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2007年2月20日

IPCC4の予測は“保守的”

 昨年10月末にイギリス政府が発表した『スターン報告書』、今年1月24日のアメリカのブッシュ大統領の一般教書、そして、今月初めに出た「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会」の第4次評価報告書(IPCC4)と、世界では地球環境問題への取り組みの緊急性がいよいよ鮮明になってきた。にもかかわらず、わが日本国政府はこの問題についてほとんど何も言わないし、動こうとしていないように見える。これは一体どうしたことだろう? 安部首相は、地球環境が撹乱され、人類史上かつてなかったような異常気象に見舞われても、“美しい日本”を実現することができるというお考えか。それとも、そんな言葉は初めから政治的スローガンだったから、お題目として唱えていれば“愛国者”は満足すると楽観しているのだろうか。

 IPCCの第4次報告書とは、113カ国から約300人もの代表者が出て合意されたもので、先日出された報告書の「まとめ」は約600人もの科学者が執筆に加わっている。その内容をまとめると、2月4日の本欄に書いたように、「人類が今後、省資源の循環型社会を実現したとしても、21世紀末には地球の平均気温は約1.8℃、海面は18~38センチ上昇する。また、化石燃料に依存した高度経済成長を続けていれば、平均気温は約4℃、海面は26~59センチ上昇する」というものだ。ところが、この「まとめ」の文章は、実は科学者の温暖化予測としては“かなり保守的”な見方であるらしい。つまり、今世紀末の地球環境はこれより相当大きく変化する可能性があるという科学者も多いという。2月10日号のイギリスの科学誌『New Scientist』が、特集記事でそう伝えている。

 それによると、このような“保守性”の原因は、この報告書の執筆に際して、きちんと数量化がされていないデータや、使用する気象モデルに採用されていない比較的最近の研究データは含めないとの方針が貫かれたからという。だから、例えばグリーンランドの氷床が物理的に崩壊したり、南極の氷の融解が速まったり、大西洋を北上するメキシコ湾流の動きが止まったり、二酸化炭素やメタンが地下や海底、あるいは永久凍土から漏れ出すというような、最近言われるようになった可能性については、ほとんど考慮されていないらしい。

 今、最も心配されているのは、グリーンランドや南極の氷床が崩壊の危険にさらされていることだが、そうなれば、世界の海面上昇はメートル単位で起こる。しかし、今回の報告書では、海面上昇の予測は最大でも「世紀末に59センチ」であり、10年単位では「3~6センチ」にすぎない。その理由は、現在使われている気象モデルでは、「2千メートルもの厚さの氷床は長い時間をかけてゆっくり解ける」ことになっているからという。しかし現在では、多くの雪氷学者はそんな予測をしなくなった。現実には、氷床は氷の融解とともに基盤から「裂ける」のだそうだ。すると、裂け目に数秒で水が入り、そこから氷床が物理的に崩壊する。これは、氷が徐々に溶けていくよりも、はるかに早い時点で起こるというのである。

 また、報告書で使用された気象モデルでは、氷床の融解は徐々に「一定のペースで起こる」ことになっているが、今年2月初めにドイツの気象学者らが発表した研究では、現在の海面上昇の速度は、前回のIPCC(2001年)の時点で予測された速度より1.5倍速くなっているという。しかし、今回の報告書では、“最悪の場合”の海面上昇の数字は当初「88センチ」だったものを「59センチ」へ引き下げられた。その理由は、この研究が気象モデルには反映されていないからだという。

 まあ、そういう具合で、IPCC4の報告書は“保守的予測”であることを覚えておいた方がいいだろう。この報告書は、世界の気象学者の6年間の研究をもとに3年をかけて書かれたもの。先日は「まとめ」が発表されただけであり、全文は後日出版される。11章からなる相当大部のものになるらしく、1章だけで150ページあり、参考文献はその章だけで850におよぶという。つまり、この報告書は、地球の将来を考えるために人類の知恵を結集した文書である。そここに書かれた警告を政治家がきちんと受け止めて政策に反映させないならば、そんな政治家は有害だと言いたい。
 
谷口 雅宣

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コメント

合掌ありがとうございます。
今日ようやく映画「不都合な真実」を夫と観てきました。地球温暖化の研究内容の情報はほとんど雅宣先生のブログの中でお伝えして下さっている通りでしたが、大画面の映像で地球の現実を見せられ、速度はどうであれ崩壊し始めている南極などの氷床を目の当たりにするとやはり早急な対策が必要であることは、この地球に生きている(生かされている)人間であれば誰でも感じるのではないかと思います。しかし、あの国が取り組んでくれれば一気に好転するのに、とか、日本でも国をあげて取り組むように政治家の皆さん、お願いします、などと思いつつも、私たち一人一人にできる事を実行していかねばと改めて感じました。それが微々たるものでも。そのことをいち早く教え導いて下さっている生長の家の御教えの信徒であることに感謝しながら映画館を後にしました。これからも祈りと同時に行動を起こす事を大切にしながら生活してゆきたいと思います。どうぞこれからも私たちに指針をお示しください。ありがとうございます。
菊池 光珂

投稿: 菊池 光珂 | 2007年2月22日 21:00

菊池さん、

 『不都合な真実』が伝えているメッセージは、強烈ですね。私は、ゴア氏が大統領になれなかったのは、それなりの“よい理由”があったのではないかと思いました。政治の只中では、自分の信じるメッセージを純粋に発信することは難しいでしょうから……。

投稿: 谷口 | 2007年2月24日 17:23

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