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2007年3月30日

日本の環境技術に期待

 わが国の環境技術の優秀さは誰も認めるところだが、最近もそれを証明する様々な成果が発表されている。本欄ではバイオエタノールの問題を継続的に取り上げているが、今日深刻化しつつあるのは「食料と燃料の競合」の問題だ。例えばアメリカでは、ブッシュ大統領が26日、“ビッグスリー”の首脳をホワイトハウスに呼んで、今後10年でガソリン消費量を20%減らすという大統領の目標に理解を求めたという。(27日『日経』夕刊)メーカー首脳もそれに協力するとして、2012年までにアメリカで生産する自動車の半数をエタノールを含む代替燃料で走る車にする考えを示したそうだ。こういうトップレベルでの環境志向の表明は、日本ではあまり見られない。しかし、この種の動きは、トウモロコシを原料とするアメリカのバイオエタノールの生産動向や、穀物の値段、さらにはそれを生み出す土地の値段にまで波及する。
 
 3月初めにアメリカ農務省が発表したトウモロコシの作付予想面積は、昨年の春に比べて11%増の「8700万エーカー」という過去最大規模だったそうだ。(同上紙)これから計算すると、2007~2008穀物年度(07年9月~08年8月)のトウモロコシ生産量は前年比16%増の122億ブッシェルになるという。このうちエタノール生産に使われる量は32億ブッシェルと予想されるから、食料分は90ブッシェルだ。ところが、前年の生産量は約105億ブッシェルだ。これでは食料分が前年より少なくなるから在庫が減り、値段は上がるだろう。だから実際には、値上がりを見込んだ生産者は農務省の予想を上回る作付けをする可能性が大きく、穀物商社などは最大で「9000万エーカー」の作付けを見込んでいるという。前にも書いたが、トウモロコシの作付けが増えれば当然、ダイズの作付けは減り、ダイズ製品の値上がりへと続く。
 
 今日(30日)の『日経』は、こういう動きと連動した穀物価格の上昇によって、日本国内でも加工用食用油や家畜のエサなどのトウモロコシやダイズ製品の値上がりが拡がっていることを伝えている。製油大手と大口需要家との間の取引では、今年1~3月の価格は昨年10~12月期より7%上がり、4~6月期にも値上げが予想されている。このうちマーガリンやマヨネーズ・メーカー向けの値上げは、昨年7~9月期から3期連続という。家畜用の配合飼料については、値上げの影響を和らげるために畜産農家向けの補填用基金が設けられているが、この適用期間は1年と決まっているため、来年4~6月期からは食肉用の家畜の卸売価格が「10%」程度値上がりする可能性があるという。
 
 甘味料の値上げも始まっている。29日の『日経』は、糖化製品(甘味料)メーカーは1月出荷分の値上げに続いて、4月出荷分の異性化糖などを再値上げすることを決めて、飲料メーカーや製菓メーカーとの交渉を始めたと伝えている。理由は、「トウモロコシが高値で推移しており、コスト高を転嫁する」ためだという。「異性化糖」とは、ブドウ糖に酵素を作用させて果糖に変化させたもので、デンプンから作ることができ、砂糖より安く甘味が強い。清涼飲料水や菓子類に使われている人工甘味料だ。こうして、食物・穀物を原料とするバイオエタノールの生産は、食品全体の値上がりへとつながっていくのである。
 
 だから、こういう動きの中で「食品と競合しない」方法でバイオ燃料を生産する技術が開発されれば、地球全体にとってよい結果をもたらすに違いない。それを日本企業がすでに実現しつつあると知って、私はうれしくなった。28日付の『日経』には、岡山県と三井造船が、ワラや籾殻からバイオエタノールを生産する実証試験を4月から始めることを報じており、今日の同紙には地球環境産業技術研究機構(RITE)と本田技術研究所が木くずや雑草の繊維の全成分を短時間でエタノールに変える技術を開発したとある。この2件の新技術に関しては、本欄は2006年の5月13日6月26日9月15日にも書いているが、今回はその技術が拡大したということだろう。
 
 岡山県と三井造船の実証実験は、同県の北部地域で稲ワラや籾殻、トウモロコシの茎や葉、ソルガムなどのうち生産に最適の作物を調べて、生産効率や採算性を検証するのが目的という。三井造船は、すでに一昨年の6月から、エタノール製造のための実験工場を稼動させていて、岡山県北部の真庭地区から採れるヒノキの木屑を原料として使っていた。今回は、エタノールの原料の範囲を広げて実証実験を行うことになる。籾殻を原料にしたエタノールの生産は、東大生産技術研究所などのグループも手がけている。また、ホンダとRITEは、すでに稲ワラなどからバイオエタノールを製造する基礎技術を開発しているから、今回は木屑や雑草などの植物繊維一般にその技術を広げたことになる。

 ただし、ホンダとRITEの技術には、1つだけ気になる点がある。それは、植物繊維の分解に使うバクテリア「コリネ菌」に遺伝子組み換えが行われていることだ。これにより、これまで選択的だったこの菌による糖の分解をすべての糖に及ぼすことができるため、エタノールの生産効率が従来の2~3倍に向上するという。生産の方法としては、「雑草や木くずなどを集め、そこに含まれる繊維セルロースを酸や酵素で分解して糖をつくり、反応タンクでコリネ菌を混ぜればエタノールができる」と記事には書いてある。遺伝子組み換え菌が自然界に放たれた際の、影響評価を事前に充分に行ってほしいものである。

谷口 雅宣

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