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2006年11月 6日

バイオエタノールに問題あり

 10月31日の本欄で、イギリス政府の地球温暖化に対する深刻な予測について書いたが、日本ではこの話はあまり話題にならず、とても残念だ。安倍新政権は、北朝鮮のことばかり気にしているようで、“国益”を超えた問題については対応の仕方が分からないようにも思える。バイオエタノールの利用には意欲を示したそうだが、どれだけ本気か不明である。11月2日の『産経新聞』によると、安倍首相は1日、松岡農水相に対してバイオエタノールの生産目標「を600万 kl」として、増産に必要な態勢の整備を指示したという。この量は、国内の年間ガソリン消費量の1割に相当するらしい。が、現在の生産量はわずか「30 kl」で、農水省の平成2007年度予算の概算要求には、2010年度の生産目標を「5万 kl以上」として計算した額(106億円)しか含まれていない。これを一挙に120倍に引き上げようとしているのだろうか?

 自動車業界では、しかしその準備はすでに整っているらしい。6日付の『日本経済新聞』は、トヨタ自動車がエタノール対応の小型トラックを2008年に北米で生産・販売することを伝えているが、この記事には「トヨタはすでに全ガソリンエンジンで、エタノールの混合比率が10%までの燃料を使える体制を整えた」と書いてある。つまり、トヨタの新車は日本で販売しているものも皆、すでに「E-10」対応だということだろう。だから、安倍首相の今回の指示は業界の対応を見てから行なわれたのであって、“政治指導型”とは言いがたい。まあ、それでも当面の温暖化対策としては歓迎したい。

 しかし、本欄で何回も書いているように、現在考えられているバイオエタノールは、トウモロコシやサトウキビなどの作物(人間の食用)を主原料とするのだから、中・長期的には食糧問題を深刻化させる危険性があることを忘れてはならない。つまり、「自動車と人間とが農地を奪い合う」という関係が生じるのである。
 
 このことは、レスター・ブラウン氏が主宰するアースポリシー研究所(Earth Policy Institute)が3日付で発表したニュースレターに、「現在の問題」として書かれている。それによると、今年の世界の穀物の収穫量は19億6700万トンと推定されるが、今後1年間に世界で消費される穀物の推定量は20億4000万トンであり、7300万トン(4%弱)不足するそうだ。また、過去7年間のうち6年間、世界の穀物生産量は消費量に比べて“赤字”だったため、世界の穀物在庫は減少しつづけており、現在は57日分しか残っていないという。この数字は、過去34年間で最低だそうだ。
 
 その中で、トウモロコシなどの穀物が急速に燃料へと転換されている。2000年以来、世界の穀物消費は平均して毎年3100万トンずつ増えており、このうち燃料として消費される穀物の量は毎年2400万トン近く増えている。自動車燃料用のエタノール生産に使われる穀物は、アメリカ1国だけで毎年平均700万トン近く増え続けている。その内訳を見ると、2001年には200万トンだったものが2006年は1400万トンと、最近の急増ぶりが目立つ。
 
 ブラウン氏によると、このアメリカ国内の“エタノール・ブーム”は、政府の政策転換の効果ではなくて、石油の高騰によってバイオエタノールの価格競争力がついたからだという。これにより現在、トウモロコシを燃料に転換する工場の新設・増設が続いている。『The World Ethanol and Biofuels reports』(世界エタノール、バイオ燃料レポート)によると、アメリカ国内では、昨年10月下旬から1年間で、54ものバイオエタノール製造所の建設が着工された。完成までには大体14カ月が見込まれるから、来年末までにはこれらのほとんどが操業を開始する。そうなると、アメリカのエタノール生産力は40億ガロンとなり、毎年3900万トンの穀物--そのほとんどがトウモロコシ--が燃料生産に回されることになる。

 ブラウン氏は、これらのデータや今後のエタノール製造所の新設を含めて考慮すると、世界の穀物在庫を減少させずに来年の穀物需要に応えるためには、世界全体で「1億3600万トン」の穀物の増産が必要であるとしている。ところが、世界の穀物生産量は2000年以降、毎年2000万トンぐらいしか増えていないのである。昨今のような異常気象が続く中で、急激な穀物の増産はほとんど考えられない。したがって来年以降、世界の穀物価格の高騰が予測されるのである。

 穀物価格の上昇は、途上国の貧しい人々の生活に直接影響する。先進国の我々の乗る車が彼らの食糧を奪う、という関係は決して好ましいものではない。温暖化対策にはそういう視点が欠かせないと思う。
 
谷口 雅宣

【参考文献】

詳しいデータは、ここにある。

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コメント

 今は、新しい産業革命の時代である。新しい産業革命の時代が既に到来しているのであるという認識を全ての人々(あるいはできるだけ多くの人々)がもって進んでゆけば良いと思います。
 地球温暖化防止のためのバイオエタノールの利用促進・省エネルギーの推進・その他等の施策は決して悪くはないのですが、それを日々実行する人々は、自発的にそれを行うのでは無く半強制的にやらされているという認識を持つ人が多いのではないかと思われます。
 その思いを払拭するには、皆が注目すると思われるキャッチフレーズをつけて、皆が関心を持つようにすべきと思います。
 それが、「新しい産業革命の時代」ということです。
 そして、地球温暖化防止のための様々な行動を執ることがウレシイ・
楽しい・魅力があると思うようになれば良いと思います。

投稿: 志村 宗春 | 2006年11月 8日 15:55

志村さん、

>>「新しい産業革命の時代」ということです。
 そして、地球温暖化防止のための様々な行動を執ることがウレシイ・
楽しい・魅力があると思うようになれば良いと思います。<<

 その通りだと思います。レスター・ブラウン氏の本には、そういう積極的な文明評価が含まれているので、読んでいて勇気が出てきます。

投稿: 谷口 | 2006年11月 9日 21:47

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» エタノール・バブル? [のんだくれてすまん。]
トウモロコシ急騰に業界悲鳴 米でエタノール需要急増 トウモロコシの価格が急騰しているようだね。 米国でエタノール需要急増との事です。 やっぱりバイオエタノールの環境への影響の少なさと、石油価格の高騰で石油資源の枯渇に対する危機意識が高まってきたことが原因でしょうね。 これからしばらくは値が上がっていくのでしょう。 石油に代わる燃料としての地位が確立されれれば値は高止まりするのでしょうが・・・どうなんだろうね? 代替燃料の研究はいまかなり盛んみたいだし、バイオエタノールに代わる... [続きを読む]

受信: 2006年11月 8日 13:03

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