映画『不都合な真実』
元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏(Al Gore)が主演する映画『不都合な真実』(An Inconvinient Truth)を見に、妻と2人で日比谷へ行った。この映画については、試写会の招待状をもらっていたが、時間の都合がつかずに他の人に行ってもらい、その人から大体の内容を聞いていた。地球温暖化の危機を訴える真面目なマルチメディア・プレゼンテーションだという話だったから、あまり期待していなかった。私が生長の家の講習会でやっているのと大差ないだろう、くらいに思っていたからだ。しかし、彼のプレゼンテーションは、私のものより数段上だった。画面が大きく、しかも動くというだけでなく、複雑な現象を視覚化し、手短に分かりやすく提示する手法は、どんなテーマにも応用できる第1級のもので、さすが千回以上も続けてやっているだけあると思わせる。
ゴア氏は、2000年の大統領選挙で現ブッシュ大統領と大接戦を演じ惜敗した後、アメリカ全土のみならず、世界各地を巡って、このプレゼンテーションを繰り返しながら、技を磨き上げてきた。そんな感じがした。そういう「聴衆を納得させ、説得する」方法の1つの模範として、生長の家の講師は一見する価値があると思う。もちろん、地球温暖化のメカニズムや、その影響がどんなに広範囲で劇的でありえるかという科学的知識を学ぶうえでも、よい参考になる。が、この側面では、私が知らなかったこと、講習会等で話さなかったことは、そう多くなかった。また、残念に思ったのは、ゴア氏が「肉食」が地球環境に及ぼす影響についてまったく触れなかったことだ。彼はビーフ・ステーキが好物なのか、などとつい思ってしまった。
私が知らなかったことの中に、北極海の氷の厚さのことがある。この氷の厚さを測定することは、アメリカ海軍の必須の仕事だったというのである。それは、原子力潜水艦の行動の自由と直接関係している。原潜の軍事上の特徴は、何カ月もの長期にわたって海中に潜行したまま作戦行動ができるという点である。このことと、原潜が核ミサイルを搭載しているという事実を併せて考えると、「潜在敵国に居場所を知られずにどこからでも攻撃できる」という核抑止力の大きさが理解できる。しかし、この核抑止力が保証されるためには、海面が分厚い氷で覆われていてはいけないのである。アメリカの潜在敵国とは長い間、ソ連であり、今はその後継国、ロシアである。ロシアへの攻撃がしやすいのは北極海だろう。そしてこれと同じことは、ロシア側にも言える。つまり、ロシアがアメリカを攻撃する場合、北極海は重要な拠点である。ということは、そこの氷の状態がどうであるかは、米ロ双方にとって国家安全保障上の重要事項なのだ。
ゴア氏が映画で指摘しているのは、彼が原潜に乗って北極海へ行った際(それがいつかは明らかでないが)、北極海の氷が年々薄くなっている事実を知らされたということだ。一方、私が講習会でもたびたび触れるように、アメリカ航空宇宙局は、人工衛星から定期的に北極海の氷の状態を写真撮影している。これによって北極海の氷の「面積」の推移が正確にわかる。その面積が年々縮小していることは、私が本欄でも紹介した通りである。だから、アメリカ政府高官にとっては、北極海の氷が年々縮小し、その「厚さ」も年々減少していること--つまり、地球温暖化が進んでいること--はよく知られた事実であったのだ。にもかかわらず、その原因が人間の活動であることを米大統領が長い間認めようとしなかったことは、驚くべきことではないだろうか。
この映画と、昨年7月6日の本欄で紹介した『ホワイト・プラネット』の2本を見れば、地球温暖化の深刻さを知識として理論的に理解するだけでなく、失われつつある地球環境や生態系の壮大で繊細な美しさを感情的に納得できるはずである。両作品が早くDVD化されることを私は期待している。
谷口 雅宣
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コメント
谷口雅宣先生
私はこの映画を、公開2日目に鑑賞しました。この映画に就きましては、紙パックを製造している会社の提供で、「エコ・サンデー」と称して500円で観る事が出来ました。延べ4回、以下の劇場で実施され、2月11日がその4回目に当たります。
TOHOシネマズ六本木ヒルズ
TOHOシネマズ川崎
TOHOシネマズ名古屋ベイシティ
