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2006年11月 9日

オーストラリアは今、

 アメリカの中間選挙でブッシュ大統領の共和党が大敗したことで、世界に新しい動きが出る可能性が生まれている。私は本欄などを通して、イラク戦争を含むブッシュ氏の対テロ戦争や地球環境問題の軽視などに苦言を呈してきたが、これほどハッキリ勝敗が決するとは予想しなかった。何か、かわいそうな気さえする。アメリカのイラク侵攻を支持してきたイギリスのブレア政権も今、国内からの猛烈な批判の矢面に立っている。それに引きかえ、日本ではブッシュ氏を全面的に応援した小泉政権が交替したことや、北朝鮮の核実験のおかげで、与党の責任問題はウヤムヤになってしまった。政治とは不思議なものである。

 ブッシュ氏を積極的に応援したもう1つの国は、オーストラリアである。この国は、かつてインドネシアのバリ島で起きた外国人対象のテロで、最も大きな被害を受けた国だから、対テロ戦争に協力する気持はよく分かる。しかし、京都議定書に参加しないなど、地球環境問題への消極的な姿勢の理由は、よく分からなかった。ところがその国で今、環境政策を見直そうとする機運が盛り上がりつつあるようだ。その最大の理由は、旱魃による被害らしい。この国はこれから夏を迎えるが、4年目の旱魃は国の経済に深刻な影響を与えている。

 11月8日付の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、最近出された同国農業資源経済局(Bureau of Agricultural and Resource Economics)の報告書は、この国の農地の半分以上は「旱魃被害地」に指定されており、同国の3大作物である小麦、大麦、トウモロコシの収獲量は、今年は60%以上減少する見込みだというのである。このため、同国政府は110万豪ドル(約1億円)を農家に支援することをすでに発表しており、これで4年間の農家への補助金総額は2,700億円に達するという。補助金の増加よりさらに明らかな変化は、豪政府の地球温暖化に対する考え方だという。

 この件についての豪政府の従来の態度は、ブッシュ氏と同様に「人間の活動が温暖化を引き起こしているかどうか疑わしい」というものだった。また、中国やインドに排出削減の義務がない議定書には実効性がないとして、署名を拒否してきた。これに加えて、同国は化石燃料--特に石炭--の大口消費国であると同時に大口輸出国でもあるから、議定書への署名は経済発展を阻害すると考えていたのである。
 
 ところが、シドニーに本部を置くローウィー国際政策研究所(Lowy Institute for International Policy)の最近の調査では、豪国民は、今日の重要な脅威の第3位(1位はテロ、2位は核拡散)に地球温暖化を挙げており、調査に回答した人の68%は、この問題に対して「相当なコストが見込まれても、直ちに問題解決に取り組むべきだ」との考えをもっていることが明らかになっている。これに押されて、豪政府も従来の立場から温暖化対策へのシフトを始め、風力発電施設の認可や太陽光発電所の増設に力を入れるようになり、炭素の排出権取引にも関心をもちだしたという。

 オーストラリアの旱魃は、世界経済にも間接的な影響を与えている。世界の小麦の価格は最近、10年ぶりの高値をつけ、トウモロコシの値段も上がり続けている。これは、6日の本欄で書いたように、世界のトウモロコシの7割を生産しているアメリカ国内で、バイオ燃料への転換需要が続いているからだ。ちょうどその時期に、オーストラリア産のトウモロコシの半分以上が旱魃の被害で失われることが予測されているのである。穀物価格の上昇は、途上国の貧しい人々にとって残酷な影響を与えるのはもちろんだが、先進国の経済にとっても物価上昇による実質所得の減少を引き起こしかねない。穀物はパンや米の形で消費されるだけでなく、家畜や養殖魚の生産にも大量に使われる。コーンフレーク、牛乳、チーズ、ハム、牛肉、豚肉、ひき肉、魚肉、アイスクリーム、ヨーグルトなど、家庭の冷蔵庫に納められた食品のほとんどは、間接的に穀物から作られているのだ。

 地球温暖化による経済的損失は、すでに無視できない段階に達しているのである。
 
谷口 雅宣

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コメント

合掌
私は、当初に副総裁先生の講習会が受け取れずに
迷いました。
信仰の基盤と、社会観察は両道を一につながると
思います。
これからも、誤解を受けることも有ると思います
が、大丈夫でしょう。再拝。

投稿: 藤岡  | 2006年11月11日 09:19

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