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2007年9月21日

北朝鮮の核関連疑惑

 今日の新聞各紙は、ワシントン発でブッシュ大統領が記者会見で北朝鮮の核拡散について「警告」(『朝日』)したとか、「重要視」(『産経』)しているとか、「懸念」(『日経』)を表明したなどと伝えている。しかし、その背景についてあまり書いてないので、何が大統領にそう言わせたかは判然としない。が、これは日本にとっても重要なことなので、少し説明を加えよう。

 日本のマスメディアはあまり書かないが最近、欧米では危機感をもって語られていることが1つある。それは、イスラエルの空軍機が9月6日、シリア領内に爆撃を行ったことだ。この目的が何かはまだはっきりしていない。シリア側の説明によると、イスラエルの航空機が「武器類」(munitions)を投下し、燃料タンクを落としたので、シリア軍によって追い返された、というものだ。しかし、米英の新聞に掲載された匿名情報の1つは、イスラエル機の攻撃目標は、北朝鮮技術者が働いているシリアの核関連施設、というものである。別の匿名情報では、北朝鮮の船がシリアの港に未確認の積荷を届けた3日後に、この施設が攻撃されたという。また別の情報では、イスラエル機は、レバノン国内のヒズボラ組織向けにイランから送られた武器を狙ったともいう。しかし、当のイスラエルは、この件について沈黙を守り、北朝鮮はこの事実を否定しているようだ。
 
 アメリカの『ボストン・グローブ』紙は、この事件についてイスラエルが沈黙を守っているのは、シリアには直接の攻撃によってメッセージが伝わったから、これ以上、事態を公にし、ただでさえ危険なこの地域の情勢を悪化させたくないと考えているからだ、と見ている。また、英米のメディアは、このイスラエルの行動に対して、ブッシュ大統領が“暗黙の了解”を与えていたかどうかを問題にしているようだ。
 
 この件で日本にとって重要なのは、北朝鮮がシリアで何をしていたか、だろう。6カ国協議がはかばかしく進展していない中で、北朝鮮がシリアに核技術もしくはミサイル技術を供与していたということになれば、アメリカが同国を「テロ国家」の指定から外す可能性が遠のく。指定解除は北朝鮮の念願だから、これが遠のけば6カ国協議も暗礁に乗り上げ、拉致問題の解決はさらに遠のくかもしれない。しかし、アメリカが現にそのことを公言していないのは、6カ国協議の進展を希望しているからか? あるいは公言する時期が「まだ早い」と考えているからなのか……。なかなか複雑な状況である。
 
 19日付の『ヘラルド・トリビューン』紙は、イスラエルの攻撃対象となったシリア国内の施設は「北朝鮮が支援する核関連施設」だと伝えている。そして、この攻撃は当時、北京で行われていた北朝鮮核施設の無能力化の時期を定める交渉が突然、中止されたことと関係していると報じている。そのまま交渉が始まれば、アメリカがこの件を持ち出して北朝鮮を非難し、硬化した北朝鮮が交渉のテーブルを離れるという事態を中国が危惧した……というニュアンスである。同紙がこの報道の「情報源」としているのは「アメリカとイスラエルの現役と退役官僚」だが、その情報源は、攻撃を受けたのはシリアが実施している「初歩的な核開発計画と関連した施設」だという。
 
 アメリカのゲーツ国防長官は、16日のフォックス・ニュースの中で、イスラエルがシリア国内の目標を攻撃したかどうか、あるいは北朝鮮がシリアに核関連技術を供与しているかどうかについて訊かれ、いずれの確認も避けたという。が、「そのような活動がもし行われているとしたら、非常に深刻な事態だ」とコメントしている。アメリカが恐れているのは北朝鮮の核兵器自体ではなく、その技術が中東などの紛争地域に拡散することである。北朝鮮とシリアの間には、主として武器、それも初歩的なミサイル技術に関する貿易関係が昔からあることは知られているが、核関連技術については、これまで明らかになったことはないという。
 
 こういう背景を知ってから、今日の各紙の記事を読むと新たな理解が生まれる。『朝日』は、米大統領が北朝鮮に対して「核問題の6者協議を成功させたければ、(大量破壊兵器の)拡散を止めなければならない」と警告したと書いているが、北朝鮮のシリアへの核開発協力疑惑に関しては、「疑惑が真実かどうかについては言及しなかった」としている。『産経』は、大統領が「拡散は核計画や核兵器の放棄と同等に重要だ」と指摘したが、イスラエルによるシリア空爆や、北朝鮮がシリアに核物質を輸送していたかについては、「コメントしない」などと述べるにとどまった、と書いている。また、『日経』は、「大統領は会見で北朝鮮とシリアの協力に関しては“拡散防止は一般的な意味で発言している”と述べるにとどめ、直接のコメントを避けた」とある。

 何か腫れ物に触るような慎重さではないか。その一方で、イスラエルの攻撃も、北朝鮮の疑惑も否定していない。ということは、攻撃も疑惑も事実であり、アメリカはそれを知っているが、「今は問題にしないが、将来は分らない」と北朝鮮に圧力をかけている--そういう見方ができるだろう。
 
 谷口 雅宣

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