« 迷いはどこから来る? (7) | トップページ | 念力の可能性 »

2007年9月18日

動き始めた排出権取引

 2012年までの京都議定書の目標達成が日本にとって“きわめて困難”とされている中で、CO2の排出削減目標の半分に達する量を、日本企業が排出権購入によってすでに獲得したという記事が、17日の『日本経済新聞』の第1面トップに掲載された。にわかには信じがたい話だが、『日経』の特ダネの恰好になっているので、恐らく事実だろう。その反面、CO2の排出権を得ることが、温暖化対策の困難さとは関わりなく比較的容易であることを示している。この記事によると、日本が2012年までに削減しなければならない温暖化ガスの量は、CO2換算で2005年比1億7500万トン(1990年比では7600万トン)。ところが、今年上半期までに主要企業によって獲得されるCO2排出権は年換算で8900万トンに上るという。
 
 排出権取得が進んでいるのは総合商社、電力会社、金融ファンドなどで、取得量が最も多いのは三菱商事(1383万トン)、続いて住友商事(770万トン)、丸紅(633万トン)、JMD温暖化ガス削減(580万トン)、日本カーボンファイナンス(476万トン)、Jパワー(345万トン)、三井物産(325万トン)、中部電力(313万トン)など。全体の排出権取得費は2008~2012年の5年分で4500億~6700億円になるという。
 
 これらの企業が排出権取得を急いでいる理由の1つは、京都議定書の目標達成期限が近づくにつれて排出権の需要が増える際に、日本政府や他企業などに排出権を販売しようと計画しているため。排出権の購入時より販売時の価格が上がれば、利益が生まれるのだ。この記事によると、日本政府は年2千万トン程度の排出権を買う計画があるため、5年間で1億トン分は売れることになる。ただし、この「2千万トン」という数字は、1990年比で6%削減する場合のCO2削減量の1.6%分だ。現在は、同年比で13.8%を削減しなければならいほど排出量が増加しているから、政府が購入しなければならない排出権の量は大幅に増えることが予想される。その場合、排出権の値段はさらに上がるから、それを売る企業の収入はさらに増えるだろう。こうなると、先に排出権を獲得した企業が値上がり後にそれを政府に売ることは、政府から企業への一種の“補助金”の様相を呈してこないか。また、日本政府より高い値段で排出権を買う者があれば、企業はそちらへ排出権を売る可能性もある。

 排出権取引は、こういう様々な“灰色”の部分をもっているため、環境NGOなどからは疑問の目で見られることがある。私も、この制度には何か“錬金術”のような危うさがあると感じているが、何もしないよりはマシかもしれない。

 ところで、日本国内で初めて実施された企業間の排出権取引の結果が最近、環境省から発表された。9月12日の『日経』によると、この排出権取引は「自主参加型排出権取引制度」といい、各企業が省エネ設備などを導入するための補助金を国から受ける代わりに、CO2の排出削減目標を設定するもの。この目標を省エネ努力で達成できなかった企業は、制度に参加している他企業から排出権を買えば目標達成ができる。それでも達成できない企業には、補助金返還などの罰則がある。環境省が発表したのは、昨年4月から今年8月までの第1期分の国内排出権取引で、大規模な工場や店舗をもつ31社が参加し、24件の取引で8万2624トンが売買された。1トン当たりのCO2の価格は平均で1212円。最高は2500円、最低は900円だった。このために政府が拠出した補助金の額は約26億円で、それにより削減されたCO2は37万7千トンだったという。
 
 上に書いた国内での排出権の取引価格は、企業に排出削減を義務づけているEU(欧州連合)での取引価格(1トン約3千円)よりかなり安い。今後、日本での排出権取引制度が整備され、国内から国際取引にも参加できるようになれば、CO2の値段も国際基準に近づいていくことになるだろう。しかし、政府から補助金を得て省エネのための新設備を導入するこの方式には、問題がないのだろうか? 新設備を製造し、設置するまでに排出されるCO2の量が、削減量の計算式に入っているかどうか、気になるところだ。
 
谷口 雅宣

|

« 迷いはどこから来る? (7) | トップページ | 念力の可能性 »

コメント

結局国民の税金で買う事になりますがそれで企業が膨大な売買益を得る所が問題だと思います、企業の良心により買値で売ると言う事になれば拍手喝采ですがそんな企業は無いでしょう、、、しょうがないので今の所、原点に帰り地道にやって行くしかないのでしょう、、、。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年9月19日 09:53

副総裁先生

合掌 ありがとうございます
一昨日、昨日と京都の国際会館である団体の全国大会に参加してきました。京都議定書のメイン会場だったはずですが、会場は寒すぎるほどの冷房でした。二日間しっかりと着こんでおりました。

CO2の排出権取引ですが私はどうも腑に落ちないのです。
本来のCO2削減につながらないような気がしております。
よそでCO2を削減した量を排出権として勝っても本当に削減したかどうかの確認が出来るのでしょうか?
ましてやその売主が中国が多いようですので信頼できるのでしょうか?

確実に自分が削減した分だけをカウントするようでないと削減の絶対量は確保できないような気がします。

以前、副総裁先生にお伝えした民間会社の太陽光発電のNEDOの審査が通り年内に稼動の予定です。90kW ですから、一企業としては大きな投資であり経営者の決断に感動を覚えました。この度は山梨の工場ですが、横浜の工場へも考えるとのことです。

セヴァン・スズキのDVDに大変共鳴されたようです。
このような経営者を一人ずつ探してゆくことも私の仕事だと思っております。

実際に省エネをしたり、採算を度外視してでも省エネ設備を導入される方には本当に頭が下がる思いです。

投稿: 佐藤克男 | 2007年9月20日 12:16

佐藤さん、

 私もあなたの懸念を共有します。今の中国のモラルのレベルでは、どんな“抜け道”が使われているのか、不安が残ることは否めません。

 見えるところで、きちんとできる方法があればいいですね。

投稿: 谷口 | 2007年9月21日 12:10

"抜け道"の不安を残しながら排出権を買うのに膨大な金額を支払うと言う現状なのですか?国際的にとても通用するとはどうしても思えませんが、、、。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年9月21日 15:54

尾窪さん、

 私が「不安」を感じるのは、排出権を売った途上国側の企業や団体が、その対価でCO2が多く発生するような投資を行う可能性についてです。国際的に認められた制度ならば、効果がなくても「国際的に通用する」と思います。排出権取引は、国際条約によって認められている制度ですから、国際的に通用するし、EUなどでは現に通用しています。

投稿: 谷口 | 2007年9月21日 22:54

有難う御座います、
対価の使い道まで考えませんでした、対価で又植林をやり、排出権を売ると言う連鎖になると良いですが、、、、現実が良く掴めまりません、世界各国各界の指導者が国際協力のもと一つの目標に向かって個々人、個々の国を超えて温暖化防止の方向へまっしぐらに進んで行って貰える様に祈り協力して行きます。

投稿: 尾窪勝磨 | 2007年9月24日 16:57

各家庭の余剰分を企業や国家に売れるようなシステムがあればいいなと思いますが。

投稿: Y.k | 2007年10月 8日 16:21

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 迷いはどこから来る? (7) | トップページ | 念力の可能性 »