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2007年11月27日

政府が排出権購入に動く

 本欄の読者はすでにご存じと思うが、日本政府はハンガリーから最大で1千万トンのCO2排出権を買う計画を進めているそうだ。『朝日新聞』が26日の1面トップで伝えた。その記事によると、両国代表が今週中にもブダペストで覚書に署名する計画というから、ほぼ本決まりだろう。この計画の何が問題かと言えば、ハンガリーは1990年以降、社会主義から資本主義へ移行する過程で重化学工業が縮小したおかげで、排出量が大幅に減少していて、京都議定書の目標値(6%減)をさらに1億トンほど下回る排出量をすでに達成しているからだ。同国は、この1億トン分を「排出権」として他国へ売却できるので、その一部を買うことで日本の目標達成を図ろうとしているのだ。もっと簡単に言えば、他国がすでに削減したCO2をお金で買うことで、日本が削減したことにしてもらおうというのだ。京都議定書がそれを許しているから、別に違法でも何でもない。しかし問題は、国内での削減努力が鈍ることと、その購入費の原資は何かということだ。現在、EU(欧州連合)内で取引されている排出権取引の価格を当てはめると、CO2を1千万トン買うためには「約200億円」必要という。
 
 今日(27日)の『日本経済新聞』には、財務省が今年度の国税収入の見積もりの達成は困難だと正式に表明し、地方税の収入も、当初の計画である40兆3700億円に達する見込みはなく、40兆円を下回る可能性があることが報じられている。そんな中で、貴重な国民の税金を大量の排出権購入に使うことは、“隠れた炭素税”を間接的に課すことになる。それも、こういう形で税金を使えば、企業も消費者も何の努力もせずに「排出削減した」との錯覚を抱きやすい。どうせ国民の税金を使うなら、もっと明確なメッセージ性をもった「環境税」か「炭素税」を導入する方がいい。そうすれば、国民の意識も「いよいよだな」と1つにまとまり、それによって国の産業全体を“脱炭素化”へと導く効果がある。もちろん心理的効果だけでなく、実際にCO2を出さない製品やサービスの開発と育成につながるのだ。中・長期的に考えれば、この方が日本の産業全体にとって有利な結果をもたらす、と私は思う。

 日本政府が業界の顔色ばかりをうかがって、温暖化抑止対策に及び腰を続けているあいだに、ヨーロッパ諸国は環境技術の利用面でどんどん先行している。26日の『日経』夕刊によると、EU(欧州連合)は風力や太陽光などの再生可能エネルギーの利用拡大をGDP比で加盟国に義務づける方針を決めたという。来年1月を目途に欧州委員会に提案するらしい。EUの域内のエネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの使用割合は現在8.5%。EUは、これを2020年までに20%に引き上げる目標を設定しているが、目標までの11.5ポイント分の半分の削減を一律に加盟国に義務づけ、残りの半分は、加盟国のGDP比で割り当てて削減する計画らしい。これだと、英独仏などのエネルギー消費の多い国はそれだけ多く、再生可能エネルギーへの転換をしなければならなくなる。なかなか“本気”が感じられる明確な政策ではないだろうか。
 
 話は変わるが、日本郵便が今年初めて出した「カーボンオフセット年賀」というのを買った。50円の年賀状に「+5円」したもので、この5円分が寄付金としてカーボンオフセットに使われる、という触れ込みだ。寄付金の行く先について、日本郵便のウェッブサイトには「今回の寄附金により支援する温室効果ガス削減事業は、国連による厳しい基準を満たしたものに限られ、京都議定書で定められたマイナス6%達成のために役立てられます」とあるだけで、どこのどんな事業に寄付されるか分からない。が、その葉書が10枚セットで、いちいちプラスチックの袋に入れられているのを見て驚いた。こうした方が確かに数えやすく、扱いもしやすいのだろうが、わざわざ+5円を支払う消費者は、その寄付金によってできるだけ多く炭素を減らしたいと考えているはずだ。それなのに、石油製品から作られるプラスチックの袋を使い、それに封入するのにまたエネルギーを使うというのでは、効果は半減してしまうだろう。こんなムダは、炭素税を導入すればすぐになくなってしまうのに、と思う。

