« バードストライク | トップページ | ガンをつくる幹細胞 »

2006年12月15日

日本の犯罪は減っている (2)

 毎年、年の瀬が近づいてくると、その年の犯罪統計が発表されるようになる。とはいっても、最終的な数字は年が明けなければ分からないから、“速報値”として1~11月までの統計が発表されるのである。昨年、本欄では11月10日に2005年版の「犯罪白書」(2004年の統計)の報道について書き、新聞各社の不ぞろいの報道がなぜ起こるかを推測した。それは、現代のメディアには「悪いニュースを探す」というクセがあるから、犯罪が減っている年には、「各社は膨大な犯罪統計の中から、それぞれの視点で“悪い現象”を探して書く」ために、まちまちな報道になりやすい、という推測だった。

 今年も、12月15日の紙面で似たような現象が起こった。私はすべての新聞を読んだわけではないが、『産経』『日経』『毎日』『朝日』『読売』の間に顕著な違いが現れたのである。

 3紙の見出しを並べよう--
 『産経』……①ピッキング盗3割増 今年の都内の空き巣被害
        中国人窃盗団再び暗躍傾向 手口模倣も拡大
       ②「キレやすい30代」くっきり? 1~11月の刑法犯
        警察庁まとめ 街頭暴行1万7271件、16.2%増
 『日経』……刑法犯 4年連続減へ 今年検挙率、凶悪犯など低く
 『毎日』……刑法犯4年連続減少 検挙率、7年ぶり30%台
 『朝日』……
 『読売』……
 
 『朝日』『読売』のところに何も書かなかったのは、犯罪統計の記事がまったくなかったからである。『産経』に①と②があるのは、犯罪統計の記事が2本あったという意味である。『産経』と『朝日』は政治問題に関しては“犬猿の仲”ではあるが、『産経』は犯罪の大きな傾向は見出しに取らず、一部の「増加」している犯罪のことだけを2つ選んで伝え、『朝日』『読売』は何も書かない。つまり「よいニュースはニュースでない」という姿勢では、3紙は見事に一致している。これに対し、『日経』『毎日』は実にまっとうである。全国紙らしく、大きな傾向をズバリと見出しで表現している。そうなのだ、刑法犯の認知件数は4年連続で減少しているのだ。日本は、先進国の中ではピカ1の凶悪犯罪の少ない国である。その国でさらに犯罪は減っているのだから、私は大声で読者にそれを伝えたい。
 
 もっとも『日経』の記事は共同通信の配信かもしれない。だとすると、他の地方紙にも同じ記事は掲載されている可能性があるから、読者はこのニュースをすでにご存じかもしれない。しかし、一応事実関係だけをはっきりさせておこう。この記事(と『毎日』)によると、今年1~11月の刑法犯認知件数は189万4677件で、前年同期より9.9%も減っている。そして、2002年以来「4年連続の減少が確実」というのである。検挙率も7年ぶりに30%台を回復し、前年比2.6ポイント上昇の31.5%に達した。犯罪別の認知件数では、「振り込め詐欺やネットオークション詐欺の多発で4年連続で増えていた詐欺が減少に転じ、同13.5%減の6万8201件に。街頭犯罪も、路上強盗、自動車盗、車上狙いなどが軒並み減少した」というのだ。

 ところで、上の『産経』の①の記事の見出しは5段抜きの大きさである。これを読んだ読者は、「悪いニュース」ばかりがこの記事にあると予測しがちだろうが、本文には必ずしもそうでないことが書いてある。それは、都内の空き巣や事務所荒らしなどの「侵入盗」の被害は、ピークの2000年(3万9502件)以来減りつづけており、昨年は1万9278件となったため、6年間で半分になった計算になること。その後に、ピッキング盗のことが出てくるのである。「看板に偽りあり」と言わねばならない。

 さらに②の見出しを見ても、そこには「悪いことずくめ」の記事があるような印象を生む。これは2段組みの記事で、しかし本文ではちゃんと認知件数の「9.9%減」のことも「4年連続の減少」であることも、「検挙率が7年ぶりに3割台に回復」したことも書いてあるのである。さらに、いわゆる“凶悪犯”の数字(認知件数)を見ても、殺人(1203件)が前年同期比で6.6%減、強盗(4699件)が同14.6%減、略取・誘拐(182件)が26.3%減っている。私だったら、見出しは「日本、ますます住みよい社会に」とするのだが……。
 
谷口 雅宣

|

« バードストライク | トップページ | ガンをつくる幹細胞 »

コメント

先生のお書きになった犯罪に対する歪んだ報道について、先日読みました心理学者の福島章先生の『子どもの脳が危ない』(PHP新書)にも指摘されていたことを思い出しました。「何か重大で衝撃的な犯罪が起こると、マスメディアはよく『前代未聞の犯罪』という言葉を使い…」と書き、「最近の青少年は凶悪化した」「社会が悪い、親のしつけがなっていない」と分析するが、神戸の小学生連続殺傷事件のような特異な犯罪でも過去に似た事件が起きている、と述べています。
福島氏は、ただこうした事件が最近頻発する背後には、不妊治療薬の女性ホルモンや、ダイオキシンなどの環境ホルモンによる胎児・乳児期への影響があると分析しています。まさに環境問題は凶悪な青少年犯罪にもその影響があるというのです。
センセーショナルな部分だけを引用すると、批判されるべきマスコミと同じになってしまいますので、福島氏は「私はもはや取り返しがつかないとは思わない」とも述べ、光明面を指摘していることも、述べておきたいと思います。

投稿: 田原康邦 | 2006年12月16日 18:51

田原さん、

 その本、読んだことがあります。環境ホルモンが子供の脳を冒す……というような内容だったと思います。しかし、それと同時に親のシツケの問題も存在すると思いますし、テレビ漬けやゲーム漬けも問題ですね。

投稿: 谷口 | 2006年12月18日 13:06

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日本の犯罪は減っている (2):

« バードストライク | トップページ | ガンをつくる幹細胞 »