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2007年2月 6日

わが町--原宿・青山 (2)

 2月からオープンした表題の欄に、読者(鑑賞者?)からいろいろなコメントをいただき、有り難く感謝している。絵画やスケッチの類は、見る人によっていろいろな感想があっていいと思う。だから、私がスケッチに表現した街並みを見て「ひしめきあっていて息苦しい」とか「馴染みにくい」などと言ってもらって一向に構わないのである。東京の町並みがひしめきあっているのは事実であるし、東京に多くある奇をてらった建物は馴染みにくいのが普通だからだ。そういう町並みや建物を描けば当然、息苦しく、馴染みにくい絵になる。

 でも、どうしてこれだけの数の人間が息苦しく、馴染みにくい町に住んでいるのだろう? 毎朝、電車や駅の殺人的な混雑を修行僧のように黙々と潜り抜けて、職場でも忙しく時間に追われる仕事をし、疲労して家路につく。それが、給料のためだけとは私には思えないのである。もっと何か、「生き甲斐」と言えば大げさだが、「夢」とか「憧れ」とか「希望」みたいなものを、人々は大都会に抱いているのではないか。自分の仕事にそれを抱く人もいる。が、それができなくても、アフターファイブや、まだ遭えない恋人には抱ける。また、ロードショウとか、大美術館とか、最近話題のナントカヒルズとか、ナントカプレースなどへ行けば、そこには綺麗に演出され、ガラスの飾り棚に入れられて「夢」「憧れ」「希望」が並んでいる。手を伸ばせば、まるでつかめそうな距離に……。
 
 夢、憧れ、希望は、小さいガラスケースにも収められるが、大きな建築物にも表され、街並みにも表現できる。こうして表現されたものが、自分の抱く夢、憧れ、希望とは違っていても、それぞれの表現物はそれぞれの“良さ”を持っていないだろうか? キラキラした夢であっても、ケバケバしい憧れでも、キャンキャンと騒がしい希望であっても、それらを少し距離をおいて外から眺めるとき、普段気づかなかった人間の温かさ、人生の素晴らしさや愛おしさが伝わってこないだろうか? そんな良さは、新しいものの中にあるだけでなく、朽ち果てそうな古いもの、あるいは全く普通の平凡な、当たり前のものの中にもあるのではないか? それを獲物探しの“ハンターの目”になって物色する--私はスケッチの際、こんな心境になっているような気がする。
 
 直感的で、分かりにくい表現になってしまったので、論理的な説明を試みよう。物事には大別して2つの側面があるように思う。1つは「意味」を伝えるもの。もう1つは「感覚」を通して訴えるものである。例えば今、私の執務室の窓から外を見れば、隣接地の工事現場に、山吹色の穴掘り用の機械が聳え立っているのが見える。これを見て「景観を壊す工事用機械」という「意味」を脳裏に刻む人もいれば、その機械の色と形が昔、子供のころ自分が割り箸で作ったゴム鉄砲に似ていると感じ、「巨大なゴム鉄砲が空を向いて立っている」と感じる人がいるかもしれない。前者は“意味優先”のものの見方であり、後者は“感覚優先”のものの見方と言える。私たちは、この2つのものの見方を、その時の気分によって組み合わせて使っているのではないだろうか。
 
 “意味優先”のものの見方をする場合、私たちは目の前にあるものを自分の現在の目的との関係で意味づけ、価値判断する傾向がある。例えば、朝の通勤時に先を急いでいる時、駅前広場でバインダーを抱えた青年が近づいて来ると、私たちはその人を「行く手をさえぎる邪魔者」として見る。この場合、その人を含めた私たちの周りの“外界”は、どうしても「自分の手段」のように目に映っている。自分との利害関係の有無で「善」と「悪」と「無関係」の3種類の意味づけを行う傾向が出てくる。自分の現在の目的に貢献するものは「善」であり、それを妨げるものは「悪」となり、無関係のものは「非存在」の中に消えてしまうのである。これでは、私たちはいったい何を見ているのか分からない。多分、周囲のもの「そのもの」など全く見ていないから、素晴らしいもの、美しいものがあっても気がつかない。そこに何十万色の豊かな色彩があっても、自分の心で白(善)、黒(悪)、灰色(無関係)のたった3色に減色した世界を見ているかもしれないのだ。
 
 都会の生活はどうしても“意味優先”になりがちだ。だから、“感覚優先”のものの見方に切り替えることで、普段見えなかった何か素晴らしいものが、モノトーンの、平板な意味の裂け目から顔を出してくれないだろうか……そんな期待を込めて街を歩くのも悪いことではない、と思うのである。

谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生へ
わが町--原宿・青山の絵を見せて頂いた時、第一印象は建物もスケッチの仕方もおしゃれでさすが「ヴァニティー・ストリート」とか思いながら一つ一つ楽しませていただきました。私は絵の事についてあまり感想を述べるような知識はないのですが、先生が生まれ育った東京・原宿・青山の町の特色も全部ひっくるめて、とても愛しておられることがよく伝わってきました。そして、それぞれの素晴らしいもの美しいものを宝探しのように発見されたり感動されたりしながらスケッチをすることで表現しておられ素敵だなぁと思いました。どんどん新しい町並みの出現する土地柄のようですので今後も楽しみに拝見させて頂きます。

投稿: 宮本京子 | 2007年2月 8日 23:56

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