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2006年12月16日

ガンをつくる幹細胞

 本欄では、これまでES(胚性幹)細胞や成人(体性)幹細胞を治療目的に研究する問題を取り上げ、宗教や倫理面などから前者よりも後者の研究を推奨してきた。このことは、2002年に上梓した『今こそ自然から学ぼう』(生長の家刊)から一貫して述べてきたことだが、これら幹細胞の中には「ガン幹細胞(cancer stem cells)」というのがあることを、最近知った。ガン幹細胞とは、ガン細胞を生み出す元の細胞のことである。

 イギリスの科学誌『New Scientist』は11月25日号で「The traitors within (内なる裏切り者)」と題する4ページの記事を掲載し、このガン幹細胞のことを詳しく伝えている。幹細胞は、古い細胞を入れ替え、様々な種類の新しい細胞になって体を補修する点が注目され、長い間“いい者”として取り扱われてきた。ところが、この幹細胞にも“悪者”がいることが分かってきたというのだ。それは、乳ガンを含むいくつかのガン細胞を生み出す幹細胞のことだ。放射線治療などで周囲にある多くのガン細胞が死んでも、その幹細胞は生きていて新しいガン細胞を次々に生み出すらしい。ガン幹細胞は、DNAのダメージを自ら修復する能力があり、しかも、他の幹細胞との違いはまだよく分っていないという。
 
 ガン幹細胞の存在が証明されたのは1994年、カナダのトロント大学のジョン・ディック博士(John Dick)らのチームが急性白血病の患者を治療していたときで、ガン細胞表面の蛋白質をもとにしてガン細胞を2種類に分離した。それらを、免疫機能を抑えたマウス2匹に別々に移植したところ、同じガン細胞でありながら一方はガンとなり、他方はガンにならなかった。だから、ガンを生み出した方の細胞がガン幹細胞ということになる。この幹細胞の数はきわめて少なく、血液中の細胞では数百万個に1つほどだという。当初、ガン幹細胞は白血病に特有の細胞だと考えられていたが、その後、乳ガンと脳腫瘍の細胞からも発見され、さらに卵巣ガン、肺ガン、皮膚ガンの細胞からも発見されている。
 
 ガンにも幹細胞があると分かったことで、これまでのガン治療は根本的な見直しを迫られているという。なぜなら、これまでのガン治療では、「ガン細胞がガンの拡大や再発につながる」と考え、ガン細胞自体を対象にして切除したり、放射線や化学療法で殺したりしてきたからだ。しかし、ガン細胞はガン幹細胞から生まれるのであれば、このガン幹細胞を取り除かなければガンはなくならないことになる。ガンの研究者は今、その方法の開発に取り組んでいるというのだ。

 語呂合わせではないが、「ガン細胞」と「幹細胞」は性格が似ているということを覚えておいた方がいいようだ。7月18日の本欄で、京大再生医科学研究所の山中伸弥教授の開発した「人工幹細胞」のことに触れた際、同研究所の研究目標をウェッブサイトから引用した。そこには「患者自身の細胞からES細胞に類似した多能性と増殖能を有し、腫瘍形成能は持たない幹細胞を樹立することを目標に研究を行って」いると書いてあった。「腫瘍形成能」とは「ガン化する」という意味だから、幹細胞にはガン化の可能性があることは、専門家には以前からよく知られていたことなのだろう。
 
 ところで、話はアメリカへ飛ぶが、今同国の中年女性の間で騒がれているガンの話がある。それは、更年期障害の症状を和らげるために服用されてきたホルモン剤が、乳ガンの発症と強い相関関係があることを示す研究結果が発表されたことだ。もっと正確に言うと、アメリカでは2002年の7月、乳ガンとエストロゲンを含むホルモン剤との“弱い関係”が指摘されたのだが、これに驚いた医師や女性がこの薬の使用を控えたため、半年後には薬の売り上げが半減したそうだ。今回の研究は、その年の8月から翌年の12月までの乳ガンの発症率を調べたものだが、それは「15%」も減ったというのである。
 
 更年期に達した女性が、分泌の減ったエストロゲンを薬として外から服用することで、若さの維持や骨粗しょう症の予防ができると考えられてきたのだが、見えないところに“伏兵”が潜んでいたようだ。幹細胞は、自らを次々に複製するとともに他の細胞を生み出すから、「若さ」の象徴とも言える。しかし、“永遠の若さ”を求めることは、同時にガン細胞の発生を助けることにもつながる。ガン幹細胞の存在は、我々にそんな警告を発しているような気がする。
 
谷口 雅宣

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コメント

谷口 雅宣 先生:

一昨日、サリナス『生命の実相』勉強会でこのホルモン剤の話が出ました。参加者の殆どが薬の副作用というか影響力にあらためて驚いていました。数年前に乳ガンの可能性があると胸の横のしこりをドクターから指摘され、服用中のエストロゲンが乳ガンを引き起こす可能性があることを聞かされ、ファミリー・ドクターにそのことを指摘した勉強会参加者のIさんは、それ以後別のホルモン剤に変えたのだそうです。この方は子宮摘出をしているので、ドクターがどうしてもホルモン剤を服用しないと更年期のてきめんな症状がでてくるからと言われたそうです。薬はとりたくなくても、そうドクターから言われると、とり続けなければならないのだそうです。しかしホルモン剤がどれだけ更年期症状を抑えているかなどデータがあったとしても、個人によっても違うでしょうから、最終決断をする個人がどれだけ自己の生命力を信じるかにかかっているということになりますので、信仰がますます大切になってくるようです。
川上 真理雄 拝

投稿: Mario | 2006年12月18日 02:05

川上さん、

 アメリカからのレポート、ありがとうございます。

 この問題は男である私には「実感」という点でよく分からないことがあります。一部では「男にも更年期障害がある」などと言いますが……。あなたは、いかがですか?(笑)

投稿: 谷口 | 2006年12月18日 13:11

谷口 雅宣 先生:

>一部では「男にも更年期障害がある」などと言いますが……。
>あなたは、いかがですか?(笑)

感情的になることはあっても、それは10代からのことで更年期と関係するかどうか・・・。目まいや急激に動悸が速くなるなんてのも、一日なにも食べなかったりするとあることもありますが・・・。何とも判断できない障害ですから、生涯関係ないかもしれません。

川上 真理雄 拝

投稿: Mario | 2006年12月19日 07:02

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