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2006年12月24日

排出権取引の問題

 地球温暖化防止のメカニズムとして京都議定書で認められたCO2の排出権取引について、日本でも新たな動きが見られるようだ。三菱UFJ信託銀行はこのほど、清水建設と共同で日本初の「排出権信託商品」を開発することで合意した、と22日の『日本経済新聞』が伝えている。これまで排出権の取得は、大企業によるプロジェクト単位で行われてきたから、中小企業や個人には手の出ない大口取引の対象だった。しかし今回は、それを信託化することで小口化し、中堅・中小企業や個人の富裕層までを対象とした排出権売買を促進しようとするものだ。信託商品の販売は、来年度からの予定という。
 
 また20日付の『日経』によると、日揮は丸紅や高知市の大旺建設などと共同で、中国の化学メーカーとフロンガスの回収による排出権を獲得した。これまで日本企業が取得した排出権は、プロジェクトが完了する将来の時点で行使できるものが多かったが、この排出権はすでに国連の認証を受けているため、すぐにでも行使できるという。排出権の額はCO2換算で100万トン分で、日揮などは、温室効果ガス削減を望む日本企業に販売する予定という。
 
 私は本欄(今年5月8日同19日など)で、排出権取引には問題点もあることを指摘してきたが、企業の利益と温暖化防止を両立させる制度として一定の評価をしてきた。なぜなら、これはまだ運用が始まったばかりの制度であり、欠陥があっても将来に向って改善していけるとの楽観論に立っているからである。現在でもその見方は大きく変わらないが、21日付の『ヘラルド・トリビューン』紙に載った記事を読んで、これまで気がつかなかった新たな問題があることを知った。それは、①この制度が使われる地域に偏重があり、②排出権の値段が高すぎるとの批判があり、さらに③制度の悪用が温暖化を(防止するのでなく)促進させる可能性があることである。
 
 上記の記事によると、これまで国連が認証した排出権を適用国別に並べると、①中国(43.9%)、②ブラジル(14.6%)、③インド(11.4%)、④韓国(10.6%)となり、開発の遅れたアフリカなどの国ではなく、経済発展を続ける中国などへの偏重が見られる。これは、それらの地域の経済発展によって大量に発生するはずの温室効果ガスを減らすという意味では、肯定的にとらえるべきであろう。しかし反面、経済基盤が脆弱のため、自然破壊をすることでしか生存を維持できない貧困国の森林保護等には、貢献できていないことを意味する。
 
 排出権の値段が「高すぎる」問題については、次のような例がある--中国南部の浙江省にある古い化学工場は、アメリカを走る自動車100万台分のCO2を毎年排出しているそうだ。これを改善するためには、山小屋1軒分の大きさの処理炉を500万ドルほどかけて建設し、年間の60万ドルの運転コストがあれば、相当の排出量削減ができるという。しかし、排出権が値上がりしているため、ヨーロッパや日本の企業は、この焼却炉建設のために実際の建設費の100倍もの値段を払って排出権を買い取るのだそうだ。この莫大な利益は、中国政府のエネルギー基金、工場所有者、そしてこの取引を成立させたコンサルタントとロンドンにいる銀行家の間で分配されるという。この同じ金額を、別の環境対策に使う方がよほど効果があると考える人もいるのである。
 
 また、この化学工場で処理されようとしているガス(HFC23)は、冷蔵庫やエアコンに使われる冷却剤の製造過程で生じる。ところが、この冷却剤自体も、オゾン層を破壊するという理由で先進国では製造が禁止されようとしているものだという。排出権を売って潤沢な資金を得た中国の化学工場が、それを元手に冷却剤製造工場を拡張したり新設すれば、オゾン層破壊の危険が増大する。また、この冷却剤を使用っているエアコンは、最新式のものに比べて省エネ効果は落ちるという。しかし、急速に拡大しつつあるインドや中国の中流階級の人々には、価格が安いために人気があるらしい。こうなると、先進国による排出権の買い取りが増えるにつれて、中国やインドなどから出るガスによってオゾン層破壊の危険が拡大することにもなりかねない。何か妙案はないものか?
 
谷口 雅宣

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コメント

こんにちわ、わたしは今、「排出権取引は日本経済にとってマイナスである」という立場でディベートを行うことになっています。なにか、その立場でディベートを行うときに、立論としてもてる内容はないでしょうか?

投稿: 峯 圭吾 | 2008年11月21日 13:25

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