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2006年12月 4日

ID論を学ぶ

 宗教新聞社主催の講演会「進化のイコン--科学か神話か?」というのを聞きに東京・渋谷の国学院大学へ行ってきた。演題を見ただけでは何の講演会かわかりにくいが、これは昨年の本欄で何回も(8月1416日9月29日12月23日)触れてきた「知性による設計」(intelligent design、ID)論についてのもので、講演者は、ID論の“震源地”とも呼ぶべき米ディスカバリー研究所(The Discovery Institute)の上級研究員、ジョナサン・ウェルズ博士(Jonathan Wells)である。私のID論に対する態度は、これまで「付かず離れず」だったが、その1つの理由は、この理論が結構専門的であり、時間をかけてしっかり勉強しないと理解が難しいと感じていたからだ。今回、はからずも提唱者の1人の話が聞けるということで、学生にもどった気分で国学院大学の門をくぐった。
 
 ウェルズ博士は、ダーウィンの進化論では説明のできない点をいくつか指摘し、それらをID論によって説明しようとした。実際、博士の著書ではダーウィニズムの欠陥が「10個」も指摘されているらしいが、講演ではこのうち4つの指摘があった。私の理解しえた範囲で、以下にそれらを簡単にまとめる:

 ダーウィニズムでは、現在地上に存在する生物種は、植物や菌類もすべて含めて、もともとはいくつかの数少ない原始的な“先祖”から派生(descend)してきたと考える。この場合、1つの生物種が何か予め決められた方向に変化するのではなく、突然変異と自然淘汰によって別の種になるとする。このような仕方で多数の生物種が生まれるためには、少しずつの変化と長い時間とが必要になる、と博士は言う。しかし、化石からわかる実際の生物を見ると、長時間にわたって連続的な変化が起こった形跡はなく、逆に短期間に多種が生まれるのである。その最も顕著な例は、カンブリア紀の生物種の“爆発”と呼ばれているもので、この時期には、現在地上に存在するほとんどの生物種の“先祖”にあたる種が一気に出現したと言われている。また、ダーウィニズムによると、「A」という種から「B」という種が派生したのであれば、その中間的形態の「A'」がどこかで発見されるはずだ。しかし、化石による証拠を調べても、中間的形態のものは必ずしも発見されないという。

 ウェルズ博士は、次にダーウィニズムの“証拠”として挙げられる「個体発生は系統発生を繰り返す」(ontogeny recapitulates phylogeny)という原則の図を槍玉に上げた。この図は、ドイツ人の発生学者、アーンスト・ヘッケル氏(Ernst Haeckel)が描いた有名なもので、魚もサンショウウオもニワトリもヒトも、胎生期にはほとんど見分けられないほど類似した姿をしている。ダーウィニズムの信奉者は、この図によって「すべての脊椎動物は共通の先祖をもっており、その進化の過程を胎生期に再現する」と説明してきた。ところがウェルズ博士によると、この図を描いたヘッケル氏は、それぞれの脊椎動物の発生の過程で、最も類似した形になった時を選んで、それらを図上に並べたにすぎないというのである。そして、そのような“類似”が現れる前の段階では、それぞれの種は互いに相当異なる発生の過程をたどるという。このほか、博士はガラパゴス諸島のフィンチの嘴の話を紹介して、ここでもダーウィニズムでは説明できない事実が観察されていることを述べた。が、詳しくは省略する。

 ウェルズ博士が「進化は盲目的でない」証拠を示すのに使った言葉の1つに「還元不可能の複雑さ」(irreducible complexity)というのがあり、印象に残った。具体的には、博士は原生動物のような単細胞生物の「鞭毛」を例に挙げていた。鞭毛は、そういう生物が水中を移動するために使う船のオールのようなものだ。その構造を仔細に観察してみると、精密機械のように複雑で多数の“部品”から成り立っていて、実に合理的に機能するのだが、その部品は互いに関連し合っているから、そのどれ1つを除いても鞭毛は動かなくなるという。つまり、1本の鞭毛は、それ以上単純化できない一体の組織である。そのような複雑さが、盲目的な1回ないし数回の突然変異によって実現するはずがないというのである。もし変異が数多く重なって複雑で、有目的的な組織ができたのならば、そのような連続変異は一定のデザイン(事前の設計)に則って行われたのである。そのことを、ウェルズ博士らは「知性による設計」と呼んでいるようだ。
 
 谷口 雅宣

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