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2007年3月16日

IPCC4の予測の詳細は?

 2月初め、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会」の第4次評価報告書(IPCC4)の「まとめ」の部分が発表され、本欄では2月4日にそのことを書いた。この報告書は、世界の気象学者の6年間の研究をもとに3年をかけて書かれ、今回の発表までには1000人以上の科学者が関係しているという。2月20日の本欄で述べたように、この“詳細版”は「1章だけで150ページあり、11章からなる相当大部のもの」で、4月初めにベルギーのブリュッセルで発表される。その内容の一部をメディアが報道しだした。内容が予想外に深刻だからだろう。
 
 12日付の『ヘラルド・トリビューン』紙は、「気象学者らは深刻な未来を詳述」(Climate scientists detail a grim future)という見出しのAP通信の記事を掲載し、次のような未来を描いている--
 
 今後20年以内に何百万人もの人々が水不足に陥ると同時に、他の何千万人もが毎年、洪水のために住居を失う。マラリアなどの熱帯性の伝染病が拡大する。ホッキョクグマは動物園以外にはほとんどいなくなり、ハリアリなどの熱帯性の害虫が生息地を広げる。世界の食糧生産は温暖化にともなって一時的に増えるが、2080年までには何億人もが飢餓に陥る可能性がある。科学者の間できわめて確かだと思われるのは、温暖化の進行によって生物の性質と生息地が変化すること、海水の酸化がさらに進行すること、湿地や湿原が失われること、サンゴ礁の白化、アレルギーを起こす花粉の飛散拡大など。そして、これらの影響により最も深刻な被害を受けるのは貧困層の人々だという。

 これらの被害を具体的に表すと--

○現在は水不足になっていない何億人ものアフリカ人と何千万人ものラテン・アメリカの人々が、20年以内に水不足に陥る。アジアでは、2050年までに10億人が水不足に陥り、2080年までには、世界の11億から32億人もが水不足に悩む。
 
○2030年までには、温暖化に関係する病気--栄養失調、下痢などによる死亡率が増大する。マラリアやデング熱、あるいは汚染された貝などによる食中毒が増加する。ヨーロッパの小規模な氷河は消滅し、大きな氷河も2050年までには劇的に縮小する。そして2100年までには、ヨーロッパの植物種の半数は存続が危うくなるか、絶滅する。

○これらの変化が総合的に働いて、2080年までには2億~6億人が十分な食糧を得られなくなる。2080年までには、海面上昇がさらに進んで、年間に1億人が洪水の被害にあう。アメリカの都市でのスモッグが悪化し、2050年代の半ばには、大気中のオゾンに関係する病気による死者は、1990年代のレベルから4.5%増える。

 世界中の気象学者がこういう問題に真剣に取り組み、それに呼応してヨーロッパの政治家も次世代の被害者の数を減らそうと対策を練っているのに、日本の政治家は何を考えているのだろうか。今日(16日)の『産経新聞』には、都知事選に出馬する4人の主要候補者が、公開討論会をやった様子を伝えているが、“五輪招致”を推進しようという現職の石原慎太郎氏の言は--
 
「人間や社会も国家も夢がないと生きてゆけない。夢のあることをやろう。招致で交通渋滞解消などインフラ整備の引き金にもなる」「日本の価値観を示すのは世界平和に必要。日本人が大きな夢を持てば新しいエネルギーが出てくる。それで日本の存在感が発揚される」

 ピント外れの視点だと思う。「五輪の夢に陶酔することが日本の生きていく道だ」というのでは困る。政治家の役割は、国民に夢を見させることではない。地球環境の深刻さは、“国威発揚”や“日本の価値観”などより一回り大きな課題であることを忘れてはいけない。「夢を見せる」ことは現状に目をつぶることであり、次世代への責任回避につながる。むしろ「現状の生き方では将来はない」という事実を告げ、甘い「夢から醒ます」ことによって、国民は初めて真剣に人類的課題に取り組むことができるのではないか。
 
