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2007年3月13日

地球温暖化と臨海部の土地

 3月初め、有楽町の東京国際フォーラムで生長の家講習会があったとき、体験談を発表してくださったスチュワート・ベーカーさん(Stuart Baker)から最近、メールをもらった。というより、私のメールのアドレスが分からないというので、本欄にコメントする形で感想を寄せてくださったのである。その中に「私は貴方が、将来海面上昇のために東京の土地の値段が下がることを予告したときには、少し不安になりました」という件があった。また彼は、アル・ゴア氏の映画『不都合な真実』を見たときにも同じように心配した、とも書いてあった。私は、自分の講話の細部をよく覚えていなかったので、その時の録画を確認してみた。すると3月4日の午後の講話の中で、私は本当に“予言”のようなことを言っていたのである。

 私はその日、受講者からの質問に答えて半時間ほど話した後、2月4日の本欄でも書いたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書の内容を紹介した。さらに、同月20日の本欄に書いたように、その報告書の内容は実は“保守的”であり、気象学者の中にはもっと急激な温暖化と海面上昇の危険を指摘する人もいることに触れた。そして、実際の海面上昇は「10年から20年先のことでしょうが……」と前置きをしてから、「今は東京でも臨海の埋立地がずいぶん人気があるようですが、そのうちに値段が下がってくると思いますよ、石原さんには申しわけないけれど……」と言ったのである。

 この「石原さん」とは、もちろん選挙が間近に迫っている石原慎太郎・東京都知事のことである。また「申しわけない」と言ったのは、同氏が臨海部の埋立地を中心とした2度目の“東京オリンピック構想”を選挙の旗印にするつもりらしいからである。そんな大規模な建設活動によって大気中の二酸化炭素をさらに増やし、立派な競技場や高層ビル群を造ったとしても、地球温暖化が進行すれば、海面上昇が起こることを誰も阻止することはできない。結局、同氏は現代版の“バベルの塔”の建設に走った政治家として名を残す……そこまではハッキリ言わなかったが、いいたい気持はあった。石原氏だけでなく、現在の日本の多くの政治家は、どうも見る方向、進むべき方向を誤っているような気がするのである。
 
 上記のアル・ゴア氏の映画には書籍版があり、日本でもベストセラーになっていることは7日の本欄に書いた。その本には、温暖化の進行で海面が5~6m上昇した際のニューヨーク市のマンハッタン地区のシミュレーションが、上空からのカラー写真として掲載されている。そして、そのページには「世界貿易センター・メモリアルは海の中だ」と書いてある。これを見ると、あと10年もすれば、海面上昇で世界の海辺の大都市は壊滅的打撃を受けるかのような印象を受ける。しかし、ゴア氏は「何年後」という話ではなく「グリーンランドの氷がすべて融ければ」という条件下で語っているのだ。それが現実にいつ来るかは、科学者の間でも見解はまちまちである。専門的な議論に興味のある方は、このサイト(ただし英語)を参照されたい。

 ところで、東京湾の臨海部の土地は、本当に危ないのか? これについては、短期的には大丈夫だろうが、長期的な保証はないと言うほかはない。では「短期」とは何年ぐらいか? 私は上記で「10~20年」などと語ったが、これにはあまり根拠がない。強いて言えば、科学者の間の“悲観的予測”がすべて当たった場合だろう。しかし、ニューヨーク市では、万一のことを考慮した都市計画の検討がすでに始まっているようだ。3月12日の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。
 
 それによると、コロンビア大学の気象システム研究センター(the Center for Climate Systems Research)の推計では、2030年までに海面は13cm上昇、2050年までには20cm上がるとし、数あるモデルのうち悲観的なものは、2030年から2080年までに40cmほどの海面上昇を予測するものもあるという。しかし、この程度の海面上昇ではニューヨーク市が壊滅的被害を受けることはないそうだ。それよりも現実的な問題は、温暖化にともなって起こる気象の悪化と、ジワジワと海面が上昇することによる風水害の増加だという。そして、人々の温暖化への意識がしだいに高まれば、海抜が低い地域の土地の値段が下がることだという。この最後の問題は、海面上昇の長期的傾向とは関わりなく、人々の心理によって起こるだろう。その原因は、ニューヨーク市がカトリーナ級の大型ハリケーンをまだ経験していないが、ハリケーンが来る可能性があるという点にあるらしい。

 上記の記事によると、ニューヨクのマイケル・ブルームバーグ市長(Michael Bloomberg)は昨秋、ニューヨーク市に長期都市持続計画室(the Office of Long-Term Planning and Sustainability)を開設し、これから25年先までの同市の住宅や交通機関等のインフラ整備を検討する中で、気候変動にも対応する戦略を構築しようとしている。同室では、環境保護局や建設局など市の他の部局と協力しながら、100以上の市民団体とも会合をもち、市を構成する各区の市民と話し合い、同室のウェッブサイトに寄せられた何千通もの電子メールを消化した。その結果は、この4月に何らかの計画、あるいは計画のための枠組みとして発表される予定だという。また、保険会社は皆、気候変動を考慮したプランを設定していて、オールステート保険(Allstate)などは、海岸沿いの8地区にある住宅所有者との保険契約を延長しない方針を決めているらしい。

 こういう話を聞くと、私の3月4日の“予言”も、いくばくかの信憑性をもってくるのではないだろうか……。

谷口 雅宣
 

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