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2006年9月16日

ローマ法王の失言

 ローマ法王、ベネディクト16世が故郷のドイツに“里帰り”し、かつて自らが教えた大学で講演をした際、イスラームのジハード(聖戦)の思想を批判した言葉が、イスラーム社会で反発を招んでいる。法王は、「ジハードの思想に体現された暴力は、理性と神の意志に反する」という意味の発言をしたらしい。

 私は法王の講演の全文を読んでいないので確かなことは分からないが、9月14日付の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、法王は理性(reason)を信仰よりも重視した世俗化(secularization)がヨーロッパの社会と思想・哲学に広がりつつあることを憂慮し、このように理性を至上化するだけでは、世界の真の姿を知ることはできないし、信仰を最大の価値とする他の文化と対話することはできない、と述べたかったようだ。ところが、イスラームについて言及する際、法王は14世紀のヴィザンチン皇帝、マニュエル2世パライオロゴスの言葉--「モハンマドの教えで何か新しいものがあるとしたら、それは自分の説く教えの宣布を暴力と剣によって行うというような、悪と非人間性しか見当たらない」を引用し、暴力によるイスラームへの改宗は理性に反するものであり、したがって神の本性に反するものだ、と述べたという。

 法王の講演でイスラームに触れた部分は、段落にして3つ分の長さだったが、この箇所がメディアを介して世界中に伝わったため、イスラーム社会の怒りを買っているのだ。

 16~17日付の『ヘラルド・トリビューン』は、イスラマバード発のAFP通信の記事を掲載し、パキスタン議会が法王に対してイスラームと暴力を結びつけた発言を撤回するように、全会一致で決議したと伝えている。この決議文で、パキスタン議会は「宗教間の平和のために法王は発言を撤回すべきだ」とし、「ジハードの思想と預言者モハンマドに対する法王の侮蔑的発言は、イスラーム世界全体の感情を傷つけ、2つの宗教間に悪感情を広げる危険を生んでいる」と非難しているという。
 
 同紙はこのほか、1989年以来、インドからの分離独立を目指すカシミール地方のイスラーム武装組織がストライキを呼びかけたことや、イギリス北部の都市、ロシデールを拠点とするイスラーム組織「ラマダン基金」(Ramadan Foundation)が反対声明を出したことを報じている。同基金は声明で、「故ヨハネ・パウロ2世は、25年をかけてイスラーム社会との橋を築き、世界が抱いていたイスラーム観は間違いであり、イスラーム信仰者は平和を愛する人々だと示してきた」にもかかわらず、「現在の法王は、前任者を模範としないことに我々は落胆した」と述べているという。
 
 法王のスポークスマンであるフェデリコ・ロンバルディ師(Reverend Federico Lombardi)は、「法王は宗教による暴力に反対しただけで、イスラームの教えを尊敬している」という意味の声明文を事後に出したというが、それだけでイスラーム社会の不満が収まるとは思えない。
 
 本欄ではイスラームについて何回も触れているが、イスラームの信仰が理性とはかけ離れていると見るのは、明らかな間違いだ。8月12日の本欄でスンニ派イスラームのワッハーブ主義の考え方を説明した際、「ワッハーブ主義は(…中略…)理性を重んじるシーア派の考え方もスーフィズム(神秘主義)も敵視して、コーランその他の聖典に書かれた言葉を唯一の根拠として、公私すべての問題の解決を図ろうとするもの」と書いた。だから、シーア派のイスラームは理性を尊重しているのであり、「理性」を明確にイスラームの法源として認めている。ローマ法王がそれを知らないとは考えられず、もし見落としていたならば、それを法王のスピーチ・ライターや側近がダブルチェックできなかったのだろうか? とにかく今回の法王の失言の原因が、私には理解できないのである。

谷口 雅宣

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