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2007年6月 2日

ブッシュ氏の“心変わり”

 ブッシュ大統領が31日、ワシントン市内で行った演説で提唱した地球温暖化抑制のための“長期的な地球全体の目標”(a long-term global goal)をめぐり、世界は当惑気味だ。本欄でもたびたび触れてきたように、ブッシュ氏は長年、地球温暖化の重要性を否定し、それが人間の活動によるとの科学者の見解を無視してきたことは有名だが、その彼が今年の年頭教書演説で初めて「気候変動」に触れ、今度は温暖化対策がまるで自分の持論であったかのように「来年末までに温室効果ガスを削減する長期的な世界目標を設定する」(1日『朝日新聞』)と述べたのだ。

『朝日』は、その記事に「来年までに削減目標 米大統領、各国に協議提案」という見出しをつけたのに対し、『産経新聞』は1日の記事に「米大統領 温暖化対策“先送り” サミット提案同調せず」という見出しをつけた。この2つの見出しは、まるで違うことを言っているようだ。『産経』の記事が否定的なのは、この日にホワイトハウスのペリーノ大統領副報道官が、CO2の排出量削減の数値目標設定と、世界的な排出権取引の双方に米政府としては反対することを確認したからだ。同日の『日経』は、「温暖化ガス削減 米、来年中に目標」という見出の記事と、「米、ようやく本腰 温暖化対策新提案 実効性に疑問も」という解説記事の2本立てでこれを報じた。

 メディアは恐らく、6日からの主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)直前にブッシュ氏が新提案をした真意をはかりかねているのだろう。安倍首相が打ち出した「2050年までに世界全体の排出量を半減する」という目標には原子力発電の振興と国民運動以外の具体策を欠いていたが、ブッシュ氏の新提案はそれに輪をかけて抽象的である。「それぞれの国は独自の中期的削減目標をもって取り組み、各国を縛る国際的枠組みは必要ない」というのだから、実効性を疑問視する声が出ても無理はない。が、ドイツのメルケル首相は「サミットに向けた重要な態度表明」として評価し、英ブレア首相も「初めて数値目標の必要性に触れた」(1日『日経』夕刊)として歓迎した。しかし、EUのディマス欧州委員(環境担当)は、1日に発表した声明の中で「(温暖化ガスの)削減義務にも排出権取引にも言及せず、あいまいな目標を示しただけ」と批判した。(2日『日経』)
 
 さらに、1日の中国中央テレビの報道では、温家宝首相が5月30日の国務院常務会議で、気候変動に対応するための国家計画をまとめたらしく、そこにはエネルギーをムダ遣いする成長方式を改め、人口増加を抑えることなどが提起されているという。また、オーストラリア政府の首相諮問委員会は1日、ハワード首相宛ての報告書を発表し、そこには、世界的合意の形成を待たずに、2012年までに同国に温暖化ガスの排出権取引市場を設立すべきだと書いてあるらしい。(2日付『日経』)

 各国それぞれの事情がある中で、こうして「温暖化ガスの排出削減は急務」という世界的合意は形成されつつある。排出量が最も多いアメリカや中国がその削減に最も消極的であるのは残念だが、これで主要各国が地球温暖化問題に対して“同じ方向”を向いたという点を私は評価したい。あとは、6日からのサミットでさらに有意義な合意に到達できることを祈るものである。

谷口 雅宣

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コメント

副総裁先生

ブッシュ大統領の動向が気になるところですが、昨年と今年とでは「地球環境保全」「地球温暖化防止」については大きなうねりを感じぜざるを得なくなってきました。

15年も前から警鐘を鳴らすだけではなく、実践なさってこられた副総裁先生の先見力に改めて敬意を表します。

小生も生長の家に触れなければ単なる「環境保全業者」だったと思います。考えただけでもゾッとします。

形だけではなく、心底から使命感に基づいて仕事をやらせていただくことに感謝の念が沸々と沸いてきます。

ブッシュ大統領だけでなく、我が国の遅れた環境行政も世界の先鞭をつけられると確信しております。

しかし、今朝の産経新聞で東京都知事は東京の環境行政が一番だと自負しておられるようですが、「裸の王様現象」が進んできたように感じます。こちらのほうが心配です。

投稿: 佐藤克男 | 2007年6月 4日 07:03

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