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2006年12月11日

「自然エネルギー立国」を目指せ

 昨日の本欄では、自然エネルギーのもっと積極的な導入を求めたが、12月8日の『産経新聞』は、経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の総合部会が、今後10年の日本の資源エネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の改定案を決定したことを伝えている。それによると、「エネルギー安全保障を重視し、資源確保に向けた資源外交や原子力発電推進などで国が積極的に関与する必要性を打ち出した」という。原文を見ていないので全貌は分からないが、記事を読んだ限りでは「自然エネルギーの利用」のことは何も書かれていない。その代り、「化石燃料の安定調達」や「原子力発電の推進」といった新味のない従来通りの政策が目立つのが気になる。イギリス政府が最近出した『スターン報告書』(10月31日11月25日の本欄参照)が、「今後10年間で低炭素の地球経済(low-carbon global economy)へ転換しなければ重大な経済損失を招く」と警告したのとは、大変な違いを感じさせる。
 
 同紙は「新計画が示した資源戦略」と題して、7項目を挙げている:①原子力発電推進のため米国などと協調、②ウラン資源確保に向けた資源外交の展開、③石炭産出国との関係強化と供給地の拡大、④経済連携協定などを活用した資源外交、⑤公的資金を通じて民間の資源取引を支援、⑥石油やLPガス備蓄での緊急対応を充実、⑦アジア諸国との省エネ・環境技術協力。同部会委員の鳥居泰彦・慶応義塾学事顧問の言によると、この新計画案は「原子力立国を明確に打ち出している」のだそうだ。温暖化ガス削減の問題は、原子力発電への重点シフトと、発展を続けるアジア諸国への環境技術協力で対応しようというのだろうが、自然エネルギーを重視しない政策には問題が多い。
 
「原子力立国」という考え方に対しては、私はすでに6月24日の本欄で反対の理由を明らかにしている。しかし、今回の新計画案では、原発の立地地域の住民との交渉等を従来のように電力会社にやらせるのではなく、「国が前面に出て説明責任を果たす」と明記するなど、“国家プロジェクト”並に原発の増設と更新を進めていくべきことを提言している。独占企業である電力会社と国との結びつきは、今後ますます強くなっていくだろう。

 もう一つの問題は、化石燃料の調達のために海外との結びつきを強めていく姿勢を明らかにしている点だ。中東地域の石油に依存しすぎている現状から、調達先を増やすことは「リスク分散」という意味では状況の改善ではある。しかし、「ロシアやカスピ海周辺地域、アフリカ、中南米などとの関係強化も打ち出しエネルギー供給地の多様化を進める方針」とあるから、紛争の火種を抱えた国々への関与も考えているのだろう。本当の意味で「リスク分散」になるのか、それとも「リスクの多様化」になるのかは判断が難しい。また、日本の投資先で紛争が起こった場合、“国益”を守るために国がどこまで関与するか(例えば、軍隊を送るのか?)という問題も考えねばならない。中東への依存度が高かった従来は、その問題は米軍1国への依存ですんでいた。しかし、今後は、アメリカの影響力の少ない地域(例えばロシアや中南米)への関与を(新計画においては)“国策”として強めていくのである。

 私は、日本が歴史的に資源外交の経験が少ないことと、かつては大失敗していることを憂慮している。戦後の中東への依存は、アメリカの保護なくしてありえなかったから「資源外交」と呼べるほどのものではない。戦前はご存じの通り、満洲で失敗し、インドシナで世界大戦へと突き進んだ。その大失敗から学習して賢くなっていればいいのだが、自民党の政治家の中には学習が足りない人もいるようである。今後、憲法改正をして軍備を増強し、「資源外交を展開するぞ!」と言っても、海外諸国がはたして「歓迎します」と言うだろうか? 私は、そういう“リスク拡大”の道を突き進むよりは、他からできるだけ奪わない「自然エネルギー立国」の道を選択すべきだと信じている。日本にはその技術も、資本もある。足りないのは、政治的意思だけなのだ。

谷口 雅宣

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