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2007年1月 6日

トウモロコシが不足する?

 世界最大のトウモロコシ生産国アメリカで、2年後、食用のトウモロコシが足りなくなる危険性がある--環境問題で権威のあるアースポリシー研究所(レスター・R・ブラウン所長)が最新版のニュースレターで警告を発し、論争を呼んでいる。その理由は、アメリカ国内でバイオエタノール工場の建設が早すぎるペースで進んでいるからだという。6~7日の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。

 アースポリシー研究所は1月4日付のニュースレターに、「自動車用穀物燃料の需要はきわめて過少評価されている」(Distillery Demand for Grain To Fuel Cars Vastly Understated)という題の記事を掲載した。これによると、アメリカ農務省の予測では、2008年に収獲されるトウモロコシからエタノール用として使われるのは6000万トンとされているが、同研究所の概算では、その2倍以上の1億3900万トンの需要が見込まれるという。そしてこの予測が正しければ、収獲されたトウモロコシをめぐって自動車用と人間の食用の需要が競い合うことになり、世界の穀物はかつてないほど値上がりすることになるという。

 同研究所が問題にしているのは、農務省の予測が2006年2月という早い時期に出されていることだ。この時点では、石油価格は高騰していても、その影響でバイオエタノール工場の増設が本格化するにはまだいたっていなかった。さらに言えるのは、農務省の数字は業界団体である再生可能燃料協会(Renewable Fuels Association, RFA)の数字を元にしているが、RFAはこの業界の急速な動きについていけていないというのである。
 
 同研究所の調査では、昨年末の時点で稼働中のエタノール工場はアメリカ全土で116カ所あり、年間5300万トンの穀物がエタノールに転換されている。同じ時点で建設中のエタノール工場は79カ所で、稼動すれば5100万トンの新規需要が生まれる。また、現在稼働中の工場でも11カ所が設備拡大を行っていて、これが完成すればさらに800万トンの穀物需要が生まれることになる。さらに、昨年末の時点で建設が検討されている工場は優に200カ所あるという。これらの新工場の建設が今年前半に着工したとすれば、2008年9月までにさらに2700万トンの穀物需要が生まれるという。そして、これらすべてのエタノール関係の穀物需要を足し上げると、2008年の収穫期にはトウモロコシの量にして1億3900万トンとなる。この量は、その年の全米のトウモロコシ生産予測の半分に達するという。

 アメリカは世界のトウモロコシ生産の4割を占めており、輸出入で取引されるトウモロコシ全体の7割がアメリカ産という。これだけのものの半分が自動車用として使われることになれば、トウモロコシの値段だけでなく、他の穀物やダイズ等の代替作物の値段にも大きな影響を与えることになる。また、ダイズの大部分は家畜の飼料となっているため、食肉や乳製品の値上がりにもつながる。だから同研究所は今後、エタノール工場の建設に際しては政府の規制が必要だとしている。

 私は、昨年の本欄でバイオエタノールの抱えるこの「食用との競合」の問題について何回も(6月12日同13日同26日9月15日11月6日)触れた。農産物を燃料に転換する方法は、緊急避難的な意味はあっても、温暖化防止の根本的対策にはならない。日本が進めようとしているサトウキビからのエタノール生産も同じである。これは結局、自動車を運転できるような比較的富裕層の需要を、食糧の入手も難しい貧困層の需要より優先することになる。日本は国民全体が(世界水準では)“富裕層”に属するから、農産物を原料としたエタノールを使って自動車を走らせることはできるだろう。しかし、その方法では肉食と同じように、世界の貧しい人々から間接的に食糧を奪うことになる。それよりは、農地以外の土地に生えている雑草や潅木、山林や竹林から燃料を採ることが望ましく、また自動車の燃費を劇的に改善することが必要である。

 この2つの方法に必要な技術は、すでに日本に存在する。このことを考えれば、日本人が世界のために大きな貢献をする道が目の前にあることが分かる。あとは、その道を進む人の数が増えることだ。心ある読者諸賢よ、どうかその道を示す“道標”となり、またその道を進む1人となってほしい。
 
谷口 雅宣

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コメント

合掌、ありがとうございます。

日本と米国の企業が協定を結び、廃木材を原料とする自動車燃料用バイオエタノール製造・販売事業を進めていることを初めて知りました。http://www.jgc.co.jp/jp/01newsinfo/2006/release/20060620.html

間伐材も割り箸に利用するより、バイオマスの車の燃料にしたほうが良いと思いました。
需要があるので、行き届かなかった森林の間伐作業を促すことにもつながりますし。

寒さの厳しい地域で、木材をもっとエネルギー利用できれば、灯油の使用量をグンと減らせるのでは?とも思いました。

木材の燃料化についての記事が、首相官邸キッズルームに掲載されていました。
http://www.kantei.go.jp/jp/kids/magazine/0507/6_3.html

再拝

投稿: 室井誠司 | 2007年1月 8日 02:39

室井さん、

 2つの情報、どうもありがとう。
 日揮の試みはいいですね。でも、どうして日本でやらないんでしょうか?

投稿: 谷口 | 2007年1月 9日 13:47

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