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2006年10月22日

人口統計の“よいニュース”

 厚生労働省の人口動態統計の速報が発表され、新聞各社はその数字の中から“ニュース”を探して伝えてくれているが、今年は“よいニュース”がいくつもあるようで喜ばしい。私はかねてから本欄などで、マスメディアの“悪事肥大化効果”を批判してきたから、それを読んだ関係者が報道姿勢を正してくれたのか、と疑うほどである。見出しを羅列してみると……
 ①自殺、年3万人下回る  (『朝日』10月21日)
 ②出生数 7ヵ月連続増加 (『朝日』10月21日)
 ③人工妊娠中絶 最少に  (『日経』10月21日)

 子どもの自殺が問題になっているが、自殺そのものは昨年8月以来ずっと減少し続けているのだ。上記の『朝日』の記事によると、日本人の国内での年間の自殺者数(その月を含む過去1年間の自殺者数)は2003年1月から3万人を超えていたが、昨年8月以来減少傾向が続いており、今年の4月には2万9808人となってついに3万人を切り、5月はさらに減って2万9454人になった。この傾向に対して、内閣府の自殺対策推進準備室は「経済状態の好転により経済的理由で死を選ぶ人が減っている」と推測しており、厚労省の精神・障害保健課では「減少傾向はまだわずかだから、今後の推移を慎重に見守る」と言っているらしい。

「生まれる子どもの数が増えている」という話は、少子化が社会問題になっている昨今の状況下では“よいニュース”に違いない。上記の『朝日』の記事によると、今年8月に生まれた子どもの数は9万8276人で、昨年の同じ月より3001人多く、これによって今年は7ヵ月連続で出生数が前年同月数を上回ったことになるという。そして、このままの傾向が続けば、今年の合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数)は過去最低だった昨年の数値(1.25)を上回る可能性が高いという。つまり、「少子化のピークは過ぎた」と考えていいかもしれないのだ。

 22日付の『島根日日新聞』には、恐らく共同電だろうが、今年1~5月の出生数の増減を都道府県別に比較した記事が載っていて興味深い。それによると、出生数は九州と山陰で前年同期比を上回った一方、東北は前年同期に比べて減少したという。具体的には、出生数の増加率が5%を超えた県は島根(7.5%)を筆頭に、宮崎、大分、鳥取、和歌山、岡山、徳島だった。逆に、出生数が前年同期比で減少したのは岩手(5.1%)を筆頭に、青森、宮城、山形、福島、栃木、群馬、大阪、広島、愛媛、高知だった。

 人工妊娠中絶の統計は人口動態統計の関係があるかどうか定かでないが、上記の『日経』の記事にあるグラフを見ると、1955年以来の50年間、一貫して減少し続けている。だからこの話は、「特異なこと」「珍しいこと」が報道価値ありとする今のメディアの判断基準からは、「ニュースではない」はずの情報である。にもかかわらず、『朝日』は「過去最少」という言葉を使ってニュース記事に仕立てた。もし「過去最少」がニュースならば、昨年も一昨年もニュースだったはずだが、昨年も一昨年もこのことは恐らく(私の記憶しているかぎり)報道されていない。だから、「なぜ今年は?」という疑問が残るのである。生長の家の「人生の光明面を見るべし」との教えから言えば、こういう報道はもちろん諸手を上げて歓迎する。
 
 具体的な数字では、05年度の中絶件数は28万9127件で、前年度より1万2546件(4.2%)減少し、記録をとり始めた1955年以降で初めて30万軒を割った。とりわけ、問題と思われる20歳未満の中絶件数は、前年度より13.3%減って3万0119件だったことは注目に値する。年代別で中絶件数が最も多いのは20代前半の約7万2千件で、全体の4分の1に当る。実施率が最も高いのもこの年代で「19.6人」という。結婚の高年齢化を考えると、未婚者の中絶が多いと思われる。この数字は、未婚者の50人に1人が中絶しているとも読めるから、あまりよいニュースではないだろう。

谷口 雅宣

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