ナビオTOHOプレックス
TOHOシネマズ二条
私が観た六本木ヒルズでは、上映劇場が「エコ電力」を使用していると掲示がされていました。
この映画が、アカデミー賞にノミネートされているそうですが、もっと話題になり、多くの方に観てもらいたいと思いました。
また、雅宣先生から鑑賞のポイントが示されましたが、事前にお聞きできたら、観方も変わっていたと思いました。
投稿: 久保田裕己 | 2007年2月 8日 09:40
本日、私も主人と名古屋ベイシティで観てまいりました。みたばかりなので、少し興奮しています。
私が残念に思ったのは、字幕だった点です。日曜日に子ども達と一緒にみたいと思ったけれど、字幕だという点で二の足を踏んでしまいました。内容が分かりやすいので、吹き替えにしてDVDにして頂いたら、小学生の子どもでもみられるのではと思います。
ゴアさんのことはあまり知りませんでしたので、沢山の方に理解していただこうという姿勢・努力と副総裁がもう10年も前から私達に分かりやすくと愛念をもって説いてくださっているお姿が重なり、感動いたしました。
地球環境の問題を攻撃なしに、調和をもって解決していこうとしている生長の家は本当に素晴らしいです。光明実践委員は、もっと表現の勉強をしていくべきですね。教区の皆に観ましょう!と声かけをしようと思います。私自身も明日一般練成会で環境をテーマにした講話を担当させていただきますので、今日行けて良かったです。今すぐにでもできる愛行として、肉食のことは必ずお話しさせて頂きます。
投稿: 内田千里 | 2007年2月 8日 13:31
いつもありがとうございます。
私も観させて戴きましたが、途中くどいくらい何回も、飛行機を利用しているところが映し出されていて、どうしてだろうと思いました。
私自身はCO2排出削減のため乗らないようにしています。
ゴア氏は肉食牛を育てる農園で育たれた、と途中ででてきましたので、ステーキがおふくろの味なのかもしれませんね…
私は菜食ですが、周囲と調和を欠くエゴイストと言われてしまいました。でも人間関係を円滑にするために動物を食べるのは、人間のエゴだと思うんです…
日本でも環境省のHPに、緊急メッセージが載りましたが、国民は知ることはあるのでしょうか…
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/message.html
今日は2月前半というのに日中コートが要りませんでした。
私の出来る限り・・・では足りないような気がして、自分の力不足を責めてしまいます。
投稿: 松尾かおり | 2007年2月 8日 15:11
久保田さん、
映画館の情報、ありがとうございます。
内田さん、
講話のご成功を祈ります。
松尾さん、
飛行機を利用しての講演ですが、私も複雑な気持でそれをやっています。やらないよりも、やった方が長期的にはCO2の排出が減る、と考えねばできませんね。私たちの運動全体についても、同じことが言えると思います。とにかく、人間の心が変わる必要があります。
投稿: 谷口 | 2007年2月 8日 22:47
谷口雅宣先生
合掌ありがとうございます。遅ればせながら、本日この映画を見てきました。生長の家誌友のかたは、もちろん全国民が本当に見てほしいと思ったくらいです。すぐその後、書籍「不都合な真実」も買いに書店へ行って求めました。暗い話かと思っていたら勇気がわいてきました。練成では、環境講話を担当しています(かながわ菩薩練成)。さっそく、3月に、これを話題にして環境保全活動を推進したいと思います。再拝
投稿: 長部 彰弘 | 2007年2月21日 15:23
谷口雅宣先生
祇園祭の山鉾巡行も終わり、梅雨明けを思わせるような暑い一日でした。
さて、映画「不都合な真実」がようやくDVD化(スペシャル"エコ”パッケージ)され7月6日にリリースされていると知人から連絡があり、紀伊国屋書店で買い求めました。日本語吹替えも収録されており、字幕を読むのに苦手な人にとっては好都合かと思います。
さらに、映画完成後の“新たなる真実”をゴア本人が語るスペシャル・エディションもあります。ただし、「このDVDは家庭内個人視聴に限る。」とありますので、グループ(たとえば誌友会など)での観賞はできないようですが・・・。
暑い夏になりそうですが、ご自愛くださいませ。至心礼拝
投稿: 橘 正弘 | 2007年7月19日 21:23