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2007年2月23日

環境問題の裏に金属問題

 2月20日のニュースで、火の見やぐらに設置されている半鐘の盗難が茨城県で相次いでいると報じていた。骨董専門の泥棒かと思ったが、さにあらず、最近世界中で金属泥棒が多発しているというのだ。それもプラチナや金銀などの貴金属を盗むのではなく、銅や亜鉛、ニッケル、アルミニウム、ステンレスなどの普通の金属を盗むのだそうだ。しかも、それらの金属を積載したトラックを丸ごと盗むというような“大泥棒”ではなく、教会の亜鉛板の屋根をはぎ取ったり、アルミニウム製のビール樽や鋼鉄製のマンホールの蓋、ゴミ収集に使うリアカーのステンレスの蓋といった“小泥棒”が多発しているという。その原因は、中国やインド、ブラジルの経済発展だというのだから、世界の動きが私たちのすぐ隣にも反映していることがわかる。

 つまり、世界的に金属の値上がりが起こっているらしい。値が上がるということは、必要とする金属がなかなか手に入らない状況が起きているというわけだ。金属関連の商社を経営している中村繁夫氏の著作『レアメタル・パニック』(2007年、光文社刊)を読んで、世界中で金属泥棒が発生している一方で、簡単には盗めないが、レアメタルと呼ばれる希少金属を得るために、世界中で争奪戦が繰り広げられていることを知った。この本の副題は「“石油ショック”を超える日本の危機」というのだから、なかなか穏やかでない。

 レアメタルとは、ニッケル、コバルトなど比較的よく知られた金属から、インジウム、タンタルといった生産量のきわめて少ないものまで含み、計31種類である。希土類元素(レアアース)もレアメタルに含まれ、まとめてレアメタル1鉱種と数える。これらは、電子情報産業(コンデンサ、小型モーター)、光産業(ディスプレイ、発光ダイオード等)、環境産業(自動車触媒等)等の日本経済を支えるハイテク産業に使用されているため、大変重要な資源と言える。用途の中でも特に気になったのが、クリーンエネルギーや大気汚染、水質汚染、土壌の廃棄物汚染の防止に必要であるという点だ。例えば、太陽電池、電気自動車の蓄電池や発電装置、自動車排気ガスの浄化、石油、灯油、ガソリン、軽油の低硫黄化(SOx低減)、有機化合物、窒素酸化物の除去、ダイオキシンの分解等にもレアメタルが使用されている。そのため、地球環境問題の解決のために、今後、益々需要が増えることが予想される。

 日本は、環境産業も含め最先端の製品を多数生産しており、世界中のレアメタルの約25%を消費する世界最大のレアメタル消費国である。しかし、国土からレアメタルは産出せず、国内市場からはなくなっているそうだ。その理由は、需要が増えていることはもちろん、価格が暴騰しているため、各国、各企業が買い占めを始めているからだ。ちなみに、排ガス制御の触媒として使われているロジウムとういうレアメタルは、金の10倍もの価格(1g:2万円以上)で取引されているので、人々が群がるのも頷ける。売買交渉の現場では、一流企業の社員が土下座し、涙を流して懇願している様子も見られるというのである。

 私は金属問題の一端に触れ、資源・環境問題の奥深さを再び感じるとともに、政治家でもなく、商社マンでもない自分に何ができるのか考えた。でも、思いついたのは、今使っている電子機器を大切に使うことぐらいである。実は、今夏のボーナスあたりで液晶テレビの購入を考えていた。液晶テレビは従来のブラウン管テレビより省エネであり、耐久年数も長いと思ったからだ。しかし、金属問題を知った今、使える限りこのテレビを使おうと思う。液晶テレビとブラウン管テレビの消費電力の差は、暖房の温度をもう1度下げることで賄おうと今、“武者震い”しているのである。
 
(飯田雅俊)

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コメント

飯田様

 ご無沙汰しています。最後まで雅宣先生の御文章と思って、読んでいたら、最後に飯田雅俊と書いてあって、びっくりしました。

 飯田さんの御文章の内容は確かに深刻ですね。省エネ製品に使われる金属が不足しているんですから。私の会社も機械メーカーですから金属製品の高騰は影響大です。

投稿: 堀 浩二 | 2007年2月27日 14:32

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