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2007年9月 9日

「シドニー宣言」採択される

 オーストラリアのシドニーで開かれているAPEC(アジア太平洋経済協力会議)は8日、首脳会談で地域内の省エネルギー目標と森林面積拡大目標を含む特別声明「シドニー宣言」を採択した。具体的には、省エネ目標は2030年までに2005年比で25%以上改善し、森林面積は2020年までに域内で2千万ha以上拡大するというもの。中国などの域内途上国が数値目標を設けることに強く反対していたことから考えれば、これらの数字が合意されたことは進歩といえる。反面、これらの数字は“数値目標”とは言え拘束力がなく、域内の21の加盟国と地域が自主的に設定することになった点が残念である。

 また、合意されたのは「省エネ目標」(エネルギー利用効率の改善)であってCO2の「削減目標」ではない。したがって、この目標が達成されたとしても、CO2の排出量が地域全体で増加する可能性もある。その場合、国別の削減目標を定めた京都議定書の考え方と矛盾することになってくる。9日付の『日本経済新聞』によると、このような合意に至った理由は、「経済成長に伴って増える温暖化ガスの排出量を減らすのは難しいため、技術革新などで達成されやすい省エネ目標を優先した」かららしい。同紙によると、「エネルギー効率」という言葉の明確な定義は今回の合意の中で示されていないが、「通常は国内総生産あたりのエネルギー消費量で測る」という。だから、経済成長が盛んな中国などで国内総生産が50%増えると、エネルギー効率が25%しか向上しない場合は、CO2の排出量は増えることになる。
 
 しかし、森林面積の拡大目標を明示したことは歓迎できることだ。この提案をしたのが中国であるという点も、注目に値する。中国では、急速な経済発展に伴って広大な面積の森林が一時、失われて砂漠化が進行していたが、2000年以降は国主導の造林事業などで森林面積が拡大している。今回、この経験を踏まえて自らの得意分野を国際的な努力目標に格上げしたことで、京都議定書以降も国別のCO2削減目標の設定を推進するヨーロッパなどの議論に“先手”を打つねらいがあると見られる。8日付の『朝日新聞』によると、中国では2000~05年の平均で、毎年、九州全体に相当する約400万haの森林面積を拡大しているという。森林面積を2000万ha以上拡大した場合、増加分の森林の炭素吸収量は約14億トンになるらしい。
 
 中国は現在、アメリカについで世界第2位の温暖化ガス排出国だ。この国がCO2の排出削減に本腰を入れるようになれば、第1位のアメリカも重い腰を上げずにいられなくなるだろう。しかし、今回の合意では、「排出削減」ではなく「エネルギー効率」の向上と「森林拡大」に重点を移そうとする方向に動いたようだ。アメリカやオーストラリアもそれに同調しているから今後、京都議定書後のグローバルな温暖化対策をめぐり、ヨーロッパ等の「排出削減」派との間に“綱引き”が行われることが予想される。

 中国政府が最近発表した「再生可能エネルギー中長期発展計画」によると、同国では風力や太陽光などの自然エネルギーの利用割合を、現在の8%から、2010年に10%、2020年には15%にまで高める考えらしい。(5日付『日経』)これに対し、日本の資源エネルギー庁の統計を見ると、2005年度の確定値で再生可能エネルギーと未活用エネルギーを加えた利用率(一次エネルギー総供給に占める割合)は、消費エネルギー全体のわずか「2.8%」である。そして、同庁の定義する「自然エネルギー」(太陽熱利用、バイオマス直接利用、風力発電、その他温度差エネルギー)の総計では、わずか「0.2%」という状態である。これらを見ていると、日本は自然エネルギーを活用した温暖化対策の面でも、いつのまにか中国に大きく遅れをとってしまっているのである。

 谷口 雅宣

【参考文献】
○資源エネルギー庁『平成17年度(2005年度)エネルギー需給実績(確報)概要

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