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2007年11月 6日

ミツバチはなぜ減少する? (2)

 今年3月2日の本欄では、アメリカでミツバチが大量に減少していることを報告したが、その原因についての研究結果が出たようだ。確定的ではないようだが、ウイルスの感染によるらしい。10月12日付の科学誌『Science』に論文が掲載されている。
 
 広大な国土のアメリカでは大規模農法によって小麦、トウモロコシ、ダイズなどの穀物や野菜、果実が生産されていることはよく知られている。そして、それら農産物の多くは日本に輸出されている。こうした植物の授粉には、養蜂家が大きく貢献しているのだ。上記の本欄で書いたように、「彼らは大型トラックに巣箱を満載して、アメリカ各地を回り、農家の依頼によって、場所を定めてハチを放つ」という活動をしている。ところが今回の大量減少では、出て行ったハチの多くが帰ってこなかったのである。そして、巣箱の中にも、放った場所の周辺にも、ミツバチの死骸は見つからない。そこで、方向感覚の喪失、寒さによる死、ウイルスや細菌の感染、栄養不足、殺虫剤の影響、ストレスのかかりすぎ、ダニの寄生などが、その原因として考えられていた。
 
 この現象は群棲崩壊障害(colony collapse disorder, CCD)と呼ばれていて、2006年に初めて正式に報告されたが、散発的なケースは2004年ごろから知られていたという。深刻な被害を出した2006年から2007年の冬のCCDでは、アメリカの養蜂業の23%が影響を受け、影響を受けた養蜂家では平均して45%のミツバチが失われた。1980年代以降、ミツバチの群棲にはダニの寄生による被害が増加傾向にあるが、その場合は、巣箱の中に死骸が残り、働きバチが段階的に減少するなどの兆候が見られた。そこで今回のCCDは、これまでに知られていない感染源によるものではないかと疑われた。その証拠に、CCDの起きた群棲で使われていた器具を再使用すると、似たような現象が再び起こり、その逆に、放射線による殺菌を行った器具ではそれを未然に防止することができたという。
 
 CCDの原因を追究するため、ペンシルバニア州立大学のダイアナ・コックス=フォスター博士(Diana L. Cox-Foster)らの研究チームは、CCDの起こった州から群棲を4つ、起こらなかった州から2つ、さらにオーストラリアから輸入されたハチと、中国から輸入されたローヤル・ゼリー4種を選び、それらのサンプルの遺伝子(RNA)を解析してウイルスの有無を調べたという。その後、発見された数種類のウイルスとCCDの有無を統計的に解析したところ、CCDの発生パターンと最も一致するのが「IAPV」と呼ばれるウイルスだったそうだ。
 
 IAPVとは、2004年にイスラエルで発見された Israeli acute paralysis virus (イスラエル急性麻痺ウイルス)の略称である。これに感染したミツバチは、羽を小刻みに震わせながら、しだいに麻痺状態に陥り、巣箱の外へ出て死ぬという。CCDが起こった研究対象の群棲では、オーストラリアから輸入されたミツバチを使っていたか、あるいはそういうミツバチと混じり合って生活していた。このオーストラリア産のミツバチは2004年から輸入が始まっているが、この年から群棲が異常に減る現象が報告されているという。そんな理由で、この研究グループはIAPVがCCDの発生に重要な役割を果たした、と結論している。
 
 外来種のミツバチを大量に導入したことで、予想外のウイルスの被害に遭ったということだろうか。このウイルスは、人間の動きに載って「イスラエル→オーストラリア→アメリカ」と、地球を半周しているのである。原因は確定的でないとは言え、グローバリゼーションがもたらすリスクの一端を示しているように思う。
 
 谷口 雅宣

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