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2007年2月 4日

「自然支配」の夢に眠る

 一昨日(2月2日)から昨日にかけての新聞各紙は、パリで開かれた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会」が承認した第4次評価報告書の内容を大きく扱っている。地球温暖化は人間の活動によって引き起こされていることは「かなり確か」(very likely)であり、今後何世紀もこの傾向は続く。人類が今後、省資源の循環型社会を実現したとしても、21世紀末には地球の平均気温は約1.8℃、海面は18~38センチ上昇。化石燃料に依存した高度経済成長を続けていれば平均気温は約4℃、海面は26~59センチ上昇する。後者の場合、移動を余儀なくされる“気象難民”は2億人に達する。今や議論の時期は終り、温室効果ガスの排出削減に全世界は行動を起こすべきときである--ごく大ざっぱに言えば、そういう内容のようだ。

 本欄の読者ならば、人間の活動が地球温暖化の原因であるという話は、「当たり前」の部類に属するだろう。しかし、ブッシュ米大統領を初めとした少数の“懐疑派”の人々には、これまでは「当たり前」でないことだった。これについては、読者は本欄の昨年1月30日31日に書いたNASA(米航空宇宙局)の下部組織、ゴッダード宇宙科学研究所のジェームズ・ハンセン所長の話を思い出してほしい。同所長は、自分の講演原稿、発表論文などが上司のチェックを受けて、自由な発言ができないと訴えたのだ。その“自由な発言”の内容とは、まさに「人間が排出する温室効果ガスによって地球温暖化が起こっている」ことを前提としたものだった。だから今回、世界中の気象学者の大多数が「かなり確かだ」と合意した「地球温暖化は人間の活動による」という見解は、これら懐疑派への“墓標”を意味するだろう。パリでの記者会見では、「かなり確か」とは確率的に何%かという記者の質問に対して「90%以上」という答えがあったから、もう地球温暖化の原因をめぐる論争は実質的に終結したと言えるのである。

 今後は、各国政府が今世紀末までに起こるという「気象難民2億人」の悲劇をどのようにして食い止めるかという「行動」の問題--つまり、政策論に集中されなければならない。私は本欄を通じて、日本は環境技術の面で世界のトップクラスにあるのだから、それを前面に打ち出した「環境立国」を目指し、世界に先がけて再生可能エネルギーの大々的利用を推進していくべきと訴えてきた。ところが、現在の日本政府内では、そういう考え方は人気がないようなのである。これまでの新聞発表などを見ていると、日本は今後、原子力発電の推進をエネルギー政策の中心にすえ、再生可能エネルギーの利用はほどほどにする一方、工場から出るCO2などの温室効果ガスを地下深く埋め込むことで、京都議定書の目標を達成しようとしているように見える。

 そう考える理由を言おう。例えば、今日(2月4日)付の『徳島新聞』を見て私は驚いた。環境省が温暖化対策としてCO2の地下固定を推進するらしいのである。もっと具体的に言うと、同省は今の国会に、CO2を海底下の地層に固定する貯留事業を可能とする海洋汚染・海上災害防止法の改正案を提出するというのである。私が驚いたのは、これを経済産業省がやるのではなく、環境省がやるという点である。経産省はその仕事がら、経済界の利益になることを推進するのは当然としても、環境省が経済界の利益を第一に考えるのでは困るのである。CO2の地下固定は、環境技術としては確立されておらず、将来の地球環境へのリスク要因を増やすという点で疑問が残る、ということを私は過去の本欄(2005年5月15日12月14日)で書いた。にもかかわらず、環境省がそれをするということは、同省がそれ以上の環境対策を考えていないことを示している--そんな気がするのである。

 上記の記事によると、CO2を地下固定するためには、高圧によってCO2を液体でも気体でもない「超臨界流体」という状態にし、地下層に注入するらしい。そして「適正に管理すれば、千年後も注入した量の99%近くを漏洩させずに維持できると考えられている」という。ノルウェーなどですでに実用化されており、日本では新潟県長岡市で地球環境産業技術研究機構が実証実験をしているらしい。このように、まだ実験中の技術を法改正で実行可能にしようという“積極姿勢”は、環境省内での方針決定を意味していないだろうか? また、同じ記事は、「CO2が海中に漏れ出すことによる環境への影響に配慮して、海底下貯留を環境相の許可制とするなど国が厳しく管理し、不法業者への罰金規定も盛り込んだ」とある。環境省自らが「CO2が漏れ出す」可能性を認めているような書き方である。
 
 私はこう思う。原子力発電にしてもCO2の地下貯留にしても、その背後にあるのは「自然界は人間が操作し制御することで無害化し、利用することができる」という「自然支配」の考え方である。これは、生物の遺伝子組み換えや生殖補助医療、さらには臓器移植にも共通する“基本思想”と言える。その問題点は、私がすでに『神を演じる前に』(2001年)『今こそ自然から学ぼう』(2002年)の中に詳しく書いた。地球環境問題を生み出したのはまさにこの思想なのだが、その解決に同じ思想を用いようとしているのが、政府の施策のような気がするのである。

谷口 雅宣

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コメント

IPCC第4次報告書を受けて、日本の科学者15名が、日本国民に向けて、直ちに行動をとることを訴えるメッセージを出しましたね(http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html からPDFファイルがダウンロードできます)。本当にそうだと私も思います。

ただ、ひとつ気になったのは、そのメッセージを出した科学者たちの中には、環境省のなかの「二酸化炭素海底地下地層貯留に関する専門委員会」のメンバーも、何名かいたことでした…。

直ちに行動をとるべきだとしても、その場合にいかなる行動が選択されるかは、やはりその人の「考え方」にあるのだなぁ…と改めて思い知らされたような気がします。

投稿: 山中 | 2007年2月 5日 21:53

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