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2007年3月28日

環境省は“本筋”を通すべし (3)

 2月26日翌27日の本欄で、環境省が策定を進めている環境影響評価(環境アセスメント)の新指針案について書いた。26日の『日本経済新聞』が、環境省はアセスメントの対象に「発電所」を含めない方針と報じたのに対し、翌日の『朝日新聞』は、アセスメントの対象に発電所は入ると書いていた。いずれの報道が正しいか確認するため、環境省の総合環境政策局環境影響評価課に電話で聞いたところ「2月26日の日本経済新聞の記事はこちらの意にそぐわない内容です。(新指針案からは)発電所を外してはいません」という答えだった。私は、これで一応は一件落着し、あとは「実際の指針案の公表を待つほかはない」と思ってそう書いた。ところが、今朝のNHKニュースは以下のように、『日経』の記事の通り「発電所」の特別扱いが決まったと報じたのである。

「大規模な開発事業の計画段階から環境への影響を検討する新たな環境アセスメント制度について、環境省は、27日夜、発電所を対象から外すことを正式に決めました。電力業界からの反対に押し切られたことに、制度が骨抜きになるのではないかという厳しい批判が出ています」
 
 私はこのニュースを聞いて嘆息したのである。その理由は、すでに上記2月26日の本欄にも書いたが、「企業による環境破壊を未然に防ぐ任務のある環境省が、企業活動に過度に同情的であっては“環境省”の名に値しない」からである。もう一つ、私がガッカリしたのは、日本の省庁が政策決定の際に作る「○○検討会」とか「○○研究会」などの本当の性格を見たような気がしたからである。この種の検討会や研究会は、「専門家」や「学識経験者」などという、いかにも中立的で、省庁の立場にこだわらない専門家をメンバーに含んでいるようであっても、そこでの議論がまとまらない場合、結局は省庁の“上から”の方針で政策決定が行われる--そういう“筋書き”の存在が透けて見えたように感じたのだ。上に触れた『日経』と『朝日』の報道の違いは、前者が“筋書き”を知っている人から取材したのに対し、後者はそれを知らない人、あるいは知っていても“公式見解”しかしゃべらない人から取材したのだろう。
 
 NHKのニュースによると、昨夜開かれた検討会では、「環境省が電力業界からの反対を受けて発電所を対象から外す方針を示したため、委員の多くが“導入の直前になって発電所だけを除外するのは納得できない”と反対し、会議は一時紛糾」したという。委員の多くが反対したのに環境省の意向にしたがって結論を出したというのでは、委員会など初めから設けなければよかったのだ。そして「結局、環境省側が発電所を対象外にしたまま座長に一任するとして会議を終えました」とある。こんなズルイやり方があるだろうか? この決定の責任が誰にあるのか、まったく明確でない。ちなみに、環境省のウェッブサイトによると、「座長」とは浅野直人・福岡大学法学部教授である。

 環境省が結論のまとめを急いだのは、「戦略的環境アセスメント(Strategic Environmental Assessment)」という新指針がこの4月から適用されるからだろう。SEAが対象にする大規模開発事業は「13」の分類があるようだが、その細部は不明である。しかし、考えられるものとしては、次のようなものがある--①道路の新設・改築、②ダムや放水路の新築・改築、③鉄道の新築・改良、④飛行場の設置・変更、⑤発電所や送電線の設置・変更、⑥工場の設置・変更、⑦廃棄物最終処分場の設置・変更、⑧埋立・干拓、⑨埠頭の新設、⑩住宅団地の新設、⑪自動車駐車場の設置または変更、⑫卸売市場・流通団地の造成、⑬土地区画整理事業。このうちの⑤だけを“特別扱い”する理由が、一体どこにあるのだろうか。国内の政治的力関係で環境行政が曲げられていくのでは、地球環境問題の解決はとてもおぼつかないと思う。
 
谷口 雅宣

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