豪が人クローン胚研究へ
人クローン胚の作成や研究に関して、私は人間の命を宿す受精卵を道具として使うという倫理問題があるため、『今こそ自然から学ぼう』(2002年、生長の家刊)や本欄(最近では9月11日)などを通して何度も反対してきた。宗教法人「生長の家」もこの9月に、文部科学省に対して「反対」の見解を提出した。幸いアメリカのブッシュ大統領も、宗教的見地からこれに明確に反対の意思を表明してきていたので、私はブッシュ氏とはイラク戦争では見解が異なるものの、心強く感じてきたのだった。ところがこのほど、イラク戦争でアメリカに賛成したオーストラリアが、人クローン胚の研究と利用にゴーサインを出す決定をした。12月7日付の『ヘラルド・トリビューン』が伝えている。
それによると、オーストラリア下院は6日、ハワード首相ら指導者の反対にもかかわらず、人クローン胚を幹細胞の研究に利用する法律を82対62で可決した。上院はすでに11月7日に、同法を34対32で可決している。下院の採決では、すべての政党が党議拘束を外し、各自の“良心にしたがって”投票することになったという。ハワード首相は議会で、「私はこの法案に反対する。その理由は、我々はこの社会で最終的に、ある絶対的価値を守らなければならないからだ」と発言。「ここで問題なのは、道徳的な絶対価値だ。それが、この法案を支持することができない理由だ」と述べたという。
オーストラリアは2002年に、不妊治療のために作られた余剰胚(受精卵)からES細胞をつくることを認めたが、人クローン胚の作成は認めなかった。今後は、皮膚などの体細胞と卵子の細胞を接合させてつくる人クローン胚が、治療目的であれば許されることになる。しかし、人クローン胚の輸出入や、人間や動物への移植は禁じられている。同国国民の意識は治療目的の人クローン胚にはきわめて好意的で、この6月に公表された世論調査では80%が賛成しているという。
ところで私は、人クローン胚やES細胞のように、人間の生殖細胞を材料にする再生医療よりも、患者の体にもともとある各種の成人(体性)幹細胞の研究を促進すべきだと訴えてきた。成人幹細胞は、これまで脳、骨髄、髪、皮膚、脂肪、歯胚、臍帯血,生殖器……など、ほとんど全身に存在することがわかっている。(詳しくは、7月27日の本欄参照)こちらの研究は、造血幹細胞などで人を対象にした治療が実際に進められているのに対し、人クローン胚やES細胞を使った具体的な治療例はまだないのである。効果が実際の臨床例で確認されていない治療法の方が、脚光を浴びているのは奇妙な現象である。
谷口 雅宣
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