本は世界に比べて充分過ぎるほど開発されて便利になっております。世界にはオリンピック開催を契機に都市開発をしたい国が多数あるはずです。そのような国に譲るべきだと思います。
残念なことに道路特定財源が道路を作るために廻されそうですが、道路を作って炭酸ガスをより多く出すことにお金を使うよりも、その財源を炭酸ガスを低減することに使う環境税にするべきだと強く思います。
投稿: 佐藤克男 | 2007年12月 3日 15:01