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2006年10月31日

イギリスの“厳しい警告”

 今朝のBBCニュース(現地時間、前日の午後10時放映)は、イギリス政府が発表した地球温暖化問題に関する報告書の内容をトップで報じた。それによると、「気候変動をこのまま放置しておけば毎年、世界中でGDPの5~20%が失われていく」というのである。この値は、世界大戦や世界恐慌に匹敵する経済的損害であるから、二酸化炭素排出量の削減に向かって、ただちに「勇気ある、決定的行動」(bold and decisive action)をとらなければならないとしている。

 この報告書は、英政府お抱えの著名経済学者、ニコラス・スターン氏(Nicholas Stern)が書いた700ページにおよぶもの。今日(10月31日)付の『ヘラルド・トリビューン』紙も1面でこれを取り上げていて、今すぐ、温室効果ガスの削減に向けて行動すれば毎年GDPの1%を失うだけで、経済成長と環境対策を両立させることができるが、行動しなければ「結局、経済成長を阻害することになる」という報告書の結論を報じている。BBCは、報告書の著者の名前と「厳しい」という意味の英語をかけて、「stern warning」(厳しい警告)という文字を背景に出して、このニュースを流した。

 スターン報告書は、「我々の今後10年間の活動によって、今世紀後半と来世紀にかけて、経済や社会活動が重大な混乱を引き起こされる可能性を有しており、その混乱の規模は、20世紀前半に起こった世界恐慌と世界大戦に匹敵するものである」としている。したがって、世界は炭素税、温室効果ガスの排出規制、炭素取引などの方法を使って、「低炭素の地球経済」(low-carbon global economy)へと転換していかねばならないというのである。次期首相を目指すゴードン・ブラウン氏(Gordon Brown)によると、アメリカの元副大統領で環境問題の権威でもあるアル・ゴア氏(Al Gore)が英政府のアドバイザーになり、イギリスは気候変動に対する国際的努力に指導的役割を果たすことで、「経済発展と環境保全の双方を両立させた経済」を実現するとしている。そのためブラウン氏は、ヨーロッパ全体として2020年までに炭素排出量を30%削減し、2050年までには50%削減することを提案したという。

 これらの提案はなかなか“野心的”でいいと思うが、実際のCO2排出量の数字を見ると、事態は楽観できないことがよくわかる。10月20日の本欄では、日本の2005年度のCO2排出量の速報値をお伝えした。それは、前年度より0.6%増の約13億6400万トンだった。これは京都議定書での基準年となる1990年度よりもまだ8.1%上回っているため、日本はあと「14.1%」の削減が必要なのだ。日本だけでなく、2000年以来、EU、アメリカ、カナダでも排出量は増加している。上記の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、これらの国を含めた世界40カ国の合計では、2000年に175億トンだったものが、2003年に178億トン、2004年には179億トンと増加し続けている。ロシア、中国、インドなどの新興経済国からの排出量増加が大きく関与しているのだ。

『ニューヨーク・タイムズ』紙がこのほど約50人の科学者、経済学者、エンジニア、企業家を対象に調査したところ、環境を汚さない豊かなエネルギー源の探査とその利用技術の研究がもっと積極的に、もっと真剣に行なわれないと、地球温暖化はきっと危険なレベルに突入し、エネルギー需要が盛んな国家間で紛争が起こるだろうとしている。この予測は、私が2002年に出した『今こそ自然から学ぼう--人間至上主義を超えて』(生長の家刊)に書いたこととよく似ている。私はそこで、我々が日常生活の中で人間至上主義から脱する生き方へと転換しなければ、「21世紀の地球環境は今後さらに悪化を続け、我々の子や孫の時代には、環境悪化を原因とする社会不安や地域紛争、あるいは戦争が頻発することが予見できる」(p.30)と書いた。今回の科学者らの予測は国家予算の配分を問題にし、私は人々の心の変化を問題にしているから、2つの予測は一見、食い違うように思えるかもしれない。しかし、国家予算の配分を決めるのは結局、人間(国民)の心である。人々の心(意識)を高める宗教の活動は、だから大変重要なのである。

谷口 雅宣

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先日の記事「ピークオイル・パニック〜石油生産ピークと地球温暖化の激震」で少し触れた地球温暖化の経済への影響について、最近、英国政府の新たな研究が発表された。英国政府の委託研究で、ニコラス・スターン元世界銀行チーフエコノミス トが作成した報告書「スターン・レビュー」では、地球温暖化による将来的な経済的損失は世界各国の国内総生産 (GDP)総計の約20%に上ると指摘した(毎日新聞・読売新聞)。... [続きを読む]

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