« オーストラリアは今、 | トップページ | 日本の政策はオカシクないか? »

2006年11月11日

『秘境』について

 かつて『光の泉』誌に連載していた「秘境」という小説が、このたび単行本になって日本教文社から発売された。奥付の日付は11月20だが、すでに配本ずみで読者は入手できるはずだ。290ページある本だから、もっと分厚くなると予想していたが、できたものを手に取ってみると案外薄い。長編の大作を書く作家で、400ページもある本の上下2巻組などを出す人がよくいるが、私にはそんなものを書く余裕もエネルギーもないだろう。今回初めて長編小説を書いてみて、そのことがよく分かった。また、小説の登場人物が“勝手に動く”という体験を、長編を書いて味わった。これは短篇にはない恐ろしさだが、反面、スリリングな面白さもある。恐ろしいのは、登場人物が当初の予定外の言動をして物語を破綻させる危険があること。面白いのは、そういう予想できない言動の中にこそ、真実が隠れているということだ。

 この小説のプロットを思いついたのは、ジョディー・フォスター主演の『Nell』(1994年)という映画のビデオ版を見ていた時だ。この映画は、アメリカ南部の山奥で独りで住んでいた老女が死んだというので、その家へ行った医師が、そこに娘が1人いることを発見するところから始まる。医師が驚いたのは、この娘が現代文明にまったく触れたことがなく、奇矯な行動をすることだった。そこで医師と大学の研究者が協力して、この娘を現代へ引きもどそうとする--そんな話だ。自然の中で不便だが自由に生きる人と、文明社会の中で、便利だが約束事に縛られて生きる人間とが、鮮やかな対照をなしていた。また、この映画は実話にもとづいているとも聞いた。その舞台を、現代日本へ移すとどうなるか? でき上がった小説は、『Nell』とはずいぶん違う雰囲気になったと思う。また、映画とは異なり、自然と人間との関係を正面から扱うことになった。

 小説の主舞台は、山形県の鶴岡市近辺である。一度も行ったことのない土地を舞台に選んだ私は、無謀だったかもしれない。取材のために2~3度現地を訪れ、この土地の生んだ作家、藤沢周平を読むことになった。冬に訪れたときは、自分の想像以上に厳しい土地であることを思い知った。雪が深くて、とても“現場”へ行ける状況ではない。そこでやむを得ず、写真を何枚も撮った。その中の1枚をもとにして、本のカバーになった絵を描いた。この絵は、今年の「聖光展」(生長の家芸術家連盟美術展)にも出したから、ご覧いただいた読者もいるだろう。雪に輝く月山を遠望した絵だ。小説の主要な物語は、夏の数カ月間で終ってしまうが、この土地の人々は厳しい冬も過ごさねばならないということを言外に示したかった。

 小説を書く上で難しかったことの1つは、方言をどうするかということだった。私はまったく庄内弁ができないから、庄内出身の知人に1から10まで添削をお願いして、会話部分を作った。その点では、この貴重な助っ人がいなければ、秘境の少女は小説の中で命を得なかったといえる。主人公は30代の新聞記者だが、この男とライバル社の記者との取材合戦の中に、自然に対する2つの考え方を対照させようとした。現代の日本人は、この2つの相矛盾する考え方の双方を心中にもっているはずだ。そして、時と場合によって、自分の都合のいいように2つを使い分けている。それらの調和的な共存が、地球温暖化時代の人間の生き方を示してくれる……などと期待している。が、実際の作品ではそうはうまくいかず、主人公はある重大な決断をしなければならなくなった。
 
『光の泉』誌での連載では、主人公がこの決断をしたところで物語は終っていた。しかし、このエンディングがあまりに唐突なのと、余韻と将来への期待がほしいという理由で、最後の1章を書き加えた。狙い通りになっているかどうか分からないが、ここには、新聞記者をやめてから、今はブロッガーをやっている私自身への励ましの気持も込められている。

 本書について、読者からのフィードバックをいただければ有難い。本欄にコメントをつけても、「本もよろしく」欄へのコメントでも、また私へのメールでも歓迎します。

谷口 雅宣

|

« オーストラリアは今、 | トップページ | 日本の政策はオカシクないか? »

コメント

谷口 雅宣 先生

初の長編小説「秘境」のご出版、誠におめでとうざいます!
「光の泉」での連載終了後、単行本での出版を心待ちにしておりました。青森でも「秘境」の隠れファンがいて、みなさん喜ぶと思います。

