環境意識は向上している (2)
前回、本欄では国連の食糧農業機関(FAO)が肉食を環境破壊の主要原因だと指摘したことを伝えたが、世界最大の温室効果ガス排出国であるアメリカでも、環境保全への取り組みを予感させる研究が政府レベルでも行われているようだ。その1つは、アメリカのエネルギー省が「次世代ハイブリッド車」の省エネ効果を試算し、発表したことだ。それによると、アメリカ国内を走る2億2千万台の車すべてがこの新型車に置き換わった場合、同国の現在の発電・送電能力のままで84%の車が普通に走れるというのである。同省の太平洋北西部国立研究所(Pacific Northwest National Laboratory)が12月11日付で発表した。
次世代ハイブリッド車については本欄で何回も紹介してきた(例えば今年2月3日、6月14日、同25日)が、簡単に言うと、現在のガソリンと電気で動くハイブリッド車に2台目の蓄電池を搭載し、家庭の電源から充電可能にしたものである。この新型車の燃費効率はガソリン「1リットル当たり40km以上」などとも言われるように、非常によい。英語で plug-in hybrid electric vehicles (PHEV、充電式ハイブリッド車) と呼ばれ、アメリカでは「プリウス+」などというトヨタ車を改造した試作品がすでに走っている。
ハイブリッド車に家庭用電源からの充電機能を付加しただけで燃費効率が飛躍的に伸びるのは、夜間の電力を充電に使うと想定しているからだ。現在の発電方式では、電気は需要のピークを想定した量だけつくられている。この想定ピークは非常時を考えて実際の需要より多く見積もられるから、通常は余剰電力が発生し、その分は使われないまま消えていく。つまり、一種の“垂れ流し”方式だ。それでも、夜間の電力需要は昼間の需要より相当少ないため、安価である。次世代ハイブリッド車が登場すれば、ほとんどのユーザーは電力の安い夜間に車を充電するだろうから、「全国の車がすべて充電する」ときが夜間の需要の想定ピークとなる。その需要に応えられるだけの電力設備がすでに存在しているかどうかを、今回の研究では検証したのである。
その結果、中西部と東部の州では、すべての車の充電が可能な発電能力と送電設備がすでに存在するが、西部の、特に太平洋北東部に面した州(オレゴン、ワシントン州など)では、水力発電所の容量が限界に近く、雨や雪は人工的に降らせることができないため、供給能力に不安が残るという結果が出た。しかし、それでも現有の設備で84%の車の充電が可能という試算が出たのである。このことは、輸入された石油の73%をガソリンとして使っているアメリカでは、大きな意味をもっている。なぜなら、現在の自動車が次世代ハイブリッド車にすべて入れ替わった暁には、アメリカ経済は中東からの石油の輸入なしに、国内の石炭火力発電所と天然ガス発電所などでやっていけることになるからだ。この場合、大気汚染が短期的には進んでも、長期的には自動車はほとんど電気で走ることになり、旧式発電所は効率のよい新型に入れ替わっていくので、温室効果ガスの排出量も減少する、と報告書は結論している。
環境運動家のレスター・ブラウン氏(Lester R. Brown)は、今年初めに出した『Plan B 2.0: Rescuing a Planet Under Stress and a Civilization in Trouble』(New York: Earth Policy Institute, 2006)の中で、すでにこのことを訴えているが、今回、アメリカ政府自身の研究が、ブラウン氏の主張の正しさを確認したことになる。
ところで、わが国ではなぜこのような前向きの取り組みや研究が話題にならないのだろう? アメリカでこのように話題になり、改造車まで作られ、今回のような政府の研究対象になっているハイブリッド車の技術は、日本の技術である。最近のトヨタ自動車は、ハイブリッド車を含めた新型車を真っ先にアメリカで発表する。環境技術はアメリカで成功させてから日本へ持ってくるつもりなのか、と疑いたくなる。海外の化石燃料に依存する経済が、環境面だけでなく安全保障面からも望ましくないことは、日本もアメリカも同じである。この方面での日本政府や大企業の取り組みが消極的な理由が、私にはよく理解できない。
谷口 雅宣
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