わが町--原宿・青山
知らぬ間に、今年もすでに1カ月が過ぎてしまった。新しい月になったところで、本サイトでの新しい試みについてアナウンスしておこう。すでに気がついている読者もおられるだろうが、本欄のサイドバーにリンクを張って、私のスケッチ画を並べたサイトへ行けるようにしてある。名づけて「わが町--原宿・青山」である。
私も五十路を越えて5年も過ぎたためか、“里心”がついたようだ。私は現在の居所のある東京・原宿の地で生まれ育ち、社会人になってからは高井戸、菊名、駒沢などで生活したこともあるが、結局この地に自宅を建てて落ち着いた。だから、「里心がついた」という表現は奇妙に聞こえるだろう。しかし、現在の原宿は、私が育った当時の原宿とは似ても似つかない繁華街である。駄菓子屋や八百屋、魚屋、材木屋、おもちゃ屋が並んでいた素朴な通りは、欧米の一流ファッション・ブランドが入った高層ビルが林立する目抜き通りに変身している。
この明治神宮の表参道のことを、私は密かに「ヴァニティー・ストリート」(Vanity Street)と名づけている。ヴァニティーとは、「役に立たない」とか「空疎な」とか「虚栄の」という意味の形容詞「vain」の名詞形だから、私が何を言おうとしているかは分かるだろう。アメリカには「ヴァニティー・フェアー」(Vanity Fair)という有名な月刊誌があるが、それは主として芸能人などのセレブリティーの考えや動向を記事にしている。原宿近辺にも芸能人が住み、ブティックやビューティー・サロンが軒を接するように立ち並んだ。そういう外見の良さばかりを追う街になってしまったことを、私は半分苦々しく思っているのである。
とは言っても、こういう変化には“良い面”もある。ヴァニティーを追求する人々はまた、美的センスに長けていることが多い。だから、この街を歩いていると、無秩序に建てられる家屋やビルの中に、裏通りの路地の一画に、ハッとするような風景が現れることがある。また、懐かしさを感じる古い町並みがまだ残っている一画もある。そういう一画は、しかし次に行った時にはもう無くなっていることが多いのだ。この辺りは開発が急速に進んでいて、1年たつと風景が変わってしまうのだ。
今日(2月1日付)の『朝日新聞』によると、昨年1年で全国で着工された分譲マンションの戸数は過去最高を更新したという。バブル期の最高を記録した1990年が23万8600戸だったのに対し、それを14戸上回ったらしい。「道理で……」と私は思った。原宿・青山辺りでは、今流行の高層マンションがどんどん増えているだけでなく、商業ビルや2~3階建ての住宅の建設も続々と進んでいる。これを「新しい街並みの出現」と見ることは、もちろんできる。しかし、私自身にとって、それは「喪失」であるということを最近、感じ始めた。多分、年を取ったからだ。私の心の中で、過去の思い出が、未来への期待よりも大きな位置を占めるようになってきたのかもしれない。
そんな新旧相い並ぶ混沌とした街の中で、私の心に残る、あるいは現在印象を刻みつつある風景を記録しておくのも悪くない、と思ったのである。だから、古い建物も新しい建物も差別せずに、しかし、事の性質から、あくまでも私の主観100%で選んだ風景をスケッチしている。読者から感想など聞かせていただければ、幸いである。
谷口 雅宣
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コメント
合掌 ありがとうございます。
Web聖使命を含めまして、拝見させて頂いております。
絵がお上手なのですね。
さて、スケッチの最初のですが、私はこういう所は、落ち着かなく、また、(ガラスを多く用いる建物を)、何故建てるのだろう、といつも思います。
ガラスは、太陽があたっている時は、いいけれども、太陽が沈むと、急に寒々とします。そして、建物は、あまり高くなく、町も建物で、ひしめきあってなく、建物も呼吸ができる位、適当な空間がほしく思います。
田舎で育った者には、馴染にくく思います。
家も木のがっしりした、漆喰の建物を、好みます。 再拝
投稿: 岩井 正子 | 2007年2月 2日 18:47
岩井さん、
感想、ありがとうございます。
「田舎で育った者」とおっしゃいますが、どちらから書き込んでおられますか?