実は…、私は最終回を拝読して少しスッキリしないものを感じていました。「記者会見場に行かず立ち去ったサヨと新聞記者はその後、どうなったのだろう…」と。大抵、物語を読み終えた後は、主人公のその後を想像し、自分なりのストーリーを考えて楽しんでいるのですが、今回は色々と想像力を働かせてみましたが、選択肢が多く、ハッキリとしたストーリーを描けずにいました。  ところが…!
今回の単行本には続編があると、日本教文社の辻常務から事前にお聞きし、小躍りして喜びました!まだ、ご本は青森には届いておりませんが、届きましたら、早速、様々な機会を通じて宣伝するとともに、会員の読後の感想を先生にお届けしたいと思います。
 PS 昨日は青森市内で初雪が舞いました。愈々冬の訪れです(汗) 
 

投稿: 竹村 正広 | 2006年11月13日 12:05

竹村さん、

 コメント、どうもありがとう。
 貴方が満足いくような最終章になっているかどうか、あまり自信がありません。

投稿: 谷口 | 2006年11月13日 18:04

合掌。
いつか、岡山弁が必要になったときは
いつでも協力させてください♪(*・・*)ポッ

投稿: よりたまり | 2006年11月13日 18:16

合掌。
↑自己紹介もせず、失礼いたしました。
東京第一教区のヤングミセスです。
長崎から東京に来て、早いもので丸3年がたちました。

毎日楽しみに拝見しています。

投稿: よりたまり | 2006年11月13日 18:19

谷口雅宣先生

私のコメントは、後から読むととても上ずった内容となってしまっていて、気恥ずかしく感じておりました(泣)。

今年の4月より私も「東北人」となりましたので、東北を舞台とした本作品からしっかりと学ばせていただき、人々にお伝えしてまいります。

投稿: 竹村 正広 | 2006年11月13日 21:23

竹村さん、

>>今年の4月より私も「東北人」となりましたので、東北を舞台とした
本作品からしっかりと学ばせていただき、人々にお伝えしてまいります<<

 あのぉ……小説ですから、気楽に読んでいただければいいのです。そして、少しだけ考えてください。
 

投稿: 谷口 | 2006年11月14日 12:40

よりたまり さん、

>> いつか、岡山弁が必要になったときは
いつでも協力させてください <<

 長崎の人が岡山弁、ですか? フーム……なんとなく分かります。
ご好意、ありがたく頂戴します。ダンナさんに、よろしく。

投稿: 谷口 | 2006年11月14日 12:41

谷口 雅宣 先生
合掌 ありがとうございます
いつも、素晴らしいブログを楽しみに読ませて頂いております。
私は福岡教区のヤングミセスです。今、世の中で起こっている事柄をどのようにとらえ考えていくべきかをわかりやすくブログでご紹介下さり、主婦同士の会話の中、子供達や主人との会話の中でとても参考になっております。この記事には関係ないことですが、この場をおかりして心からお礼申し上げます。長編小説「秘境」是非、購入して拝読させて頂きます。

投稿: きょん | 2006年11月14日 16:35

きょんさん、

 コメント、どうも有難う。お役に立てて嬉しいです。

投稿: 谷口 | 2006年11月14日 17:45

谷口 雅宣 先生

先生が初の長編小説を出版されるというので、ちょっと気合が入りすぎてしまいました…。

青森から八戸に向かう途中にある八甲田の山々と、物語の情景を重ね合わせながら、気楽に拝読させていただきます。

ありがとうございました!

投稿: 竹村 正広 | 2006年11月14日 18:04

谷口雅宣先生

長編小説の ご出版おめでとうございます!!本当に心から嬉しいです。

愛知県にきて4年がすぎました。先生の短編小説を友人たちと何度も読みました。また トムハートマン氏の小説。 翻訳してくださいました「叡智の学校」も 宗派を超えて 人種をこえて喜んで紹介できました。 

失われていく日本のあたたかい 方言も無理して残さなくても 小説や ドラマ 映画 で残ります。パロデイや 狂言 人形劇 ミュージカル オペラ 童話 舞踊 漫画。。。 多様性のある 本物の平和運動を 心から 祝福します。 先生の小説も いろんな国の人たちに読まれますように。楽しみにしています。夢の扉を開いた!そんな気持ちになりました。          2006年11月15日 亀田 文   

投稿: 亀田 文 | 2006年11月15日 21:31

亀田さん、

 ご声援、ありがとうございます。

>> 先生の小説も いろんな国の人たちに読まれますように

 そうなればいいですが……しかし、方言の翻訳はむずかしいですね(笑)

投稿: 谷口 | 2006年11月17日 13:01

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/91698/12660966

この記事へのトラックバック一覧です: 『秘境』について:

« オーストラリアは今、 | トップページ | 日本の政策はオカシクないか? »