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2007年9月12日

宗教の必要性

 イギリスの科学誌『New Scientist』が9月1日号で「宗教の必要性」を問いかける特集記事を掲載した。「人間の道徳性が生来のものであるならば、宗教を信じることの意味がどこにあるのだろう?」という書き方である。こういう特集の裏側には、宗教を理由としたテロや戦争が現に行われていることへの批判があることは言うまでもない。私がここに「生来の」と訳したところは、原語では「hard-wired in the brain」である、直訳すると「脳に直に配線されている」とでもなるのだろうか。つまり、最近の脳科学の研究によると、善と悪を識別するなどの道徳性や倫理性の判断は、人間の脳の一部が直接行っているらしいのだ。ということは、どんな人間でも、脳に異常がないかぎり、宗教など信じなくても良心があり、善悪の判断ができるということだから、テロや戦争の元になるような信仰をもつ必要はないというわけである。もっと端的に言えば、「無神論者も道徳的・良心的でありえる」ということだ。

 この記事は、宗教を「争いの元」として単純に否定しているのではない。宗教と道徳性や、信仰と幸福度が正比例し、宗教と喫煙・薬物中毒が反比例するなどの科学的研究にもきちんと触れたうえで、宗教の教えと道徳意識が必ずしも一致しないこと、宗教が憎悪や戦争を正当化する傾向があること、宗教の信者が多い国において、殺人や未成年者の死、性感染症の患者が多いことなどを示す科学的研究に言及し、現代における宗教の意味を問いかけているのである。
 
 私がこの記事を読んで興味をもったのは、米テネシー州のヴァンダービルト大学の社会学者、ガーリー・ジェンセン教授(Gary Jensen)の研究である。この研究では、殺人という社会現象に焦点を当て、それが起る頻度(割合)と、その地域で支配的な信仰の内容に関係があるかどうかを調べた。その結果、善悪二元論的な信仰が強い地域では、殺人事件が多いことが分ったという。例えば、アメリカは最も殺人事件が多い国だが、そこでは96%の人が神を信じると答える一方で、76%が悪魔の存在も信じると答えるそうだ。これと同様の傾向を示す国はフィリピン、ドミニカ共和国、南アフリカだった。しかし、神への信仰はあっても悪魔をあまり信じない国--例えば、悪魔を信じる人が18%しかいないスウェーデン--では、殺人事件と信仰との相関関係は低いことがわかったという。この研究などは、「善一元」の信仰の重要性を示しているように思う。

 また、宗教を信じる“動機”と信仰者の行動に関係があるとする研究も興味深い。こちらはカンザス大学の社会心理学者、ダニエル・バットソン氏(Daniel Batson)によるもので、同氏は信仰の動機を“内的宗教性”(intrinsic religiosity)と“外的宗教性”(extrinsic religiosity)に二分した。前者は、神を信仰することや教会へ行くことそれ自体が信仰の目的であるが、後者は、それらを社会的活動の一種として捉え、しばしば個人の利益が信仰の目的になっている。このような二者間で対比すると、内的宗教性は他人への思いやりや偏見の少なさと関係しているが、外的宗教性は逆に、偏見の多さと関係していることが分かったという。つまり、後者の傾向のある人は、他人を助けるのは、その人にとって“正しい”(自己目的にかなう)人である場合だけということになる。これなどは、いわゆる“ご利益信仰”の弊害を示しているのかもしれない。

 現在の科学は「神を信じるか否か」などの単純な違いで人を分けるのではなく、「どんな神を信じるか」「信じる目的は何か」などのより深く、意味のある視点から、信仰の意味や宗教の存在意義を問うているようだ。私はこれを、歓迎すべきことと思う。
 
谷口 雅宣

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コメント

私はテレビか雑誌か忘れましたがある難民の一人が「私たちはどんな民族でも言葉が違っても仲良く平和に暮らしたいのですが国が仲良くしてくれないのです」と言って嘆いていたと言う事を耳にした事があります、確かに世界中殆どの人はそう思っているんではないか?と思います、従いまして戦争の原因は一部指導者の物欲、名誉欲等ではないか?決して宗教が原因ではなくて宗教を利用してマインドコントロールして先導しているものと思っています、複雑な利権が絡み合い理想と理屈だけではいかんともし難い、だからこそ正しい宗教(これを見抜くのが容易ではない)の光明化運動は地味ですが忍耐強くやり続けなければならないと言う事だと思います、個人的には世界政府が実現し国と国との紛争を裁く権限と力を持つ事だと思いますが惑星間移動が自由に出来、異性人との交流が実現する様な時代にならないと無理なのかもと危惧していますがその予想が当たらない事を祈っています。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年9月14日 01:21

野球でもバスケットでもドリームチームがありますが国々のドリーム指導者を設定して見たらどうでしょうか?これでも戦争は回避出来ないでしょうか?本当の夢です、イスラエルのトップ指導者=イエス、アメリカ=マザーテレサ、イラク=ムハンマド、北朝鮮=釈迦、中国=ダライラマ、ロシア=ローマ法王、日本=谷口雅春、インド=玄奘三蔵、パレスチナ=法然、パキスタン=エリヤ、アフガニスタン=上杉謙信、夢は実現しませんがこれは夢の又夢です、本当に殺し合いではなくスポーツ、芸術、自然環境保持で競って貰いたいものです。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年9月15日 14:56

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