風景は、どうしても好き嫌いが出てきます。ガラスを多用した高層ビルは、9・11の際にわかったように、いったん事故があると怪我人が相当出ますね。そういう諸々の「意味」と、絵に描く対象として眺めることは、多少ニュアンスが違うと私は思います。
投稿: 谷口 | 2007年2月 3日 21:52
合掌 ありがとうございます。
トンチンカンな書き込みをしまして、申し訳ありませんでした。
私は、高知県香美市の、白鳩会員(壮年層)です。
いつも、ご指導をありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
岩井 正子 再拝
投稿: 岩井 | 2007年2月 5日 10:43
岩井さん、
高知県ですか……。きっと山紫水明の自然が豊かにある所なのでしょうね。
私のスケッチに関して誤解のないように言っておきますと、私は大都会が好きだからその風景をスケッチするのではありません。自然は大好きですが、「大都会にあってもなお」ハッとするような風景はあることをお伝えしたいのです。これは主観的なものですから、同意されなくても一向に構いません。(笑)
投稿: 谷口 | 2007年2月 5日 12:05
杉野長治さんから、私の別の文章にコメントとして、私のスケッチについて感想をいただきました。便宜のため、こちらの方に移動させてもらいます:
合掌 有難うございます。
この間、愛媛県にて質問させていただきました。原理主義についての質問でした。失礼の段お許しください。どうも、先生とは同年齢らしいのです。長く生長の家に在籍しいろいろなことがございました。小生はまだ独身です。コンピューターを覚え、よく友人とのやり取りをしますが、金がかかりびっくりしてます。店のほうは、経費がかかり、それがために、練成を受けていますが、祈るのみです。両親はもうこの世にはいません。
絵の感想ですが、都会の中にいると、ビルばかりで、家の絵が多いと思います。僕も、抽象的で、ゆがんだ建物の絵が好きでした。全国大会で、東京の駅に降り立ち、東京駅をスケッチしました。もう何年前になるでしょうか。今は忙しくて、そんな暇がありません。でも、自然に囲まれたこの瀬戸内の大三島は、大変自然美には恵まれていると思います。いつも、この島々を眺めながら、買出しに行く道すがら、美しさに圧倒されます。親戚の方も、絵をたしなむ人がおられ、戦争にゆき、中国の戦線で、もうだめかと思ったらしいのですが、雄大な中国の山野から太陽が差し昇る光景に、このような自然に打たれ、一体となるなら死んでもよいと思ったといっていました。無事生還し学校の先生をしていました。
僕が墨絵を習っているとき、若干アドバイスを頂きました。東京に住んでいるときは、家やら車に興味を持ち、島にいるいまは、船やら、自然に興味があります。もちろん人物にも。若い人が少なく余り接する機会もなく、寂しいところになりました。最近、ウェルネス高校という東京の高校がなぜかしらできました。体育の学校ですが。
ここは大三島と言う島ですが、隣の瀬戸田には、平山美術館があり何度か足を運びました。大変すばらしい建物で、映像を通じての解説もあり、勉強になりました。
千葉の船橋に住む姉の子供が、上は武蔵野美大の日本画を専攻していて、留学をしたいと言い出し金がかかり大変らしいのです。その下は、漫画家志望で、女ですが、入学金が高く自分で勉強しているようです。何を書いてよいのかわかりませんが、失礼があればお許しください。再拝
投稿: 谷口 | 2007年2月 5日 12:08
谷口雅宣先生:
新企画のスケッチ画集、楽しく拝見しております。
日常の中で接する身近なものの中に美を見出す――
そんな先生の視線に共感を覚えます。
作品の中では、特に異国情緒のある「メキシコ料理店」のスケッチに心引かれました。
1枚1枚の作品は、大体どのくらいの大きさなのでしょうか?
投稿: 小関(TK) | 2007年2月 5日 12:43
小関さん、
>>1枚1枚の作品は、大体どのくらいの大きさなのでしょうか? <<
小さいのは葉書サイズ、次に14×18cm、15×22cmもあります。
投稿: 谷口 | 2007年2月 5日 17:16
合掌 ありがとうございます!
楽しく拝見させて頂いております。
丸坊主の絵画舘は本当に丸坊主みたいですね。
母校の絵に、私も自分の母校を思い出しました。
ユニオン教会は見る角度によって全然違う建物のようですね。
なんて書いたらいいのかわかりませんが、他の絵も楽しく見させて
頂いています。再拝
投稿: 高田純子 | 2007年2月 5日 17:40
早速の詳しいお返事、ありがとうございました。
投稿: 小関(TK) | 2007年2月 5日 20:26