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2007年5月25日

安倍提案は“掛け声”だけ?

 今日のニュースでは安倍首相の“美しい星”提案が話題になっているが、有効な具体策に乏しく“ムード先行”の感が否めない。日本経済新聞社主催の第13回国際交流会議「アジアの未来」での演説で同首相は、「2050年までに地球全体の温暖化ガス排出量を半減」することを世界共通の目標として採択することを提案した。2012年で終る京都議定書の後を見越した“世界全体の目標”を明確に打ち出したという点では評価できる。が、肝腎のその議定書の目標を日本自身が達成できるかどうか危ぶまれている現状では、もっと斬新で具体的な方策を伴った提案をしてほしかった。ただ、この分野での政府のヤル気を疑っていた私にとっては、「ヤル気はあるよ」と言ってもらった気がして、ありがたい。

 もちろん、安倍提案には具体策が全くないわけではない。しかし、数少ない具体策の中にあるのが「先進的な原子力発電技術の開発」というのだから恐れ入る。首相の考えでは、原発をどんどん更新することが“美しい星”実現への道なのだ。また、日本国民に向けては、「1日1キロ温暖化ガス削減」の運動を提唱している。このスローガンの意味は分りにくい。「国民1人が年間に1キロの温暖化ガスを削減する」のか、それともその削減を1年間(365日)継続することで、1人が年間365キロを削減するのか? 『日経』の説明を読むと、どうやら前者のようであるが、それならスローガン中の「1日」という言葉は不要である。また、この削減運動の具体例を見ると、「エコドライブ」「マイバッグ」「節水」「家電の省エネ化」「ゴミ分別の徹底」など、環境意識のある国民ならすでに実行済みのものばかりだ。

 問題は、「みんなで半減しましょう」と提案しながら、「自分はどうするか」を言わないところにある。EUは先ごろ、「2020年に1990年比で20%削減」というEU自身の削減目標を決定したが、安倍首相は日本の削減目標を言わなかった。『日経』はその理由を「日本独自の目標設定を避けたのは、現状計画の達成が厳しい事情の反映でもある」と分析している。つまり、京都議定書の目標達成が難しいからだ。これについて首相は、「日本が約束した6%の削減目標を達成するため総力を挙げて国民全体で取り組む」と強調したという。「1キロ削減」の国民運動を展開すれば議定書の目標達成にいたると考えているのだとしたら、大変甘い見方だと思う。

 本欄で何回も触れてきたが、私は温暖化抑制のためには、この種の“小手先”の方策や、“掛け声”だけでは足りないと考える。地球温暖化の原因は、化石燃料の大量使用からくる大気中の温暖化ガスの上昇なのだから、この原因を除かなければ問題の解決はない。安部案は、これを原子力エネルギーの増加と二酸化炭素の地下固定、家電製品の買い替えを含めた国民の省エネ努力で達成しようというようだ。自民党の経済基盤である大企業の利益にならないことはしないとの明確な意図が読み取れる。それを「環境保全と経済発展の両立」という言葉で表現しているのだとしたら、ピントがズレていると思う。先ごろのIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の報告書にあるように、「今、本気でクリーン・エネルギーへの転換を図れば、比較的安いコストで温暖化の進行を防げるが、対策を遅らせば将来のコストは耐え難いものになる」のである。そういう意味で、環境保全と経済発展は両立するのであって、大企業の利益増進のために環境保全対策を考えるのは主客転倒である。
 
「化石燃料を燃やす」という現在の我々の活動自体が、地球環境へのコストを現実に生んでいるのである。そのコストを商品やサービスの値段に正しく反映させることが、本当の意味で「環境保全と経済発展の両立」につながる。これには「炭素税」や「環境税」を課すのが最も分りやすく、シンプルである。が、経済界は「CO2をタダで排出できる」という既得権を失うので、猛反対している。これに対して考案されたのが、企業や事業所ごとに温暖化ガスの削減義務を負わせる「キャップ方式」と「排出権取引」である。EUはこの方式をすでに実施しているが、安倍提案にはこのいずれの方式も言及されていない。そういう意味で、今回の提案は具体的制度の提案というよりは、“掛け声”の要素が大きいのが残念だ。

谷口 雅宣

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コメント

副総裁先生

最近、太陽電池(本当は電池ではなく太陽光発電モジュール)の輸出の話しが出てきまして、ヨーロッパの自然エネルギーについて調べてみましたら、太陽電池の性能、生産について日本は世界一ですが、環境保全行政は全くの後進国でした。

日本は太陽光発電の補助金はなくなりましたが、スペインでは1kWh当り約30万円も出るのです。そして売電は1kWh当り約60円(日本では25円)で買電は何と7円(日本は約20円)です。

今、ヨーロッパでは全くの売電目的のためだけの太陽光発電所ブームと言ってよいほどです。投資金額は大きいですが10%から15%の利回りになるようです。それとスペインでは新しい家を建てるときは太陽光発電でないと許可がおりないそうです(これは聞いた話しです)。

行政のあり方一つでエネルギーの方向性が大きく変わるのですね。
危険で温暖化防止に役に立たない原子力よりクリーンな太陽光発電に重点をおいた行政が必要だと思います。

投稿: 佐藤克男 | 2007年5月27日 09:53

佐藤さん、

 ヨーロッパの環境行政の話、興味深いです。
 どこかのサイトにまとまったデータが載っていませんか?

投稿: 谷口 | 2007年5月28日 16:06

副総裁先生

私の場合こちらで調べさせて頂きました。
http://www.priee.org/modules/xfsection/article.php?articleid=47

http://www.greenfund.co.jp/korea.html

私どもにとってはよく理解できるサイトでした。

投稿: 佐藤克男 | 2007年5月28日 17:16

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