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2007年2月 2日

バイオ燃料に黄信号

 バイオ燃料の使用拡大を謳ったブッシュ米大統領の一般教書演説から10日ほどしかたっていないのに、この新燃料の問題点が具体的に浮き彫りになってきた。

 1つは、本欄でも何回も(最近では1月6日)触れた「食料との競合」の問題である。今日(2月2日)の『日本経済新聞』夕刊によると、トウモロコシを原料とするメキシコの伝統的主食、トルティーヤの値段が急騰していて、同国各地で抗議デモなどが相次いでいるという。昨年までのトルティーヤの小売価格は1キロ当り6ペソ(約11円)だったが、今年に入って12~15ペソに上がったという。31日に首都・メキシコシティーで野党や労働組合が主催した抗議デモには4万人の市民が参加し、就任したばかりのカルデロン大統領は(地元紙の表現によると)“トルティーヤ危機”に見舞われているという。同国経済省は緊急に65万トンのトウモロコシをアメリカなどから輸入する決定をしたが、その程度の量では値は大きく下がらないと同紙は見ている。
 
 もう1つは、ヤシ油の生産方法の問題だ。これはインドネシアの名産品だが、旧宗主国のオランダを初めとしたヨーロッパ諸国の需要が急速に拡大しているため、それに応えようとする農民が環境破壊的な方法を使って生産しているというのである。2月1日付の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。それによると、インドネシアやマレーシアではヤシ農園を開発するために広大な面積の熱帯雨林が伐採され、ヤシの成長を急がせようと必要以上の化学肥料を使ったり、湿地を構成するピートモスを乾かすために水を抜き取ったり、ピートモスを焼き払ったりする方法が使われているという。昨年12月に発表されたオランダの研究者の調査によるもの。これによってインドネシアは、今や世界で3番目の温暖化ガス排出国になっているらしい。1位はもちろんアメリカで、2位は中国である。
 
 オランダはここ数年、ヤシ油の輸入を倍々ゲームで増やしており、昨年の輸入量は150万トンに達したという。輸入の相手国はインドネシアだけではない。環境保護団体のフレンズ・オヴ・ジ・アース(Friends of the Earth)の推定では、1985年から2000年までのマレーシアにおける森林伐採のうち87%は、ヤシ農園開拓のためという。インドネシアでは、ヤシの栽培に使われる土地は過去8年間で118%増加した。そして今回、ピートモスの乾燥や焼却処理が問題視されている。ピートモスは植物性のスポンジ状の土壌で、大量の炭素を吸収できるから温暖化防止に役立ってきた。ピートモスの土壌は90%が水だが、水分を抜き取ると内部に吸収されていた炭酸ガスが大気中に放散されるという。だから、ヤシ油を生産するためにピートモスを破壊し、焼却することは、かえって地球温暖化を促進することになるのである。
 
 ヨーロッパでは、EU域内のすべての国が、交通に使う燃料の5.75%を2010年までにバイオ燃料にするという方針(the 2003 European Union Biofuels Directive)が定められている。しかし、バイオ燃料の生産過程で大量の温暖化ガスが出ている現状では、この方針の見直しが検討されているという。オランダは、再生可能エネルギーの分野ではEU域内で模範的と見られてきたが、ヤシ油への政府の助成を中止し、今後どのようにして、バイオ燃料の輸入元の生産方法を捉えるかの対策を練っているらしい。
 
 読者の中には、インドネシアの問題がなぜEUに波及するのかと不審に思う人がいるかもしれない。が今、我々が直面しているのは、「インドネシア温暖化」や「東南アジア温暖化」ではなく、「地球温暖化」である。つまり、インドネシアの農民が誤った方法でヤシを育てれば、ヨーロッパ・アルプスの降雪量に影響するかもしれないし、その逆に、ヨーロッパの自動車から出るCO2が増えれば、インドネシアの島の面積が減るかもしれない--そういう地球全体の気候変動の問題だからである。上記の記事によれば、イギリスの環境保護団体、バイオフューエルズ・ウォッチ(Biofuelswatch)は、「バイオ燃料は、もはや再生可能エネルギーとして自動的に認めるべきではない」と言っている。生産方法が環境保護に貢献しているかどうかを事前に審査し、そうでない場合は、生産過程で排出される温暖化ガスを輸入元の排出量として算入する方法が望ましい、と考えているようだ。

谷口 雅宣

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