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2007年5月 7日

焦点となる原子力発電

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第3作業部会がまとめた報告書の内容が話題になっている。大部の報告書のどこを取り出して強調するかで、同じ報告書を違うように読むことができる。この文書は、大勢の科学者が関与しているとはいえ、科学者たちが書いた原案を、各国の政治家がそれぞれの立場で書き直すことができる。だから、“科学的文書”というよりは“政治的文書”であることを忘れてはいけない。しかし、科学を無視してはいない点は強調していいだろう。IPCCは、2月に第1作業部会が「温暖化予測」の報告書を出し、4月には第2作業部会が「被害予測」を出したのに続いて、今回、温暖化の「緩和策」についての報告書を出した。今後は、いくつもある緩和策のうち政治家や国民がどれを選択するかが焦点となるだろう。
 
 各紙の論調を記事からさぐると、『産経』は5日の紙面で「適切な温暖化防止策をとった場合、世界の温室効果ガス排出量が2050年に現状より半減し、産業革命からの気温上昇を2.4度に抑えることができる」と書き、かなり“楽観的”に伝えている。が、主張(社説)では「適切な温暖化防止策」の具体的内容には言及せず、「まずは議定書の目標達成が必要だ」と抽象的である。これに対し『朝日』は同じ5日の紙面で、「気温上昇を影響の少ない2度程度に食い止めるには、遅くとも2020年までに世界の温室効果ガスの排出量を減少に転じさせ、50年には00年より半減させる必要がある」と指摘している。両紙は同じことを言っているのだろうが、書き方の違いから、読む者の受け取る印象は大きく違う。私は『朝日』の書き方のほうが、現状から考えて正直だと思う。

『日経』(5日付)は経済紙らしく、温暖化の緩和策の中で経済的効果もリスクも多い原子力発電について、作業部会で「評価を巡り議論が紛糾した」ことを明確に書いている。より具体的には、「原発を推進する米国が温暖化ガスの排出の少なさを示す記述を盛り込むよう提案。これに対し、安全性の問題から脱原発に動く欧州の一部が反発した」ため、報告書には「安全性や核拡散、放射性廃棄物の問題が存在する」との表現が盛り込まれたことを伝えている。(『朝日』は5日の社説に明記)また、本欄でたびたび触れた排出権取引についても、『日経』は作業部会が「排出権取引が温暖化ガスの削減に効果があることを明記」していることを伝えている。
 
 英字紙である『ヘラルド・トリビューン』(ニューヨークタイムズ発行)は、5~6日の紙面で作業部会が「クリーンエネルギーへの移行」を勧めている点を強調している。それによると、大気中のCO2の量を安定させるために早期の対策が必要であることを述べた後、「この目的達成に向かって今後25年、既知の技術を用いて政策転換を行っていけば、気候変動を起こさないエネルギー源への転換を目指した何世紀にもわたる道程へと歩み出すことになるだろう」というのが、報告書の結論だと紹介している。また、同紙の7日の社説は、「今、本気でクリーン・エネルギーへの転換を図れば、比較的安いコストで温暖化の進行を防げるが、対策を遅らせば将来のコストは耐え難いものになるだろう」として、今回の報告書の結論を歓迎している。

 アメリカの場合、「クリーン・エネルギー」の中に原子力発電を含めているのだろう。EUは、これを含むべきとする勢力と、除くべきだという勢力が拮抗している。これに対して日本では、政府が先頭に立って“原子力立国”などと唱えている。国民の電力会社に対する不信感がどうであっても、これを推進しようという意欲に燃えているようだ。このことは、この連休中、甘利経済産業相が原子力関連企業の社長らを含む官民一体の大使節団(約150人)を引き連れてカザフスタンを訪問したことから考えて、明らかである。これによってわが国は、ウラン燃料の年間の国内需要(9500トン)の3割強の権益を獲得し、共同声明を出して相互が「戦略的パートナー」だと位置づけた。(5月1日『朝日』)

 私は原子力を「クリーン」だと思わないことは、以前にも書いた。放射性廃棄物は処置方法が分らない危険物であるから、頑丈な容器に詰めて地下深く埋めたとしても、処理を次世代、次々世代に先送りしただけであり、世代間倫理の問題を抱えている。核拡散の問題も、隣国を見れば深刻であることは明らかだ。そういう視点から、早期に“自然エネルギー立国”へと全力で転換することを強く望むものである。
 
谷口 雅宣

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