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2007年6月29日

暑中に水を飲む

 今年も暑い夏がやってきた……との実感がする1日だった。朝の天気情報では東京の最高気温は28℃だったが、原宿にある私の事務所の温度計はずっと30℃近くを指していた。それでいて曇り空だったから、梅雨が明ければ連日の“真夏日”は確実だろう。しかし、日本は恵まれた国だ。この梅雨のおかげで植物が育ち、湖沼の水位が上がる。この時期に、ヨーロッパでは40℃を超す熱波に襲われて、人が死んでいるというニュースが流れていた。アフリカでは、旱魃による水不足が深刻だと聞く。
 
 気象庁の25日の発表では、今年は5月ごろからペルー沖の海水温が例年より低くなる「ラニーニャ」現象が発生していて、異常気象が起こる可能性があるという。26日付の『日本経済新聞』はこのことに触れ、「1970年代以降の主な穀物高騰の局面は、エルニーニョよりラニーニャ現象が発生した時に重なる」と分析し、アメリカの穀倉地帯では「春の降雨で作付けが遅れ、夏場は高温乾燥となる傾向が強い」という丸紅経済研究所の見解を紹介している。今年は特に、アメリカがバイオエタノールの生産ブームの渦中にあるため、ラニーニャ現象が起こる前から穀物市場は記録的な高値圏にある。穀物の価格高騰は、途上国の貧困層にとっては死活問題につながる。「どうか穏便に……」と祈りたい気持だ。
 
 地球温暖化にともなう自然災害でよく言われるのは、海面水位の上昇や洪水の頻発だが、これと“正反対”の印象がある「水不足」も覚悟しなければならない。水不足の原因の1つは、気温上昇によって高山から雪が減ることだ。春から夏にかけて高山に雪があれば、雪解け水はゆっくりと山を降りる。しかし、雪がなくなってしまうと、山に降った雨は斜面を猛スピードで駆け下りるから、洪水になりやすい。川の水はいったん海へ入れば、灌漑や飲料水としての利用は困難となる。だから人々は、川と湖沼の水を使い、さらに地下水を汲み上げて不足分の水を補う。こうして地下水位が下がり、土地の一部は砂漠化していく。
 
 この「砂漠化」の危険を訴える報告書が国連の機関から出た。29日付の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、ドイツのボンにある国連大学が28日に発表した報告書は、温暖化の傾向がこのまま続けば、アフリカと中央アジアの砂漠化により大量の環境難民が出て、一部の国では政治不安が広がり、地球規模の環境危機をもたらすと警告している。この報告書によると、「すでに現在の時点でも、数百万、数千万の人々が水を求めて移動し、国内での住居放棄や国際的な人口移動が起こっている。それには様々な理由があるが、サハラ以南のアフリカと中央アジアの国々の場合は大抵、土地の劣化が原因である」という。

 同紙によると、これらの国々では水の過剰使用が顕著だという。その理由は、貧困国ではそれ以外に生きる手段がないかららしい。この報告書の筆者の1人であるヤノス・ボガルディ氏(Janos Bogardi)は、「今日では、乾燥地帯から逃れてくる人々は、ほとんどが経済発展地域からまだ離れている。しかし、船に乗ってヨーロッパを目指す人々が増えつつある現象は、氷山のほんの一角です」という。同じ新聞の論説欄には、アメリカの評論家、ニコラス・クリストフ氏(Nicholas D. Kristof)がアフリカの最貧国、ブルンジから書いた文章が載っている。それによると、この国の国民1人当たりの平均収入は年間約100ドル、平均寿命は45歳だ。この国にあるタンガニーカ湖は、ここ4年間で湖岸が1.5メートル後退し、多くの船が港に着けなくなった。アフリカ最大のヴィクトリア湖は昨年、湖面が毎日1.5センチの割合で低下したし、アフリカ北部の、かつて巨大だったチャド湖は、今ではほとんど消滅しかかっているという。
 
 こういう国々の指導者が、温暖化の原因である先進諸国をどう見ているか? クリストフ氏は、気候変動は先進諸国によるアフリカへの「最新型侵略行為」だというウガンダのヨウェリ・ムセヴェニ大統領(Yoweri Museveni)の言葉を引用している。また、ケニアにいる国際援助組織ケア(Care)の一員は、先進国によるCO2排出によって、同じ先進国によるアフリカ支援の効果は無に帰していると嘆いているそうだ。

 これから来る暑い夏の只中で、読者がもしペットボトル入りの市販飲料水を飲む時には、水不足に喘いでいる人々のことを思い出してほしい。今、本当に「その水」を必要としているのは、我々ではないのである。

 谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生。
いつも貴重な情報をありがとうございます。

>「どうか穏便に……」と祈りたい気持だ。

>水不足に喘いでいる人々のことを思い出してほしい。今、本当に「その水」を必要としているのは、我々ではないのである。

本当に、祈りたい気持ちですね。「出来るだけ努力はいたしますので神様どうか穏便に、世界中の水不足をなくしてください。」と。
私も出来るだけペットボトル飲料を買わないですむよう、マイポットを心がけていますが(我が家では浄水器に通した水か麦茶です)忘れてしまったりすると買ってしまう事もあるので、この記事を拝見して、もっと徹底したいと思いました。
マイポット運動は、あまりマスコミに取り上げられないのは、やはり飲料メーカーに遠慮してでしょうか。少し持ち運びが重いですが、温度が長持ちして美味しく飲めるので、これからも続けたいと思います。

再拝

投稿: 米山恭子 | 2007年7月 2日 10:55

米山さん、

 私も“マイポット”使っています。もちろん浄水器とのコンビです。長く使っていると、こちらの方が自然な感じになりますね。

投稿: 谷口 | 2007年7月 3日 12:09

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