 谷口 雅宣

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コメント

問題提起有難う御座います、さて、ハンガリーですが温暖化防止の為の努力をして排出権を販売するのでしょうか?努力しない排出権は認めるべきではないと思います、得た資金は何に使うのでしょうか?まさか植林をしてはくれないでしょう?又、議定書の規定削減が出来なかったで済まされるのでしょうか?年金問題も片付かない、ねじれ国会の現状で「環境税」「炭素税」が短期の内に可能なのか?どうか?遅々として進まない様に思えます、
日本は発展途上国、特に以前の日本の様に公害垂れ流し、Co2の出し放し(中国が筆頭)の国々から排出削減が技術的に難しい段階まで進んで来ている日本は排出権を買うべきではないか?(その資金で未熟な設備を削減設備に変えられる)発展途上国の企業は資金が無くて削減出来る余地がたっぷり有るのにやらない、出来ない(利益、利益優先)、今まで努力して(利益の中から投資して限界近くまで削減)来た
日本の企業から見れば理不尽ですがその方が地球規模から見た場合良いのではないか?思います、現在は過渡期、それと同時進行で環境に応じて風力、太陽光、植林を進めて行くと言う事が重要であると考えます、
それから、「カーボンオフセット年賀」の件ですが郵便局は民間なのですからこれは郵便局の仕事にしてはいけないと思います、環境庁が税金としてではなく、赤い羽根募金の様なかたちの募金を工夫して実施して見たらどうでしょうか?温暖化防止に対する国民の意識はきっと高いと確信しています。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年11月28日 18:29

郵便局員としては耳の痛い話です。申し訳ありません。m(_ _)m
今郵便局も民営化して中から変わろうとしているので、期待してほしいですとしかいえないのですが、プラスチックの袋の件は、来年の年賀販売で見直してみるべきところだと思います。
上に意見をあげてみます。

投稿: muroi michiyuki | 2007年11月28日 20:47

尾窪さん、

>>ハンガリーですが温暖化防止の為の努力をして排出権を販売するのでしょうか?努力しない排出権は認めるべきではないと思います、得た資金は何に使うのでしょうか?<<

 記事に書いたように、ハンガリーは資本主義への移行の過程で重工業が縮小したので排出権が発生しているのです。「努力した」かどうかはハンガリーの人に聞いてみてください。(笑) 得た資金については、日本政府は温暖化抑制に使ってほしいという要望を付ける、と記事には書いてありましたが、実際どうなるかは分りません。

muroi michiyuki さん、

 郵便局にお勤めですか? いろいろ言いたいことあります。まず、夏季に冷房をしすぎてセーター着用したり、暖房のしすぎで冬でも半そでシャツというのは、どうにかしてください。

投稿: 谷口 | 2007年11月29日 14:05

局員さんへ
私が言いたかったのは「自らの利益にならない事をやる事になり、それだけ余分に仕事の負担が局員の方々にかかるから」と言う事です、年賀の販売、配達に関しましては全国民の皆様が感謝して下さっているものと確信していますのでよろしく御願いいたします。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年11月29日 14:10

谷口副総裁様
ハンガリーの人を全く知りませんので聞けません(泣)が社会体制が変って重工業を縮小した理由(これも聞けません)が国民の生活を少々犠牲にしても温暖化防止の為に、、と言うのでしたら良いとは思いますが「たまたま」では意味はないと思います、それでしたらわざわざ日本が買わなくても日本はその資金を自国で温暖化防止費用に使えば良いのではないか!と考えます。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年11月29日 16:01

「排出権購入にあたり、もっと明確なメッセージ性を持った“環境税”や“炭素税”の導入を」という先生のご意見に心から賛成いたします。

こんなに環境問題が叫ばれているのに、日本政府は企業の顔色ばかり伺っているように思え不思議でなりません。一番大切にしていただきたいのは企業ではなく、地球の未来です。

みんなが心を一つにして、真剣に環境問題に取り組めは、改善が得意な日本人。素晴らしい智恵とパワーを発揮するだろうになぁ…と日常のいたるところで思います。
そして「カーボンオフセット年賀状」!「日本郵便!やるなぁ~!」と喜んで郵便局に行ったのですが、「再生紙はがき」のものしかなく残念でした。今は「インクジェット紙」の方が主流かと思いましたが…。来年はなくならずに、「カーボンオフセット・インクジェット紙」が販売されることを願います。

投稿: 齊藤美絵 | 2007年11月30日 00:29

私は排出権取引という制度はまったく馬鹿げた制度だと思います。
そもそも、1990年のCO2排出量を基準にするということ自体、ヨーロッパ諸国にとって極めて有利な条件なわけです。
1990年頃までに、日本は主要な環境対策を完了させ、エネルギー効率が「世界一」となりました。方や、ヨーロッパ諸国はその当時、企業の環境対策等が不十分であり、環境先進国と言われていたドイツでさえ、日本にまだまだ及ばない状況だったのです。つまり、ヨーロッパ諸国にとって、数%削減
することなど簡単なのです。
このような状況の中、アメリカが一方的にヨーロッパに有利な条約に批准する訳がありません。
方や日本は・・・ヨーロッパにしてやられた訳です。

しかも!!ヨーロッパ諸国は排出権を買いあさり、をれを日本に高値で売りつけているのです。
つまり、ヨーロッパ諸国の政治家と排出権取引業者が絡んだ『利権』に日本が利用されているだけなのです。。。
排出権の大部分は日本が購入するのですから・・・。
単位GDP換算で世界一の少エネルギー国(環境国)なのに・・・。
こんな理不尽なことがあって良いのでしょうか・・・。

投稿: tatsu | 2008年1月28日 22:59

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