竹林の4賢人
昨年4月18日の本欄で、日本の山林を侵食しつつある竹について触れ、その竹を食用その他の用途にもっと利用すべきだと書いた。また、アメリカが木屑や雑草からもバイオエタノールを生成する計画を発表したことに関連して、日本は「成長が速い竹林の活用を考えてみたらどうだろう」とも書いた。それに応えてくれるかのような記事が、9日の『日本経済新聞』に載っている。題して「環境保全へ竹を生かす」。
この記事は、昨年12月半ば日に東京で行われたパネル討論をまとめたもので、竹研究の第一人者と言われる富山県中央植物園長の内村悦三氏、建築家の彦坂裕氏、同志社大学教授の藤井透氏、新潟薬科大学教授の及川紀久雄氏の4人の「竹の良さ」について見解が述べられていて興味深い。私は上記の本欄で、竹をバイオエタノールに転換することについて「現実的であるかどうか分からない」と書いたが、木質バイオマスの利用に詳しい及川氏は、竹は「アルコールの原料となるセルロースを多く含んでいる。1年で大きく成長するため安定して供給できる。可能性は高い」と発言しているので、心強く思う。また、及川氏は竹炭の化学物質吸着性が木炭よりよく、鮮度保持剤や活性炭の代替品にも利用できると述べている。
竹はまた軽くて繊維の力が強いため、木材の代替のほか様々な用途に使えると、藤井氏は言う。「竹の繊維の引っ張りに対する強さは鉄筋の約2倍」というのには驚いた。また「生分解性のポリ乳酸に竹繊維を混ぜると、耐熱性が向上し、ポリ乳酸の用途を広げられる」そうだから、植物性プラスチックの補強にも利用できるのだ。木材から作る紙パルプの利用が森林伐採につながることが問題になり、ケナフの利用が広がっているが、ケナフの栽培には平らな土地が必要だが、竹は斜面でもどんどん育つから日本の地形によく合っている、と藤井氏は指摘する。ケナフの代替にもなるというのだ。
内村氏は、二酸化炭素の吸収量についても竹は優秀という。しかし、京都議定書では竹林によるCO2の吸収を認めていないらしい。熱帯雨林の植物量は1ヘクタール当たり444トン、温帯広葉樹林の場合は360トン、竹は160トン程度だからだ。内村氏に言わせると、これは竹の成長速度を考慮していないから正確な比較ではなく、5年で利用する竹の植物量を単年に換算すると20トン以上の植物量になるから、熱帯雨林よりも多いという。つまり、竹林をきちんと世話して、竹材を利用し続ければCO2の削減効果は大きいということだろう。内村氏は、竹は集中豪雨に多少弱いことはあるが、森林に負けない機能をもつと指摘する--「竹は無性繁殖によって毎年タケノコを産みだし再植林の必要はない。再生可能で持続的な資源だ。森林と同様に、水資源の保全、土壌の保持といった公益機能をもつ」。
彦坂氏は、「愛・地球博」で竹を組んでつくった長久手日本政府館を設計した人だ。この外壁部分には真竹を用い、放置竹林の拡大が問題になっている地域から4万5千本を集め、腐らないように処理をして使ったという。
これらのことから、日本各地の竹林が正しく維持・利用されれば、CO2の削減だけでなく、様々な恩恵が生まれることがよく分かる。どなたか、現代の“竹林の4賢人”のアイディアを現実化してくれる人はいないだろうか?
ところで、俳句の季語に「竹の秋」というのがある。これは「秋」ではなく「晩春」の季語だ。このころ、春に萌え出た木々の若葉がぐんぐんと伸び、緑を濃くしていく中で、竹だけは一時的に黄色っぽくなり、落葉するものもある。こうして春の緑の中、竹林の辺りだけが薄褐色の明るさを見せている様子は、なかなか趣がある。これは、タケノコや若竹を育てるために親竹が自らの栄養を減らすためという。竹から得るものは、物質的なもの以外にも数多くあると思う。
谷口 雅宣
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コメント
副総裁
谷口雅宣先生
合掌 ありがとうございます。
竹から、近年色々な商品が、出ております。
化粧水や、石鹸、入浴剤などもあります。
環境保全に利用されると、ますますいいですね。
いつも、ご指導いただきまして、ありがとうございます。
投稿: 岩井正子 | 2007年1月12日 16:33
岩井さん、
>> 竹から、近年色々な商品が、出ております。
化粧水や、石鹸、入浴剤などもあります。<<
そうですね。竹炭の石鹸なんて使ったことあります。真っ黒なので、何となく「よく効く」って感じですね。
あなたのお近くに、竹林とかありますか?
投稿: 谷口 | 2007年1月13日 16:47
お歳暮で、セットのをいただきました。
私の住む、高知県香美市のお隣の、南国市白木谷には、おいしい、黄色のたけのこが、はえてきます。
私の住む所は、昔は、和傘作りが、盛んだったそうです。
今は、ありません。
自然からのいただきもので、共生して行きたいですね。
ブログの1月1日の音声での、試みを、感激して、聞かせて
頂きました。ありがとうございました。
これからも、どうぞ、よろしくお願いいたします。 合掌 岩井
投稿: 岩井正子 | 2007年1月13日 21:29
副総裁先生
以前、生分解性樹脂の仕事をしていた時に竹ペレット(樹脂)を使った
製品を何点か作ったことがありました。
生分解性樹脂に竹ペレットをまぜて食品容器を作ったり、お盆なども作りました。
竹は防虫効果や腐敗防止にも役立つのです。
実験をすると虫が逃げるのです。
だから、昔の人は笹にオニギリを包んだそうです。
投稿: 佐藤克男 | 2007年1月14日 11:10
合掌 ありがとうございます。
先生 近くの山は、随分と、竹が多く、あちこっち茂っております。
投稿: 岩井正子 | 2007年1月15日 18:00
はじめまして。竹についてのお話、大変興味深く読ませていただきました。
特にCO2についてなのですが、この竹の吸収量を計画的に測定している方(研究所など)はいらっしゃるのでしょうか。
最近は邪険にされているだけに、竹林の良い点として公にすればもっと見直されると思っています。
投稿: ikeda | 2007年6月18日 17:34
ikedaさん、
コメント、ありがとうございます。
竹が吸収するCO2の量のことですが、あいにく私の知識外のことです。お役に立てず、すみません。
投稿: 谷口 | 2007年6月20日 12:53