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2007年11月16日

“石油ピーク”いよいよ到来?

 読者は、「石油ピーク説」という言葉を覚えているだろうか? これについて私は、単行本では『ちょっと私的に考える』(1999年)と『足元から平和を』(2005年)の中に書き、本欄では、2005年の11月4日5日に少し書いた。ごく簡単に言うと、「全世界の石油生産量は、やがてピーク(最大採掘量)が到来し、その後は減少の一途をたどる」というものだ。当たり前のように聞こえるかもしれないが、この考え方は数年前までは論争の的になっていた。理由は、「技術革新によって採掘量はまだまだ増える」と主張する人々が多く、特に産油国がこの考え方を嫌うからだ。きっと「国益に反する」と考えてのことだろう。この説を最初に唱えたのはアメリカの地質学者、ヒューバート博士(M. King Hubbert)で、アメリカ国内の石油生産の実状を調べたうえで、1956年に国内生産のピークは1970年に来ると予言して、これが見事に的中した。

 この理論を世界全体に適用すれば、世界の石油生産のピークが割り出せるとするのが「石油ピーク説」だ。ただし、同じピーク説を採用する人でも、全世界の石油生産が実際にいつピークを迎えるかについては、これまでまちまちの予測が出されてきた。そのうちかなり楽観的なのは、アメリカ地質調査所(USGS)の2005年の予測で「2025~30年」というもの。また、文明評論家のジェレミー・リフキン氏の2002年の著書には「遅くとも2022年」と書かれており、ワールドウォッチ研究所は「2020年」とし、アメリカの時事週刊誌『TIME』は2005年10月に「早くて2010年」と書いた。最も悲観的なピーク論者であるプリンストン大学名誉教授、ケネス・ドフェイス氏は「2005年11月24日」にピークの到来を予言したが、これは明らかなハズレだった。が、このほかに「2007年説」があったのを私は覚えている。

「石油ピーク」到来後の世界経済は、大きな転換期を迎えるとされる。なぜなら、現在の人類の文明は石油などの化石燃料を主要なエネルギー源として成立しているからだ。その最大の動力源が、「前年より多く入手できない」時代に入る。特に影響が大きいのは、中国、インド、ロシア、ブラジルなど経済発展著しい国であり、これらの国が、そのままでは先進国の経済レベルに達しえないと考えた場合、どのような政策を採るかは予測できない。もちろん、需要が増大して石油の値段はさらに高騰するだろうし、資源をめぐる各国の競争が一段と加速し、領土問題を抱える国々の間では紛争が起こる可能性が増大する。

 ところで、私が今なぜ再び「石油ピーク説」を語るかといえば、アースポリシー研究所(Earth Policy Institute)のレスター・ブラウン氏(Lester R. Brown)が、最新のニュースレターで、石油生産のピークが今来ているとの考えを「十分あり得る」(quite possibly)と肯定しているからだ。ブラウン氏は有名な人で、私も氏のことは昨年5月22日の本欄などで詳しく書いているから説明は省略する。が、忘れていけないことは、氏はすでに1年以上前に、バイオエタノールの利用が食品の価格高騰を招くとして警鐘を鳴らしていたことだ。ご存じのとおり今、まさに世界中でそれが起こっている。ブラウン氏の世界経済の読み方はこのように正確であるから、石油をめぐる氏の議論も傾聴に値するのである。
 
 ブラウン氏は、「世界の石油生産はピークに近づいているか?」(Is World Oil Production Peaking?)と題されたそのニュースレターで、国際エネルギー機関(IEA)の石油生産量のデータを並べて、「生産量の伸びはここ数年間、きわだって勢いを失った」と指摘している。具体的には、2004年に日平均8290万バレルだった世界の石油生産量は、2005年には同8415万バレルまで増加したものの、2006年には8480万バレルにしか達せず、2007年の1~10月の平均は8462万バレルと、減少傾向が見られるというのである。この事実は、人口が多く、経済成長盛んな中国、インド、ブラジル、ロシアなどでエネルギー需要が増大し続けていることを考えると、不思議である。もちろん、内戦状態が続くイラクでは、石油生産が正常でないことはわかる。しかし、その他の国や地域では、新しい油田が発見されてはいても、古い油田からの生産量減少を補うには不十分なのだ。
 
 ブラウン氏は、ニュースレターの中でヒューバートの理論を紹介し、新油田の発見のピークと生産量のピークとの間には時間的ズレがあり、その予測はできるとしている。つまり、新油田の発見がピークを迎えた後に、生産量のピークがやってくるのだ。石油をめぐる地球全体の状況を見ると、新しい油田の発見は1960年代にすでにピークを迎えている。また、埋蔵量で1位から20位までの油田は、すべて1917年から1979年までに発見されている。そして1984年以降、石油の生産量は、新しく発見された油田の埋蔵量を大きく上回っているという。2006年の数字は、生産量が310億バレルだったのに対し、新たな油田の埋蔵量は90億バレルにすぎない。
 
「石油ピークが来ている」という判断は、ブラウン氏だけのものではないらしい。イラン国営石油会社のサムサム・バクティアリ氏(A. M. Samsam Bakhtiari)は、2007年ピーク説を唱えており、ドイツのエナジー・ウォッチ・グループも「すでにピークを迎えた」と分析しており、石油生産量は今後、毎年7%の減少し、2020年には日産5800万バレルになると予測しているそうだ。バクティアリ氏の2020年の予測も、日産5500万バレルである。ところが、これらとはきわめて対照的に、IEAと米エネルギー省の2020年の予測は「日産1億400万バレル」というのだから、驚きである。
 
 イランの予測とドイツのグループの予測が一致していることは、興味深い。前者は原子力発電などの核開発を目指して国際社会と摩擦を起こしており、後者は、石油から自然エネルギーへの移行に熱心である。わが国は多分、アメリカ並みに「ピークは来ない」と楽観しているのだろう。何とも心もとない話である。
 
 谷口 雅宣

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コメント

「石油ピーク説」の予測は兎も角「石油資源」は有限であり必ず「0」になります、従いまして「石油依存からの脱却」は急務だと誰でも思っているものと思いますがまだまだ人間の知恵と智慧、技術が未熟な為に無限の自然エネルギーで人間生活の全てを賄う段階まで進歩していないのが現状でその方面の専門家達は人々の目にとまらない所で日夜懸命に努力されているもの考えております、この問題は必ず解決の道が残されており、かけがえのない美しい地球は人類の叡智の結晶に依って永遠に守られると確信しています。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年11月17日 17:24

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