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2007年1月 4日

おかげ参り

 前回「おかげ横丁」のことに触れたので、もう少し詳しく書こう。この一画は、往年の「おかげ参り」の賑わいを復活させたいという地元の人々によって整備された「おはらい町」に、平成5年にできた商業区域である。約3千坪の広さがあり、おかげ参りが盛んだった昔の伊勢の町に似せた建物群が集まっていて、老舗の味や名産品、物産品を提供してくれる。
 
「おかげ参り」とは、慶安3(1650)年、宝永2(1705)年、明和8(1771)年、文政13(1830)年の4回、伊勢神宮参拝者が特に多かったことを指す。約60年周期で繰り返されると言われ、近代では明治23(1890)年にもそれがあったとされる。明和のときは2カ月で370万人、文政のときは半年で500万人が伊勢を目指したという。これらの“お伊勢参り”がブームになった背景には、平安後期から続いた「御師(おんし)」と呼ばれる人々の存在があると言われている。これらの御師は、伊勢から各地に派遣され、祈祷願いを受け付けて、伊勢への参拝を勧めたらしい。例えば『吾妻鏡』には、源頼朝が伊勢の外宮権禰宜、度会光親(わたらい・みつちか)を「年来の御祈祷師」としていたことが書いてある。

 御師は当初、神職で内宮が荒木田姓、外宮が度会姓の権禰宜であったが、時代が下るにつれて条件は緩和され、その他の神職、さらには商人などにも範囲が広げられた。江戸時代の最盛期には、宇治に271家、山田に615家もの御師があったという。『検定 お伊勢さん』という本には、彼らの仕事について次のように書いてある--
 
「江戸時代の街道整備とともに、代参や抜け参り、あるいはおかげ参りという形で、多くの人々が伊勢参宮をするようになった。檀家の参宮に当っては、六軒(松阪市)や明野(小俣町)あたりまで迎送し、御師邸に宿泊させ、お神楽をあげ、酒とともに伊勢の山海の珍味、羽二重の布団でもてなし、両宮参拝、朝熊・二見などの名所旧跡、古市を案内して、あこがれの伊勢参宮を演出した」(p. 101)

「代参」とは代りに参拝することであり、「抜け参り」とは女、子ども、使用人などが、一家の主人に無断で参拝することだから、“お伊勢参り”がいかに盛んであったかが想像できる。

 ところで、いきなり現代の話にもどるが、我々は今日、昼食時に、外宮のすぐ近くの中国料理店へ行った。車2台で行ったのはいいが、交通渋滞のために5キロほどの道のりを走るのに50分もかかってしまった。おかげで予約の時間に30分ほど遅れてしまった。それほど、正月のお伊勢参りは人気があるのだ。この混雑にはもう一つ理由がある。今日は、安倍総理が伊勢神宮参拝をするというので、大幅な交通規制が布かれたらしい。自動車専用の高速道路を経由して同じ料理店を目指していた私の義父は、なんと4時間もの交通渋滞に巻き込まれ、結局、食事を諦めて帰宅した。幸運だった我々は、義父のためにドギーバッグを用意したことは言うまでもない。

 現代の“お伊勢参り”は、難行苦行で何が“おかげ”なのかよく分からない。それは、江戸時代より一時の参拝客が増えたことも一因だが、我々が「自動車」という鉄の鎧を着込んで占有場所を広げるとともに、人と人との触れ合いを避けるようになったことにも原因があると思う。数や形だけの復活では、“おかげ参り”の“おかげ”はもどって来ないかもしれない。

谷口 雅宣

【参考文献】
○伊勢商工会議所、伊勢文化舎編集・発行『検定 お伊勢さん<公式テキストブック>』(2006年)

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コメント

新年、明けましておめでとうございます。先生のブログの中に「御師」という言葉が出てきて、ドキッとしました。それは、私の祖先がまさにその職業だったからです。伊勢市にある私の先祖の墓には「度会山本」と刻印されており、外宮の神官も務めていたようです。亡父から「うちは御師だった」と言われていましたが、そもそも「御師」とは何なのかが、よく分からなかったのです、が、今回先生のご文章でよく分かりました。つまり伊勢神宮へのツアーコンダクターみたいなものですね。一昨年の紅葉の季節、法要で伊勢市を訪れましたが、内宮への道が渋滞して大変でした。バスを降りて、宿舎の神宮会館まで歩いて行ったのを覚えています。晴天であれば自転車で移動した方がずっといいと思いました。

投稿: 山本夏樹 | 2007年1月 6日 16:28

山本さん、

 コメント、ありがとう。お役に立ててうれしいです。

>>つまり伊勢神宮へのツアーコンダクターみたいなものですね<<

 うーん、そういう比喩が当てはまるかどうか……。私は、団参の推進員みたいなものかと想像しますが……。

投稿: 谷口 | 2007年1月 7日 17:58

谷口雅宣先生
ご教示下さり、ありがとうごさいました。伊勢神宮のツアーコンダクターより団参の推進員の方がピッタリしますね。なるほどと思いました。先生があげられている参考文献を入手して読んでみたいと思っております。

投稿: 山本夏樹 | 2007年1月 9日 09:36

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