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2007年2月19日

病気腎移植は“白”から“黒”へ?

 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院の万波誠医師(66)の行っていた病気腎移植の問題で、同病院が設置した外部医師らによる専門委員会の調査結果が明らかになったとして、18~19日の新聞各社が一斉に報道した。その内容は、万波医師が実施した11件の病気腎移植のほとんどが、摘出は医学的に適切でなく、別の患者への移植もすべきでなかったというものである。これでは、病気腎移植のほぼ全面否定と言えるだろう。

 この問題については、昨年12月3日の本欄で、岡山大学大学院教授の粟屋剛氏と、東京女子医大名誉教授の太田和夫氏の両名が、期せずして肯定的にとらえていたことを書いた。粟屋氏は、社会への情報開示と、患者へのインフォームド・コンセントが行われていれば問題ないとし、太田氏は、自身が病気腎を移植に使った経験があると述べ、病気腎の患部を完全に切除して行う「部分腎移植」の技術を開発すべきだと述べていた。今回の調査報告との違いは歴然としている。いったい何が起こったのだろう。

 新聞各紙の報道は、しかしこの疑問に答えてくれない。また、各紙の報道は微妙に違った部分もある。私がこの調査結果関連の記事を最初に読んだのは18日付の『静岡新聞』紙上だったが、ここでは冒頭に書いた通りの内容で、さらに付け加えて「18日に大阪市で開かれる同病院の調査委員会と合同会議で報告される」とあった。同じ日付の『日本経済新聞』も『静岡新聞』とほぼ同文だが、それよりも長い記事を載せていたから、この記事は通信社が配信したものだろう。これに対し19日の『産経新聞』は、18日の合同委員会(会議)の内容を伝える形でこの件を報じた。それによると、合同委員会では「専門委員からほとんどが医学的に“不適切”との報告があったが、結論を先送りにし、来月3日に万波部長に直接意見を聞いた上で、結論をまとめたいとしている」となっている。
 
 ところが19日の『朝日新聞』は、宇和島徳洲会病院内の委員会の見解ではなく、「日本移植学会など関係5学会」が打ち出す方針を中心に記事にした。こちらの方がより大きな影響力をもつからだろう。それによると、関係5学会では、万波医師らによるような病気腎移植は「原則禁止」となるという。また、ガン患者とネフローゼ症候群の患者から病気腎を移植すると、移植後の免疫抑制剤の投与によって、患者の体内でガンが再発したり、急速に進行する恐れがあるため「絶対禁止」にする方針という。何のことはない。私が昨年12月3日の本欄で“素人考え”として書いたことと、同じ結論なのだ。
 
 臓器移植をめぐる現在の医療は、いったいどうなっているのかと思う。“専門家”とされる医師たちが、数カ月の間に180度異なる見解を新聞紙上で述べるということは、医学はこの分野ではまだ信頼性がないということなのだろう。あるいは、医師は本当のことを言わずに、自分の利益を守るために専門用語を煙幕にして発言しているのか--私はそう思いたくないのだが、どう思えばいいのかよく分からない。

 こういう疑問に対して、何らかの回答を与えてくれるように見えるのは、19日の『産経』に載った木村良一編集委員の「一筆多論・岐路に立つ移植医療」だ。木村氏は、移植医療の取材を始めて10年以上になると前置きしてから、この問題の背後に何があるかをまとめている。それは「この病腎移植を支持する医師が『移植する腎臓が不足しているから病腎移植を進めるべきだ』と主張している」ということだ。つまり、脳死段階を含めた死体からの臓器移植の代用として、安全性に多少疑問があっても生体から取り出した病気腎を使いたい医師のグループがいるということだろう。この方法で助かった患者もおり、また亡くなった人もいる。医療の現場では、臓器不足を理由にさまざまな“実験的治療”が行われていることが、今回の出来事から推測できるのである。
 
谷口 雅宣

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