谷口 雅宣
 

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コメント

谷口雅宣先生

 前段からは、先生の環境に対するご心配が切々と伝わってきます。しかし、後段の石原慎太郎に対する批判は、過激の様でもあります。

 前回のコメントにありました山本良一教授は、環境問題解決のためには、もはや国を動かさなければ駄目だ。そして、日本は「環境立国宣言」をすべきだ。と話していました。このような夢は実現すべきですし、吾々はそのために何が出来るかを考える時がきています。
 
 ただ、いろいろと話題の「整備新幹線」を、環境によいから推進しようと言う政治家もいて、“環境”と言うコトバが政争の具にされている面もあります。何が正しいかしっかりと見極める必要もあります。

投稿: 北田 順一 | 2007年3月17日 13:51

先生の地球環境の深刻さに関するお考えは十分理解できるが、世の中の色々な事象に対する許容の幅が狭くなっているのではないでしょうか。それは、戦中の「贅沢は敵だ!」の発想と同じではないでしょうか?
ものの見方で色んな価値観が出てきますから、それらを総合して評価する方法もあるのではないでしょうか。石原氏に対する批判は、総合的視点が欠如していると思います。

>かつて国民は、「満洲」や「大陸」や「南方」の夢を見て戦争に突き進んで行った。

時代はもとより、社会情勢そして国民が知りうる情報量が全く違うのに、なぜこのような記述をされるのでしょうか。今の時代も、物事がそのように進んでいくとお考えなのでしょうか?

投稿: 早勢正嗣 | 2007年3月17日 23:14

私は谷口雅宣先生の御意見に全面的に賛成です!

映画「不都合な真実」や「緊急レポート このままでは地球はあと10年で終わる!」を読ませていただき、心から日本の政治家に立ち上がっていただきたいと願っております。

具体的にCO2削減に取り組んでいただきたいのです。

地球がなくなってしまえば、オリンピックどころではありません。

日本の政治家はなぜ危機感をもって動き出さないのか私も不思議でなりません!

他人事なのでしょうか?


被害があってからでは手遅れになりかねません。

ちまたでは、今年一年が山場だという説もあるくらいです!

谷口雅宣先生どうぞ声を大にしてお伝えください!

政治家を動かしていきましょう!

どうぞよろしくお願いいたします!

投稿: ローズマリー | 2007年3月18日 22:24

谷口雅宣先生
石原都知事の環境問題に対する政策と活動については、以下のサイトで公開されています。
東京発「環境革命」
大気汚染の元凶であるディーゼル車の条例による規制と、脱税の温床にもなっている不正軽油の撲滅作戦を実施。これを機に国は排ガス規制強化の2年前倒を決定。石油連盟など業界も都の要望を受け入れた。まさしく東京から日本を変えた象徴的事例である。
http://www.sensenfukoku.net/policy/kankyo/index.html
東京都レンジャー
環境省は小笠原を世界遺産の候補地にあげておきながら、自然保護官(レンジャー)を一人も常駐させていない。故に自然破壊が進んでいる。そこで石原は東京都独自のレンジャー制度を発足。初年度は小笠原と奥多摩に3人ずつ配置される
http://www.sensenfukoku.net/policy/lenger/index.html
国立公園革命
国立公園の監督者である国はその保護のために何もしていない。小笠原も例外ではなかった。そこで石原はエコツーリズムを導入。並行して国に自然保護法の改正を迫っていた。結果、国は東京都の構想に追随して自然保護法を改正。
http://www.sensenfukoku.net/policy/koen/index.html

投稿: 久保田裕己 | 2007年3月18日 22:30

皆さんのコメント、ありがとうございます。

 皆さんの忠告に従い、多少、文章の表現をやわらげました。
“筆が走る”ということはあるようです。

投稿: 谷口 | 2007年3月19日 08:52

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