温暖化対策の行方は?
アメリカが地球温暖化の抑制にようやく重い腰を上げようとしているようだ。ワシントンで行われているアメリカ政府主催のエネルギー安全保障と気候変動に関する主要国会合にブッシュ政権の主要閣僚が出席し、例えばライス国務長官は「国連の枠組みの下で温暖化ガスを削減する対応をとる」などと言明したという。28日付の『日本経済新聞』夕刊が伝えている。2012年で期限切れとなる京都議定書の後に来るべき全世界的な制度的枠組みをつくるに際し、主導権を握ろうとする意思の表れだろう。世界第1位の温暖化ガス排出国としては当然のことだが、ぜひ実効性のある制度をつくってほしいし、京都議定書のように中途で対策を投げ出さないことを望む。
ところで、26日付の『ヘラルド・トリビューン』紙が、ノーベル賞受賞者(経済学)、ジョセフ・スティグリッツ博士(Joseph Stiglitz)と読者との間のブログ上の意見交換を掲載していたので、興味深く読んだ。
地球温暖化対策では、経済成長の著しい発展途上国からの温暖化ガスの排出に規制を加えることが問題視されることが多い。つまり、今日の温暖化の主原因は先進国が温室効果ガスを排出したからであるが、それなのに、これから先進国に追いつこうとしている国に排出削減義務を負わせるのは不公平だし不合理だという議論がよく出てくる。これに対し、スティグリッツ博士は、途上国はエネルギー効率を向上させることで、経済成長と温暖化ガスの排出削減の双方を達成することができる、と明確に答えている。
しかしそのためには、多くの途上国が実施している石油への多額の補助金を撤廃するなどして、市場の歪みを是正しなければならないという。が、これは言うほど簡単ではない。現在、政情不安となっているミャンマーを初めとした東南アジア諸国では、この補助金があるためにガソリンなどの燃料費が安くなっている。撤廃すれば値上がりは必至で、政情不安に油を注ぎかねない。そこでスティグリッツ博士は、安価なエネルギー源として石炭の利用を勧めているようだ。が、石炭を燃やせば当然、CO2が出る。そこで各国は「重要な選択」をすべきだ、と博士は言う。CO2の排出削減に使う金は、教育費や医療費、水道事業にも回せるし、あるいはより速い経済成長のためにも使える。この余分なコストを先進国が支払うべきだ、と博士は言うのである。その支払いを排出権を買うことで行うのも1つの方法だが、その場合は、排出権取引制度を現行のレベルから飛躍的に拡大しなければならないという。
スティグリッツ博士によると、温暖化抑制のための重要な方策の1つは、森林の消滅を防ぐことである。そのためには、森林はそれを維持しているだけで「CO2の吸収」という貴重なサービスをしているのだから、それに見合う対価を途上国に支払うべきだという。そうすれば、世界の木材貿易にも新しいパターンが生まれるとしている。
環境保全と経済の持続的成長の問題では、博士は両者の共存があり得るだけでなく、環境保全により経済成長を促進させることさえできるという。ただし、そのためには各国の経済政策と人々のライフスタイルを大きく変える必要がある。博士は、現在の世界経済は、各国政府の補助金などによって市場が大きく歪んでいると指摘し、例えばアメリカが石油企業に与えている補助金を引き合いに出して、これらを撤廃すべきという。そして、消費者の行動による本当のコスト(温暖化を含む)を商品やサービスに反映させるために、炭素税などによって環境費を支払わせる必要があるとする。さらに博士は、各国政府は、社会の構造を持続的成長に相応しい形に変化させるような施策をとるべきという。例えば、公共交通機関の整備に力を入れたり、人々が大都市の郊外へあまり移動しなくなるだけでなく、もっと環境に配慮した消費行動を促進するような政策を考えるべきだとしている。
実現にはいろいろな困難が予想されるが、なかなか包括的な提案であり、「自然資本へのコストを商品やサービスに反映すべし」という私のかねてからの主張とも整合している。先進国に住む消費者の1人としては、この方向にむかってライフスタイルを変える努力をすべきだろう。
谷口 雅宣
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コメント
生長の家の提言から今日全世界にまで広がった温暖化問題、勿論個々人の考え方、ライフスタイルの変化への努力は原点ですが此処まで来ましたら国連の働きかけが世界を大きく変えていく重要な要素になると思います、幸いアメリカがその方向に動いている様ですので希望が出て来ている、旨く軌道に乗れば大自然の怒りも治まり人類に対する災害も無くなり平和な世界になると思います、その頃はこの世には居ないでしょうが、、、。
投稿: 尾窪勝磨 | 2007年9月29日 11:46