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2007年5月19日

宗教と科学

 宗教専門紙の『中外日報』からの依頼で、4回連続で短文を書いた。それぞれ5月3日、8日、15日、22日の同紙に掲載されるが、さらに1文を加筆して以下に順次掲げることにする:

1.地球環境と宗教
 地球環境問題がようやく国際政治の前面に上ってきた。しかし、この21世紀最大の問題をどう理解するかについて、人類はまだ合意に達していないようだ。私は5年前に生長の家から上梓した『今こそ自然から学ぼう』に「人間至上主義を超えて」という副題をつけて、この現代の思潮が地球環境問題の根底にあることを指摘したが、どれだけ説得力があったか分からない。
 
 人間至上主義とは、人間にとって何よりも大切なのは人間だから、人類の増殖と発展を至上価値として追求すべきとする考え方だ。「至上価値」という意味は、どんな犠牲を払っても擁護し、あるいは実現すべき価値ということだ。このような考え方にもとづいて、私たちは自然を人間の目的のために改変し、改造し、破壊してきた。今日の地球温暖化は、その結果であると言わねばならない。

 もし、この人間至上主義が問題だということを人類が合意できれば、地球温暖化や自然破壊の問題の解決は比較的容易だろう。そのためには人間至上主義的考え方を棄て、それに代る--例えば自然至上主義的な--思想や信条を採用し、拡大していけばいいからだ。そして、そういう思想・信条にもとづいた社会制度や技術、ライフスタイルを構築していくことで、ゆっくりではあるが、人類の進む方向に変化が生じていくだろう。ただし、その変化が、地球環境の悪化の速度より速くなければ、多大な犠牲が出ることは言うまでもない。

「人間至上主義を推進したのはキリスト教だ」という人が今でも時々いるようだが、責任転嫁の議論だと思う。なぜなら、“神道の国”とか“仏教国”とも言われる我が国によって、過去どれほど環境が破壊され、現在も破壊されつつあるかを、この議論は無視しているからだ。地球環境問題は人類共通の課題だから、すべての宗教が自分の問題として取り組むべきだと私は思う。

2.新しい宗教的自然観
 地球環境問題の解決を技術やテクノロジーのレベルで論じる人が、まだ多い。曰く、自動車はすべてハイブリッドや燃料電池車に変え、エネルギーは原子力の利用を中心にし、それでも排出される温暖化ガスは地下に高圧密閉し……等々。

 こういう議論は、しかし片手落ちである。これでは、それらの技術がどういう動機で開発されるかが問題にされていない。技術は人間にとって一種の“道具”であるから、“優れた道具”さえ手に入れば、人間はそれを“優れた目的”に使うと考えているかのようだ。しかし、1945年の広島や長崎で、また2001年のニューヨークやワシントンで、その期待は見事に裏切られている。しかも、さらに皮肉なことに、この2例とも、それぞれの“優れた技術”の使い手たちは、その技術を“優れた目的”に使ったと信じていたのである。

 私がここで指摘したいのは“人間の心”が技術を生み出し、技術を使うということである。そして、“人間の心”は常に正しいとは言えないのである。前回触れた人間至上主義的考え方の最大の欠陥は、この事実を真正面から受け止めないことである。人間が科学技術によって力を得て、増殖し、自然と対峙する際には、人間は正しい判断のもとにその力を行使するから、常によい結果が出て、人間はさらに進歩する……そんな楽観論を、私はその背後に感じるのである。

 私は今「人間が……自然と対峙する」と書いた。それは、そうすべきだという意味ではない。人間至上主義者はそういう態度をとりがちだからだ。私は逆に、「自然と対峙しない人間」の生き方を提案したい。それは、人間至上主義ではなく、人間自然主義、あるいは自然中心主義とも呼べるかもしれない。自然の背後に人間以上の価値を認め、その価値のために人間が欲望を律する生き方である。新しい宗教的自然観が構築されなければならないのである。(つづく)

谷口 雅宣

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コメント

谷口 雅宣先生へ

 合掌 ありがとうございます
福岡教区ヤングミセスでは『今こそ自然から学ぼう』のテキストを利用して今年1年間輪読会とエコについての情報交換会を開催しております。昨日もその座談会でした。6名の方々が集い第2章を拝読させて頂きました。輪読会を終了し本を閉じると同時に全員が拍手をしていました。この本は「おもしろい」「すばらしい」「一番好きな本」などのコトバが聞かれ「自分の快適さだけを求め生活をしてはいけないと思いました。観の転換の大切さを感じました」「学校の役員なので学校の講演会で環境問題を親子で取り組める企画をしたい」「神においてすべては一体という気持ちを忘れずに過ごしたい」など・・素晴らしい感想で一杯でした。私の周りでも一緒に買い物に行く近所の方に「肉食は地球温暖化につながってるんだって・・」と知らせただけなのですが、彼女はそれ以来、お肉は食べずお魚ばかり買っていると言われてました。レジ袋、マイお箸も拡がってきてます。つい先日は、いつも車で移動されていたリーダーさんが「炭素ゼロ運動」にちなんで自転車を買われたと言われてました。一人一人の小さな力の大きさを感じている人達は、とっても増えていっている様に感じます。そして、私達は生長の家信徒として「地球の光輝く姿を祈っていきましょう」という声があがってきております。谷口雅宣先生の素晴らしいご指導に心から感謝致しております。ありがとうございます。

投稿: 宮本京子 | 2007年5月25日 12:46

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