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2007年5月 6日

アカゲラとヤマガラ

 休日を過ごすため、久しぶりに大泉町の山荘に来ている。標高1200メートルのこの地は、春の到来が東京より1カ月ほど遅い。ヤマザクラはまだ蕾で、可憐なスイセンやセイヨウタンポポが咲いている。昨年のちょうど今ごろの本欄に「遅い春」という一文を書き、そこには「庭のサクラはまだ咲いておらず、タラノメも伸びていない」とある。今年もそんな状況である。2005年の同時期の本欄には、サクラはもちろん「シバザクラ、スイセン、レンギョウ、チューリップ、ユキヤナギ、タンポポ……」と花の名前を並べて書いたから、少なくともこの地は、さほど“温暖化”していないようである。

 山荘は板壁で覆われているが、西側に伸びた屋根と板壁との接点付近に、子供の拳大の穴が黒々と口を開けていた。屋根の裏面には、先端から15センチほど内側に換気用のスリットが入っている。この穴には、小動物の侵入を防ぐために目の細かい金網が内側から張ってあるのだが、その金網の一部が直径4センチほどの円形に破られているのが見えた。そして、穴の周囲には何か柔らかい綿状のものが詰まっているようである。恐らく、鳥が巣作りをしているのだ。自然の中で暮らすということは、こういうことである。以前にも、北側の屋根の裏面に張った金網が破られて、そこから小動物が屋根裏まで侵入したことがある。この時は、夜中にゴトゴト、パタパタという音がして安眠を妨げられたから、今回はそんなことがないように、山荘の管理会社の人を呼んで、2つの穴の処置を依頼した。
 
 その人が来るまでに、妻は薪ストーブ用の金鋏みを使って、鳥の巣を抜き出した。まだ完成していなかったのか、抜き出した詰め物の中に卵やヒナがいなくて幸いだった。そんな所へやってきた管理会社の人から、興味ある話を聞いた。壁に穴を開けるのはキツツキだそうだ。私は、山荘近くのカラマツの木にキツツキの一種であるアカゲラがよく来ることを思い出した。彼らはヒョッ、ヒョッという鋭い声を上げながら時々、玩具の機関銃のようなカタカタという音を連発する。嘴で木を叩いて穴を開ける音だ。そんな調子で突かれれば、せいぜい数センチの厚さしかない山荘の板壁はひとたまりもないだろう。ところが、管理会社の人によれば、キツツキは家の壁に穴を開けても巣は作らないのだという。巣を作るのは、その穴から中へ入れる大きさの、小型の別の鳥なのだそうだ。私は妙に感心してしまった。キツツキは、他の鳥のことを考えて穴を開けるわけではない。しかし、自然界ではうまい具合に、キツツキの穴を利用する鳥がいる。

 そんなことを考えながら周囲を見回していると、頭の黒い小型の鳥が高く短い声を出しながら、付近を飛び回っているのに気がついた。双眼鏡と野鳥の本で調べてみると、ヤマガラだった。カラ類の鳥ではシジュウカラが有名だが、山荘近くではこれより小型のコガラをよく見かける。ヤマガラはカラ類では最も大きく、頭部や翼の色はシジュウカラやコガラと似ているものの、腹部が赤茶色をしているので識別しやすい。その鳥が、我々人間が目の前に何人もいるにもかかわらず、時々近づいてきて鳴く。問題の穴から我々が遠ざかると、そこへ寄ってきて様子を見る風情である。我々は、彼らの巣作りを妨害してしまったのだ。

 鳥が屋根の下に巣作りをすることは問題ない。しかし、屋根や壁に穴を開けて屋根裏へ侵入されるのは困る。だから、壁や屋根の穴をふさぐ手立ては取らねばならない。では、人間が野鳥と共存するにはどうしたらいいのか?……と考えていたら、アイディアがひらめいた。山荘の南側のヤマザクラの木には、すでに鳥の巣箱がかかっている。しかし、古くなって屋根の一部が壊れていた。この巣箱は一度、コガラが利用してそのままの状態になっていたものだ。私は、巣箱を新調してヤマガラに使ってもらおうと思いついた。そこで、町へ下りていった時に巣箱を2つ買って帰り、ヤマザクラとそれに隣接する木(名は不明)の幹に針金で結びつけた。そのとたんに、ヤマガラの夫婦が巣箱に飛んできたのには驚いた。鳥の習性は、実に不思議である。
 
谷口 雅宣

【参考文献】
○やまなし野鳥の会研究グループ編『山梨の野鳥』(1983年、山梨日日新聞社刊)

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