新しい再生医療が日本から? (2)
生長の家の秋季大祭と記念式典のために長崎県西海市の生長の家総本山に来ているが、今朝の新聞に“よいニュース”を見つけて嬉しくなった。京都大学の山中伸弥教授らの研究チームと科学技術振興機構が、生殖細胞を使わず、拒絶反応の心配もない“万能細胞”の作成に人間において初めて成功したというのである。この細胞は「iPS細胞」と称し、「induced pluripotent stem cells(人工多能性幹細胞)」という意味。私は、山中教授の研究に前から注目していて、本欄では昨年7月17日、同18日、8月23日、12月16日などで書いているが、同教授は、自分の研究テーマを選ぶに当たって「倫理問題がない」という条件を自らに課されたそうで、研究者の態度として尊敬に値する。
その教授らのグループが、人間の皮膚の細胞などに遺伝子を組み込むことで一種の“初期化”を行い、受精卵のように各種の細胞に分化できる状態にもどすことに成功したのである。そして、この細胞が神経細胞や心筋細胞、軟骨の細胞などに分化することを確認したという。この研究が、ES細胞など他の万能細胞の研究よりも優れている点は、他人の受精卵や卵子を使わず、患者本人の細胞を利用することで、移植医療の最大の関門である拒絶反応の問題をクリアできる可能性が飛躍的に増大したことだ。21日付の『日本経済新聞』は、この研究の成功により「次世代医療として期待される再生医療を実現するうえで不可欠な医療材料の本命にiPS細胞がなる可能性がでてきた」と書き、『読売新聞』も「今後、万能細胞を用いる再生医療は、iPS細胞を中心に展開していく可能性が高い」としている。
私は今年6月11日の本欄に「新しい再生医療が日本から?」という題をつけ、山中教授がマウスの研究で今回と同様の成果を挙げたことに言及し、「人間に応用できるかどうかは今後の課題だ」と書いたが、同教授は、あれからわずか半年もたたないうちに人間への応用のメドをつけたことになる。今日夕方のNHKニュースは、この研究成果のおかげで、山中教授のもとには世界中からメールの問い合わせやインタビューの申し込みが殺到し、ブッシュ大統領も歓迎の意向を表明したと報じていた。また、ある日本人のES細胞研究者は、この研究は「間違いなくノーベル賞に値する」とコメントし、クローン羊・ドリーの生みの親であるイギリスのイアン・ウィルムット博士(Ian Wilmut)は「自分の研究の方向を断念した」とまで言った、と伝えた。
新聞報道によると、「iPS細胞」の研究は、山中教授のグループだけでなく、米ウィスコンシン大学のジェームズ・トムソン教授(James A. Thomson)のチームも同様に成功しており、前者の研究は科学誌『Cell(細胞)』の電子版(21日)に発表されたが、後者は『Science』の電子版にほぼ同時期に発表されるという。山中教授の研究では、36歳の白人女性の顔から採取した皮膚細胞に4個の遺伝子を組み込み、約1カ月培養したところ、ES細胞と同等の幹細胞が出現したという。この新しい細胞(iPS細胞)は実験により、神経や筋肉、肝臓など約10種類の細胞に分化することが確認された。その作成効率は、皮膚細胞5千個につき1個で、この割合なら臨床応用に充分だという。(21日『読売』)
山中教授とトムソン教授の双方が注意を喚起している点がある。1つは、iPS細胞が、受精卵から得られたES細胞と全く同じであるかどうかは、まだ確認が終っていないということ。もう1点は、今回作成されたiPS細胞からは「ガン化」の危険が完全に排除されていないということだ。幹細胞とガン細胞とは関係があるようだが、2006年12月16日(リンクは上記)や今年6月11日の本欄(同)でも触れたように、まだ詳しいことが分かっていない。実際今回、山中教授が使った遺伝子の1つは、発ガン性のものだったという。現在の遺伝子組み換えでは、レトロウイルスというウイルスに目的の遺伝子を組み込み、これを細胞に送り込む。するとレトロウイルスは細胞内のDNAの中にランダムに目的遺伝子を組み込むのだが、その際、組み込まれる場所によってはガン化が起る可能性もあるという。
これらの問題は、今後1つずつ解決されていくに違いない。そしてこの研究によって、世界の再生医療の研究の方向が、受精卵や卵子を使うES細胞から、iPS細胞や成人幹細胞の研究へと大きく転換することを、私は期待している。
谷口 雅宣
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コメント
昨日私もこのニュースを見ましたが、正直にいうと、内容までははっきり意味が分からなかった。ただ先生と違い科学素人の私でも分かったことは、研究者が研究に対しすごく慎重で謙虚だった点です。だからこの研究は世の中を絶対助ける研究に違いないと勝手に思っていました。雅宣先生のブログをみて、それは確信に変わりました。よかった。ありがとうございます。
投稿: 亀介 | 2007年11月22日 13:49
本当に人間の能力は素晴らしい、神仏の用意された領域に人間は限りなく近づいているものと驚喜、感嘆、近い将来きっと成功させるものと確信しています、確認する事は出来ないでしょうが(泣)、、、人類の未来は非常に明るいと思います(笑)。
投稿: 尾窪勝磨 | 2007年11月22日 15:18
副総裁先生
合掌,ありがとうございます。
秋季記念日を心よりお祝い申し上げます。
日本から世界の再生医療研究の方向を変えるような成果が発表されたことは,実に喜ばしいことだと思います。まさに「日時計ニュース」そのものですね。
投稿: 佐々木 勇治 | 2007年11月23日 09:35